Classical Music

MUSIC TOP 最近聴いたアルバム 私の好きなアルバム クラシックのレコード BACK HOME


デッカ/ロンドンのレコードレーベル・ステレオ編

デッカ/ロンドンのレコードレーベル・モノラル編へ
デッカ/ロンドンの内袋へ
アンセルメのレコードジャケットへ
クラシックのレコードへ

目次

デッカ/ロンドンレーベルのレコード

  私の愛するアンセルメ/スイスロマンドの演奏はほとんどすべてデッカ/ロンドンレーベルから発売されています.ここでは,そうしたデッカ/ロンドンのレコードレーベルについてご紹介しましょう.写真はすべて私のコレクションからのオリジナルスキャンです.
 英国デッカ社はEMIやコロムビアなどよりずっと遅く,1920年代末に登場したレコード会社ですが,SP末期の40年代後半に独自の高音質録音技術 Full Frequency Range Recording (ffrr) によって一気にシェアを拡大しました.LP時代に入るとウイーンフィルと独占録音契約を結んでクレメンス・クラウス,クナパーツブッシュ,ワルターなどの名演奏をカタログに加えるとともに,アンセルメ指揮による(当時のモノラルとしては)超高音質の録音でも定評を得ました.そのデッカがステレオ時代に入った1958年に満を持して発表したのが Full Frequency Stereo Sound (FFSS) によるレコードです.以後デジタル/CD時代に入る1980年代初頭まで,FFSSは高音質ステレオ録音の代名詞として一世を風靡したのです.
 これらのレコードは英国本国,ヨーロッパ,南アフリカやオセアニア,韓国などでは Decca(デッカ)レーベルで発売されましたが,同名のレーベル(米デッカ,現在のユニバーサル/MCAレコードの前身)が存在したアメリカと,アメリカ経由の原盤供給が普通だった日本では London (ロンドン)レーベルで発売されていました.日本では講談社系列のキングレコードが長年にわたって配給元となっていました.
 おもしろいことに,米ロンドンレコードはクラシックのレパートリーについては,英デッカによってロンドンレーベルを付けて製造されたレコードを輸入し,アメリカ製のジャケットに収めて販売していました.これは当時のカッティング・製盤技術が英国優位だったからと説明されることが多いですが,経済的な理由もあったと思われます.いずれにしても,英デッカと米ロンドンはレーベルとジャケット,番号などが違うだけで実質的にまったく同じレコードである場合が大半です.いっぽう日本ではキングレコードによる国内プレスが行なわれましたが,プレス時に使われるスタンパー(レコードの鋳型)の大部分に英国から輸入した金属原盤を使っていました.したがって,カッティングは英国盤と同じ,音質について差が出るのはレコードの盤質だけです.初期には日本プレスはノイズが多いなど問題があったようですが,やがて英国盤より高い品質を達成するようになります.以上の理由で,デッカ/ロンドンの音質を楽しむためには英国盤でも,アメリカ盤でも日本版でも基本的な違いはないといえます.
 ただし,レコードの金属原盤やスタンパーは消耗品なので,販売を続けるうちにどうしてもカッティングなどを更新する必要があります.このときに音質の変化が起こります.カッティングのもとになるマスターテープの音質が経年変化で徐々に低下するだけでなく,初期盤では真空管構成のカッティングマシンで製作されていたものが,原盤更新(リカッティング)のときにはトランジスタのカッティングマシンに変わったりすることが理由です.そのため,愛好家の間ではできるだけ初期のプレス,録音や最初の発売に近い時代のプレスほど価値があると考えられています.実際,同じレコードでもプレスの時期によって驚くほど音質が違うことは良く経験されます.
 それぞれのレコードの製造時期はカタログ番号やジャケットに示されるときもありますが,長い間同じジャケット,番号で発売されていたものでは,レーベルの模様や色などが重要な情報になります.そこで,ステレオ時代以降のデッカ/ロンドンレーベル各国盤のレーベルと製造時期について以下に説明します.デッカ/ロンドンではレーベル自体の大きさが重要な情報ですので,写真はすべて同じ縮尺に揃えてあります.

デッカ/ロンドンのレコードレーベルリスト

(一部の写真はクリックするとより大きな写真が見られます)
写真 レーベル名 解説
Decca ffss w/b Decca ffss Wideband(w/b) デッカFFSSのオリジナル.No.ではSXL2001からSXL6448前後,1958年から1970年頃までのプレスです."Full Frequency Stereophonic Sound"の文字が入った帯が太く,センターホールすぐ上まで広がっているので「ワイドバンド」と呼ばれます.レーベル色は黒,箱入り組物には紫のレーベルもあります.この中でも初期のものはレーベルの内周に円環状のへこみ(溝,groove)があり,溝のないものは no groove (n/g) といって少し価値が下がります(写真は溝あり).また,レコード番号SXL2000番台ではジャケットの裏,解説文が青色の枠で囲まれているもの(blue back border, bbb <写真>)のものがオリジナルです.ワイドバンド,溝あり,ブルーバックという3点揃ったものが真のコレクターズアイテム,英国の通販でも最低50ポンド,ものによっては100ポンド以上しますし,日本では確実に万単位です.真空管アンプによるカッティングと厚くて重い材質による柔らかくて腰のある音質は本当に魅力的です.これらの録音のCD復刻も良質なものがありますが,やはり雲泥の差です.レコードが収められた内袋も品格のあるものです<写真>(01/06/02修正,写真追加)
Decca ffss n/b Decca ffss Narrowband(n/b) 1970年代に入ってからのプレス.SXL6450付近より後はこのレーベルしかありません.レーベル全体の大きさがワイドバンドより一回り小さくなるとともに,レーベル上方の DECCAの文字に枠がつきます.そして,"Full Frequency Stereophonic Sound"の文字が入った帯が細くなってセンターホールから離れているので「ナローバンド」と呼ばれます.このレーベルのレコードはトランジスタアンプによるカッティングと信じられていますが,私は個人的にはこの定説は怪しいと思っています.しかし,薄くて軽い材質に変わったこともあり,音質は確かにワイドバンドより軽く,深みを失っていきます.また,盤質も徐々に低下して,国内版にくらべるとノイズの気になることが多かったように思います.
Decca ffss n/b white Decca ffss Narrowband White デッカのレコードにはときどき白いレーベルがあります。日本でしたら白レーベルは「見本盤」なのですが,デッカの白レーベルに見本盤であることを示す "Promotional Copy"の表示やシールがあるものは見たことがありません。写真のレコードはSXL6600,ケンペ指揮のヤナーチェク「グラゴル・ミサ」です(12/07/15追加)。
Decca ffss Holland Decca ffss Narrowband(n/b) Holland アナログ最後期,80年代後半にはデッカのクラシックレコードはすべてオランダ(ポリグラム)プレスになります.盤質は同時期のイギリスプレスより向上しましたが,薄いペラペラのレコードです.カッティングは英国で行なっているようですが,音質もそれなりです.注目すべきは,レーベルがふたたび大きくなっていることです.写真は組み物の紫レーベル(00/02/28).
Decca SKL n/b Decca SKL series Narrowband 当時のデッカはローリング・ストーンズやゼム,ジョン・メイヨールなどブルース系ロックのカタログが充実していたし,トム・ジョーンズなどのボーカル,マントバーニやフランク・チャックスフィールドなどのイージーリスニングでもヒットを放っていました.クラシックのレーベルが黒/紫なのに対し,そうしたポピュラーのレコード(SKLナンバー)は青いレーベルでした.当然青レーベルにもワイドバンド,ナローバンドがあり,ストーンズのワイドバンドは超レアなコレクターズアイテムです.写真は Blues Breakers feat. Eric Clapton のナローバンドステレオ盤のレーベルです.
German SXL Blue German SXL Blue ドイツ盤のSXL,ドイツカッティングのドイツプレス,オリジナルは黒レーベルに楕円ロゴですがこれは70年代の青レーベル角ロゴ,内周歪み補正のRoyal soundロゴがついています。内容はカラヤンVPOのドボ8,名演奏の名録音がすばらしく豊かに鳴ります(04/12/01)。
French Decca French Decca フランス盤のデッカ,60年代前半のものはSXLナンバーで出ていますがこのレコード(1967年発売の「アンセルメの音楽入門」)ではフランス独自のナンバーになっています。英米日本盤はアンセルメによる英語のナレーションですが,フランス盤はフランス語のナレーションなのがうれしいです(21/01/30)。
South Africa SXL South Africa SXL 南アフリカ盤のSXL2003,アンセルメの運命です。FFSSレーベル,内溝でマトリックスは英国カッティングのZAL-4075-1E/4076-1Eです。レーベルの紙質が艶消しのイギリス盤と違い艶があるのが特徴です。英国プレスと見紛う程の盤質ですが,レーベルにもジャケットにも「MADE IN SOUTH AFRICA」と書いてあります。いつの時代のプレスかは不明ですがマザーは初期のものだし盤質も良いので同時代の国内盤よりよほど楽しめました(10/06/20)。
Holland Philips Holland Philips オランダプレスのデッカ自体はまったく珍しくないものですが,これは恐らく60年代-70年代初頭のオランダ国内向けプレスで,ジャケットの解説はオランダ語のみ,写真を見てわかるように明らかにフィリップス製です。デッカがポリグラムに吸収される前からフィリップスと一定の関係を持っていたことがわかります。カッティングもフィリップスで,レコードのどこにもZALのマトリクスナンバーは刻まれていません。また,ステレオ盤であるのにFFRRのみでFFSSの表示はありません。このレコードはアンセルメ指揮のベートーベン第九,もともと再生の難しい録音ですが,どうも今ひとつの音です(05/03/26)。
Holland Philips Korea SDD 韓国盤のSDD120,クーベリック指揮ウィーンフィルのブラームス第4です。ナンバーもジャケットもAce of Diamonds のステレオ盤SDD120なのですが,レーベルは小さく,デザインもナローバンドSXLに近いものです。FFSSのマークはありますがSXLなら”Full Frequency Stereophonic Sound”と書かれている「バンド」に"London Stereophonic Sound"としか書かれていません。イギリスカッティングの原盤で音質も盤質も立派です(22/05/23)。
Ace of Diamonds ffrr Decca/Ace of Diamonds Large(ffrr) デッカの廉価盤は60年代初頭かそれより少し前にモノラルのAce of Clubsではじまり,1965年頃からはステレオ録音をAce of Diamonds レーベル(SDDナンバー)として再発売していきます.初回発売SDD101はアンセルメ指揮のベートーベン交響曲1・8番.SDDも70年頃まで(SDD100番台)はレーベルが大きく,上部に Full Frequency Range Recording という表示があります.これらは盤質もワイドバンドと同様なだけでなく,ほとんどの場合ワイドバンドで使われた金属原盤を流用してプレスされているので,音質的にワイドバンドに匹敵するものになっています.とくに高価なSXL2000番台の再発にあたるものは,市場価格が非常に安い(ほとんどは10ポンド以下)こともあって隠れたコレクターズアイテムです.大レーベルで溝ありと溝なしがあります(写真は溝あり).(06/09/13加筆修正)
Ace of Diamonds small Decca/Ace of Diamonds Small 70年代に入るとSDDシリーズのレーベルも小さくなります.レーベルのデザインも微妙に変化しています.これらはオリジナルのSXLと別編集のリカッティングになっているものも多く,盤質も低下していて,コレクション的な価値も下がります.英国では5ポンド以下.ところが日本の中古屋では2000円以上の値段が付いていたりして驚きます.たしかにCDで聴くよりはまだまだオリジナルに近い音がするのですが.
Ace of Diamonds small Decca/Ace of Diamonds Large アナログ最終期80年代のイギリスプレスAce of Diamonds。オランダプレスのffssと同様に再び大きいレーベルになっています。レコードはアンセルメのクリスマスカンタータですが,新しいカッティングの特徴として歪みが少なく聞きやすいです。オリジナルを巧く鳴らすのは難しいので重宝します(07/05/08)。
Eclipse Decca/Eclipse 70年代にデッカは第2の廉価盤シリーズ Eclipse を創設します.これもほとんどはSXLナンバーで発売された録音の再発ですが,一部にそれまでモノラルでしか発売されていなかった録音のリアルステレオ盤(アンセルメのルーセル交響曲など)や,SP復刻などに初発の録音があって,それらは価値の高いものとされています.しかし,単なる再発,編集盤や,モノラル録音の疑似ステレオ盤はコレクション的には無価値と考えられているようで,ごく安い値段で手に入ります.レーベルは小さいタイプで,色はプラムです.まだLPが製造されていた80年代初頭には秋葉原の石丸電気本店などでこの手のレコードは新品でも500円くらいで手に入りました.あのころもっと買っておけば良かったと思います.
Decca SPA series Decca SPA Series デッカ第3の廉価盤シリーズ,The World of Great Classics のレーベル.すべて小さいタイプで色は水色です.クラシック入門編,といった趣で演奏者の全然違う録音を組み合わせた編集も多く,コレクション的には無価値ですが,アンセルメの「悲愴」のリアルステレオは英国盤ではこのレーベルだけですし,同じくアンセルメのブラームスやシベリウスなどの珍しい録音(数が少ないのでSXLは意外に高価)もオリジナルに近い金属原盤を用いて再発されていて,廉価で手に入るので見つけたら買っておくようにしています.(00/03/06修正)
Decca SPA series white Decca SPA Series White SPAシリーズにもときどき白いレーベルがあります。これらにも上の白レーベルffssと同様に "Promotional Copy" の表示はありません。写真のレコードはイエペスの独奏によるアランフェス協奏曲,伴奏はアルヘンタ指揮スペイン国立管。デッカがスペインコロンビアレコードのためにデッカの機材で出張録音した一連のスペインものの中の1枚です(12/07/15追加)。
Decca Jubilee series Decca Jubilee Series 1977年頃に発売されたデッカ最後(?)の廉価盤LPシリーズ。ポリグラム時代のレーベルカラーである赤と青がすでにデザインの軸になっています。CDになってからも"Jubilee"の名前は廉価盤CDに使用されています(14/01/03追加)。
Decca PHASE4 Decca PHASE 4 1960年代初頭に,デッカ社はマルチトラック録音を駆使した録音技術「フェイズ4」を開発,ポピュラーの録音に利用して成功をおさめます.64年頃から,同じ技術をクラシック録音にも採用,録音方式をそのままレーベル名にしたフェイズ4レーベルのクラシックレコードが出現します.ストコフスキーのいくつかの録音,ミュンシュによる「ローマの松」など,多くのタイトルが70年代初頭まで発売されました.FFSSの録音とは録音方法だけでなくエンジニアも全く違い,音質も別物です.決して悪くはないのですが,今聞くと「マルチッぽい」不自然さが耳につきがちです.写真はストコフスキー指揮の「シェヘラザード」の初期盤,中溝タイプです.これはやっぱり名演奏の名録音だと思います.(01/06/02追加)
London ffss London ffss 米国ロンドンレーベルにおけるFFSS録音,CSナンバーのオリジナル.すべて英国デッカのプレスで,レーベル名がロンドンに変わり,色が赤になっている以外は英国盤ワイドバンドと同等です.もちろん音質も最高です.初期盤はジャケットの裏側が薄い青色の紙で,説明文の周りに枠がついています(blue back<写真>).写真は「溝あり」ですが,ごく初期のものには「外溝」<写真>と呼ばれるタイプもあります.このレーベルの溝なしはまだ見たことがありません.アメリカ的趣味のけばけばしいジャケットに入っていることと,英国にくらべてユーザーの扱いが雑なのか状態の良いものがあまり残っていないこともあって,一般に英国盤ワイドバンドよりは安い値段で手に入ります.アメリカの通販業者で20〜60ドル,国内の中古店で買っても1万円以下が普通ですから,音だけにこだわるならお買い得です.(00/06/02修正,写真追加)
London ffss diff. London ffss diff. 最近入手した別タイプのffssレーベルです。レコードはCS6368,アンセルメの「妖精の口づけ」で,ffssの最後期に当たります。まずレーベルの色が上のffssのように鮮やかな赤でなく,後のffrrレーベルに近い赤茶色です。また「FULL FREQUENCY STEREOPHONIC SOUND」の銀色の帯(ワイドバンド)がレーベルのふちまで届かずに切れており,これもffrrレーベルと同じです。面白いことに,このレコードはレーベルはffssですが,ジャケットの表示はすでにffrrになっています。レコードにはまだまだ知らないことがたくさんあります(06/09/13)。
London ffss OS London ffss OS 米ロンドンのレギュラー盤はCSナンバー4桁,いっぽうオペラや声楽曲はOSナンバー5桁で,レーベルもCSの赤に対して黒レーベルです.OSナンバーも後に下のffrrレーベルに変わりますが,色は黒のままです.このFFSSタイプ黒レーベルはすべて溝あり大レーベル,ffrrタイプには溝なし,小レーベルがあります.(01/01/17修正)
London ffrr Large London ffrr Large CS6400番前後から,米ロンドンのレーベルやジャケットからFFSSの商標が消え,本来はモノラル録音の商標であるffrrに統一されました.おそらく経済的な理由でしょう.これに伴ってレーベルのデザインも変わり,色も少し暗い赤茶色になります.これには溝ありと溝なしがあります(写真は溝なし).(00/06/29修正).
London RCA London RCA Press.? CSナンバーのステレオ盤にはアメリカプレスもあり,これはRCAプレスではないかと思われるものです。カッティングもアメリカ。この写真は鈴木和秀氏から提供いただいたもので,鈴木氏によると音質も悪くないそうです。下のSTSの例でもそうですが,アメリカプレスのロンドンはレーベルのロゴにffrrの商標がありません(05/02/25)。
London Columbia London Columbia Press.? 上記と同様のアメリカプレスCSナンバー,これは米コロンビアのカッティングおよびプレスと思われるものです。レーベルのデザインはRCAプレスと基本的に共通ですが,ZALナンバーの表記法と位置が違います。このことから上のRCAプレスの方が古い時期のものであると思われます。この写真も鈴木和秀氏の提供によります(05/02/25)。
London ffrr London ffrr Small 70年代に英デッカのレーベルが小さくなると,英デッカプレスの米ロンドンでも同じことが起こります.レーベルの色もffrr Largeより暗い色になっています.レコード自体は英国盤ナローバンドと同等のものですが,市場価格は非常に安く,国内でも2000円程度で手にはいることが多いです.したがって音だけにこだわるならこれもお買い得.
STS Large London STS Series Large 65年頃に英デッカが Ace of Diamonds をはじめると,米ロンドンもそれとほぼ同内容のものを London Stereo Treasury Series の廉価盤として発売します.初回発売のSTS15001はクーベリック/ウイーンフィルによるブラームス交響曲全集.レーベルの色はオレンジ,文字は銀色です.英デッカプレスなので70年頃までは大レーベル,溝ありと溝なしがあります(写真は溝なし).
STS small London STS Series Small 上記 London Stereo Treasury Seriesの70年代以降プレス,小レーベルです.このころ(STS15200以降)は英国でEclipseやSPAで出ている録音もこのレーベルで発売されています.中には英国で再発されなかったようなものも含まれており,じっくり調べると興味深いものです.文字は銀色ですが最後の頃のものには文字の黒いものもあります.これらも昔は石丸電気で800円くらいでしたが,このころの英国プレスは国内盤にくらべるとノイズが多く,また安物のオーディオではなかなか巧く鳴らなかったこともあって敬遠していました.いまきちんとしたオーディオで聴くと立派な音で鳴るので,あのときもっと買っておけばと悔やまれます. (00/02/28)
STS PHS London STS Series PH STSシリーズは基本的には英国プレスなのですが,ときどき米国カッティング,米国プレスのものを見かけます.このレーベルはどうやら米フィリップス(マーキュリー)のプレスのようです.音質盤質ともにあまり感心できるものではなく,がっかりさせられます.
STS Yellow London STS Series Yellow STSの米国プレス,これはCD時代に入ってからよく見かけたもので,その頃すでにポリグラム系列に入っていた米ロンドンによるプレスです.これもまた音質,盤質とも低レベル,偏芯のものも多く,聴くにもコレクションにも無価値なものです.同じ値段で国内盤の廉価盤が手に入れば絶対にそっちの方が満足できるでしょう.
US Phase4 London Phase 4 デッカ・フェイズ4のロンドンバージョン。これは英国プレスの中溝大レーベルですが溝なしや小レーベルがあります。写真はストコフスキーの「四季」。(11/01/23)
US Press Phase4 London Phase 4 (US Press.) ロンドン・フェイズ4のアメリカプレス。RCAプレスのように見えます。写真はストコフスキーのフランク交響曲ですが,音質もわりとよいです。(14/06/04)
US Phase4 London Ace of Diamond 珍しいロンドンレーベルのAce of Diamond。中溝の大レーベル。これはアメリカで売られたというよりも日本などデッカレーベルの使えない国への輸出用でしょう。カタログ番号に「XSDD-108」とX(Export)がついているのもそれを示しています。写真はアンセルメの第九(11/05/08)
Japanese London WB Japanese King/London Wide Band ロンドンレーベル,キングレコードによる国内プレスの初期盤です.ナンバーは定価に応じてSLA,SLB,SLCなど.米ロンドンをコピーしたレーベルでワイドバンド,溝ありです.中にはレコード外周の盛り上がり(グルーブガード)のないものがあり,それが最初期のプレスと思われます.英デッカより輸入した金属原盤によるプレス,英国盤より材質が硬く重いため,ものによってはこの時期の日本盤の方が音質が優れるものがあるといわれます.ジャケットもちゃんとブルーバックになっています.キングレコードのきちんとした仕事は日本人の誇りです.
Japanese London NB Japanese King/London Narrow Band 70年代以降も国内盤はレーベルが小さくなったりはしませんでしたし,基本的なデザインも現在のスーパーアナログディスクまで一貫して同じです.ただ初期盤より文字が増えたせいか,比較的新しいものはナローバンドになっています.輸入金属原盤の使用は続いており(注),盤質は新しくなるほどむしろ向上したこともあって,70年代後半から80年代には特別な理由がなければデッカ/ロンドンのレコードは国内盤を買うのが最も賢明でした.とくにGTナンバーで発売された廉価版シリーズの数々は,私がクラシックと親しみ,理解していく基盤となったもので,ほんとうにキングレコードには感謝しています.
Japanese Phase4 Japanese London Phase 4 国内盤キングプレスのフェイズ4。なぜかレーベルの色が赤でなく青になっています。私の記憶では国内盤のフェイズ4に赤レーベルはなかったように思います。国内盤のフェイズ4といえばストコフスキーの廉価盤シリーズで数々の名演・怪演を聴いたことが懐かしく思い出されます。写真はストコフスキーの「運命/未完成」,ストコフスキーのベートーヴェンやブラームスはまず例外なく立派な演奏です。(11/01/23)
Japanese Polydor Japanese Polydor/London 1985年頃英デッカがポリグラム傘下にはいると,英デッカ原盤の配給も長年のキングレコードから日本ポリドール(後のポリグラム,現在のユニバーサルミュージック...ああめんどくさい...)に移ります。この移籍は長年の功労に報いて旧譜はその後もキングレコード配給に委ねるという玉虫色の処理となっており,そのためその後もデッカ/ロンドンの往年の名録音はキングレコードから出るという愛好家にとっては非常に望ましい状態が続きました。しかし,新譜・売れ線はポリドール配給となり,LPもプレスされました。盤質はポリドール配給のドイツグラモフォンと同等ですが,多くの愛好家は盤質・音質ともにキングプレスの方を評価していました。これらのレコードはコレクション的には無価値です。(11/01/23加筆修正)

国内カッティングのロンドンレコードについて

キングレコードによってプレスされた国内盤ロンドンレコードが英国から輸入された金属原盤を使用していることは,前にも述べました.しかし,国内編集のレコードはもちろん,廉価盤にも日本でカッティングされたものがかなりあります.輸入原盤を使わない理由は主にコスト的なことだったと思われますが,この時期に英国の技術や原盤品質が徐々に低下したこともあったかもしれません.現に,定評ある「スーパーアナログディスク」はすべてキングによる国内カッティングです.

Matrix Number

輸入原盤によるプレスと国内カッティングを見分けることは非常に簡単です.レコードの盤面,音溝とレーベルの間の音が刻まれていない部分(リードアウト)には金属原盤やスタンパーの認識番号(マトリクスナンバー)が刻まれています.キングプレスの場合マトリクスが英デッカによる番号(「ZAL」で始まる英数字7〜8桁)とキングレコード独自の番号(「SDLB」で始まる英数字8〜9桁)の両方がレーベルに表示されていますが(写真上),その双方,とくにZALナンバーがリードアウトに刻印されているものは輸入原盤使用(写真下),SDLBしか刻まれていないものは国内カッティングです.アメリカ盤等でも英デッカ製の金属原盤を用いているものはすべて写真と同じ字体,字の大きさでZALナンバーが刻印されています.ZALナンバー刻印があっても手書きだったり,字体がこれと違うものは英デッカのカッティングではありません(CD時代に入ってからのオランダプレスを除く).「ZAL-4296-4K」の「4K」の部分がメタル原盤のシリアルで,同じZAL番号(つまり同じレコード)でもこの番号が若い(少ない)ほど初期のカッティングと愛好家の間では考えられています.「1A」などであれば初回プレスであり,市場では最高値となります.しかし,英国盤の比較的古いものでも「11E」だったり,写真のように最近の国内廉価盤が「4K」だったりしますから,あまり気にしない方がよいようです.

さて,肝心の国内カッティングの音質ですが,リストで挙げた米国カッティングのように明らかに英国盤より劣るということはなく,優れた盤質も相俟ってどれも十分に楽しめます.また,英国カッティングでも時々妙に音の悪いものがあります.しかし,どこがどうとうまくは言えないのですが,やはり全般的には英国カッティングに一日の長があるように聞こえるのは私だけでしょうか.これは必ずしも日本のカッティング技術が劣っていると言うことではなくて,イギリスからどういうマスターテープが送られてきていたのか,という問題もあるでしょう.これはビートルズの国内盤LPの音の悪さなど,他社の洋楽レコードにもよく見られた問題です.

原盤シリアルのアルファベットの謎

上にも書いたように,英デッカカッティングのデッカ/ロンドン盤のマトリクスには「ZAL-4296-4K」の「4K」のように,シリアルが付いています.「4K」の「4」がカッティングの連番であることは明らかで,新しいリカッティングほどこの数字は増えます.いままで見た中で一番多いのはイッセルシュテット指揮ウイーンフィルの「第九」(SXL6233)のナローバンド,B面に付いていた「ZAL-7144-38W」です.売れたレコードだということでしょうか.

問題は「4K」のKや「38W」のWです.最初はAから順に別の連番になっていると信じていましたが,思い立って手元にある英デッカカッティングのレコードをすべて調べてみたところ,

    A,D,E,G,K,L,V,W

の8種類しか見つかりませんでした.頻度的に一番多いのはWで,Vは比較的最近のプレスに多く見つかりました.どうも連番ではなく,何か別のことを現わしているようです.たとえばカッティングエンジニアのイニシャルで,Wはケネス・ウイルキンソンのWとか.....わかりません.何かご存じの方はぜひ教えてください(00/06/29).

追記(01/01/17) 最近手に入れたレコードにはBとMのマトリクスもありましたので,アルファベットは計10種類が確認できたことになります.また,アルファベットはやはりカッティングエンジニアのイニシャルであるようです.


クラシックのレコードへ戻る    ホームページに戻る