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私の好きなアルバム


懐かしの中古レコード屋

Amazing Blondel "England"
Island ILPS9205 (1972年)

私が高校大学時代にときどき行った高田馬場の中古レコード屋では,レコードを買うと不思議なデザインの紙袋に入れて渡してくれた。そこに描かれた絵は何かのレコードジャケットだということだったが,それがAmazing Blondelというイギリスのフォークグループの「England」というアルバムで,アイランドレコードから出ていることを知るのはずっと後になってからのことだ。その頃は高田馬場にはもう2〜3軒の中古レコード屋があって,それぞれ個性的だった。私がFairport Conventionの「Unhalfbricking」を新品で買ったのは,マンションの一室でブリティッシュ・トラッドみたいのばかり扱ってるところだった。いまでこそ大企業(?)になったMarqueeなんてのも目白の駅前のマンションでレコード屋をやっていて,私はそこでNick Drakeのアイランド盤を初めて手に取ることができた。他にも池袋のサンレコ社とか神保町のRock WorkshopとかDisc Fileとか懐かしいレコード屋の名前がどんどん浮かんでくるが,もうひとつも残っていないのではないか。

学会で札幌に行った時に,狸小路の中古屋で「England」をみつけた。パームツリーレーベルのオリジナル盤が1500円(わかるひとはわかるがこれは激安である)。内容的には管弦楽伴奏付きのフォークミュージックだが,トラッド色はあまり強くなくてむしろドノヴァンに近いようにも感じる。まあ日本では売れないものだったと思うが,これは国内盤出ていたのかなあ(09/10/25)。

この世界にも魔境が

フランス・ギャル ”夢見るシャンソン人形”
PHILIPS FL-1173 (1965年)

ヤフオクで写真のシングル盤を買った。まあ持っておくのも良いか程度の気持ちで買ったのだが聴いてみて驚いた。CDとは別テイクなのだ。昔の日本ビクター配給のフィリップスシングルなので当然モノラルだが,それだけでなく2つの大きな違いがある。ひとつは伴奏が全体に小さめにミックスされてヴォーカルがもっと目立っていること,そしてもうひとつはCDではダブルトラックだったヴォーカルがシングルトラックで,すごく生な感じで入っていることだ。演奏はCDとまったく同じ演奏なのだが,ヴォーカルはシングルトラックであるだけでなくどうもテイクが違うように聞こえる。

全般的に言ってCDで聴けるステレオミックスよりも曲の味わいは濃いように感じる。音質も悪くなく,生っぽいミックスも相俟って実体感のあるよい音だ。テイク違い,ミックス違いというのはビートルズなどではある程度凝れば誰もが嵌る魔境だが,フレンチポップスの世界にもその魔境が存在することに気づいて愕然とした。冷静に考えればその魔境の存在は当然に想像がつくはずのことだが,抑圧されていたのかも知れない。すでに抑圧から解放されてしまった私はフランス・ギャルのシングル盤も集めなくちゃとか思いはじめている。(06/06/19)

06/06/27追記 つぎに「涙のシャンソン日記」のシングル盤も手に入れた。やはりヴォーカルの大きいミックスでとても生々しい音だったし,B面の「ボン・ニュイ」も初めて聴くがとても良い曲で満足した。


疾走する悲しみ

FRANCE GALL "夢見るシャンソン人形"
PHILIPS(1965年) 写真はPolyGram 839-627-2 CD

モーツアルトの40番のシンフォニーを「疾走する悲しみ」と評したのは小林秀雄だったか。ポップスにも同じようなことを感じさせる曲がいくつかある。ヒデとロザンナの「愛の奇跡」などがそうだが,私がその代表だと思うのはフランス・ギャルの歌う「夢見るシャンソン人形」(Poupee de cire, poupee de son,シャルル・ゲンズブールの曲)だ。他愛無い曲で,歌詞も他愛無いのだが,聞いているとなんだか無性に哀しくなって涙が出る。冷静に聞くととにかくゲンズブールによるアレンジがすばらしい。フルートのイントロからトランペットが受けるリフ,半音階で上がって来るギター,サビの冒頭と中で効果的に使われるトランペットのロングトーン,鳥肌が立ちそうになる(3回に1回は実際に立つ)。何よりすばらしいのが間奏で,ギターとブラスがユニゾンでただ単にメロディーを鳴らすのがどうしてこんなに哀しく聴こえるのか。ギャルの曲では同じくゲンズブール作の「涙のシャンソン日記」(Attends ou va t'en,どうしてシャンソン日記になるのか)や「天使のため息」(Nous ne somme pas des Anges,どうしてため息ついちゃうのか,でもよい邦題だ)あたりも見事に疾走している。ベスト盤などでまとめて聴くといろいろな日本のポップスの「元歌」が発見できるのも興味深い(たとえば「ドリフのズンドコ節」)。

こういうものを聴かされてフランスに憧れるなというほうが無理である。去年海外出張で初めてフランスの地を踏んだが乗り継ぎでドゴール空港を通過しただけであった。ちゃんと行ってみたい。しかしフランスはあまりにも遠い。(06/05/23)

思春期

MARJOLIE NOEL "DANS LE MEME WAGON"
SEVEN SEAS HIT-1250(1965年)

ネットオークションというのは面白いものだ。ある時にはずいぶん競り合って2000円以上入札しても手に入らなかったこのレコードが,今度は500円で,それも入札は自分だけで落札できた。一番ありそうなことは,このレコードを探していたのは私も含めて2人だけで,もうひとりは前の出品ですでに手に入れていた,ということだ。先日出品したレガのプレーヤーにも入札は一件しかなかった(それも前から知ってる方)。自分と同じようなものを欲しがる人は意外と少ないんだなと思う。

この曲はむかしラジオで聴いて大好きになって,でも曲名も歌手名もわからないまま数年が経っていたもの。去年竹内まりやのアルバムでカバーされていて,はじめてマージョリー・ノエルの歌う「そよ風にのって」という曲だとわかった。この曲を聴いていると遠い「思春期」を懐かしく思い出す。歌詞にそういう内容があるとかそういうことではなくて(だいたいフランス語の歌詞は歌詞カード見て辞書引かないとほとんど理解できないし),ただ聴いていると自動的に思い出すのだ。どうも私の思春期はいくぶん鼻にかかった声と相関しているらしい。原因は不明(ほんとにわからない)。B面の「慕情の季節(Va dire a l'amour)」という曲も初めて聴いたがすてきな曲だった。(05/12/27)


別歌。

CARPENTERS "A SONG FOR YOU"
A&M AML135(1972年) 

カーペンターズを聞き始めたのはビートルズより前だった。今は亡き親友飯坂超示君が買ったミュージックテープをアイワのラジカセで聴いたのは1974年の春頃だと思う。初めてビートルズのレコード(米盤の"Hey Jude",当時は"The Beatles Again"というタイトルがジャケットにだけクレジットされていた)を買ったのはそれよりしばらくあとだ。超示君がカーペンターズだから僕はビートルズ,みたいな感じで買って,交換して聴いた。1975年の正月になるとお年玉を持って池袋の西武百貨店のレコード売り場に行き,私はラバーソウルとリボルバーを買い,超示君はアビーロードを買い,そのあとはお決まりのビートルマニアになった。

今でもカーペンターズを聴くと超示君の家(文京区久堅の魚屋だった)の暗い座敷でラジカセの前に座っている自分と超示君を思い出す。といいながら,私はカーペンターズのレコードを1枚も買ったことがなかった。数年前になって初めてCDを揃えて,それを普通に聴いていた。それでも "A Song For You" だけはLPが欲しいな,と思っていたらキングの国内盤(これが国内オリジナル)がヤフオクに出ていたので買ってみた。800円。

A面に針をおろしていきなり驚く。CDとまったく音が違うのだ。2曲目の "Top of the World" でもっと驚く。音が違うどころかまったくの別ミックス,別の演奏なのだ。カレンの歌もところどころCDとはイントネーションが違うところがあり,おそらく別テイク,別歌だと思われる。そして,LPのややくすんだ音はCDよりずっと暖かく,カレンの声もずっとフレンドリーだ(というより,カレンの声に初めて性的?な魅力を感じるくらい違う)。他の曲もほぼすべてが別テイク,別歌のオンパレード。このアルバムを最初にLPで聴くかCDで聴くかで,受ける印象はまったく違うだろう。

カーペンターズの音源を生き残ったリチャード・カーペンターがいろいろ「改善」していることは知っていた。しかしLPを持っていなかった私はそれがこんなに大きな違いだと気づくチャンスがなかった。とはいえLPで聴こうがCDで聴こうが,このアルバムのB面の演奏がハル・ブレインとジョー・オズボーンのベストトラックであることは変わらないけれど(05/09/28)。

05/10/19追記 iTunes Music Storeで現行版CD(Remastered)の音を聴いてみたら,私の持っているCDとは違ってLPと同じミックスだった。LPミックスの方が明らかに良いのでこれは正解。



ウェーベルンの初期の作品

矢野顕子 ”ブロウチ”
MIDI MDC7-1018(1986年) 

「矢野顕子がウェーベルン歌ってるやつが聴きたいな」と思ってHMVで探したらなんと廃盤になっている。DVDならあるようだったが。そこでヤフオクで探したら送料込み1000円以下で手に入った。このCDではピアノは高橋悠治と坂本龍一が弾いている。したがって矢野顕子はヴォーカリストである。高橋悠治の曲もとても良いのだが,それ以外のクラシックの極端に通好みな歌曲を歌ったものが良い。ウェーベルンの2曲は彼の初期のもので作品番号もついていない。86年に出たドロシー・ドロウの歌うエトセトラ盤のLP(ETC2008)には「世界初録音」と書いてあった。当然ブレーズの全集の旧盤には収録されていない(新盤には収録されている)。しかしこのCDも86年の録音である。芸大人脈恐るべし。これらの歌曲や「Langsamer Satz」とか「Im Sommerwind」とか,この時期のウェーベルンは私の心の友である(これらの曲が書かれてからちょうど100年経っている)。あとはシューベルトの「冬の旅」からの曲も面白い。私は「冬の旅」はどうも怖くて楽しめないのだが,矢野顕子の歌でもっともっと怖くなっている。高橋悠治のピアノも怖い。「冬の旅」が怖いと思ってるのは自分だけではないかもしれないと変に納得する(05/07/19)。



アビーロードは名盤か?

THE BEATLES "ABBEY ROAD"
APPLE PCS-7088 (Made in France) 

最近「アビーロード」のレコードを2枚買った。1枚は80年代のイギリスプレス,もう1枚がこれで,ジャケットはイギリス製,カタログ番号もイギリスのPCSナンバーだがレコードはフランスプレスという奴。これについてはよく覚えている。なぜなら,私が初めて買った「アビーロード」もこれだったから。私が中学生の時だから70年代後半だけど,イギリス盤のビートルズのレコードのほとんどがフランスプレスになったことがあった。店で「イギリス盤」と表記されているのを買っても中にフランスプレスが入っているととてもがっかりしたものだ。オリジナルじゃない,という意識だけでなく盤質もイギリス盤より劣り,ノイズが多かったような印象がある。80年代に入るとイギリス盤は再びイギリスプレスに戻った。どうしてそんなことになったのかはわからないが,最近ヤフオクとかでこの「フランスプレスのイギリス盤」がちょっとしたレアもの扱いされているのを見ると隔世の感がある。

久しぶりに手にしたフランスプレスのアビーロードは,その後20数年の経験から見ると典型的な70年代パテプレスの盤質,レーベル紙質で,スタンパーもM6でイギリス盤のYEXナンバーはないからカッティングもフランス。面白いことに(?)「Come Together」の冒頭の「シュ」が聞こえず,フェードインしてくるというおかしなレコード。私が70年代に買ったのもそうであったかは記憶にない。音質はイギリス盤とはひと味違う辛口なもので,もちろん東芝の国内プレスのようなボケた音ではない。「シュ」がないことを除けば聴けるレコードだ。

しかし,アビーロードってどこがいいのだろう。私はレコードも何枚も買い,CDも買いしてもう30年近くもこのレコードを聴いてきたけれども,これがビートルズの他のアルバムより優れていると感じたことは一度もない。たしかによくできた美しい音楽だ。だけど他のアルバムのようにゾクゾクしたり,興奮したりはしないのだ。もしかしたら私の気に入らないその点が,このアルバムをして名盤たらしめているのかもしれないけれども(04/08/18)。



アゴになにかついてるよ........うーん,マンダム!

JERRY WALACE "MANDOM - LOVERS OF THE WORLD"
LIBERTY LR-2571

ヤフーオークションというのは基本的に悪いものだと思う。ああいうものはそもそも,出品者は業者に売るよりやや高く売ることができ,入札者は業者で買うよりやや安く買うことができるからメリットがあるはずなのに,素人がみんな儲けに走っている。どうみても店で買うより高いものが「ノークレームノーリターン」という理不尽な条件付きで売られている。ビートルズ関係なんかひどいよ。それでもわりと良心的な人を捜しつつ,たくさんの懐かしいシングル盤を手に入れた俺。岡崎友紀「私は忘れない」の音工赤盤をはじめ,「帰り道は遠かった」「あのすばらしい愛をもう一度」「恋のかけひき」などなど。これはその1枚,つまりは「マンダムの唄」です。ジャケットに写っているのは歌手ジェリー・ウォレスではなくチャールズ・ブロンソンなのも当然といえば当然。曲と演奏は死ぬほどかっこいい。去年東京のカレー屋で聴いてぶっとんで以来探してた(04/04/06)。


joni mitchell blue

JONI MITCHELL "BLUE"

REPRISE 1971年 

若い頃には悲しい時には悲しい音楽,楽しい時には楽しい音楽を聴いて,その感情を増幅させるようなことをしたものだ。悲愴交響曲を聴いて滂沱の涙を流すみたいなことが,その用途によく使われた。まあある種のカタルシスだね。しかし,だんだん年をとってくるにしたがって、そういうことはしなくなった。かといって、悲しい時に明るい音楽を聴いて紛らわすとかするようになったわけでもない。なんらかの強い感情を持った時には、それが楽しさだろうが悲しさだろうが、できればそれを鎮めて静かな境地になることを求めるようになったし,そういう音楽を好むようになった。あまり悲しんでいたくないだけではなく、あまり喜んでもいたくないと思うからだ。そういう用途で聴かれる音楽はたとえばバッハであったり,このごろならウェーベルンの初期の作品であったり,あるいはこのアルバムであったりする。ほんとうの感情というのは激しい情動がおさまってから静かに感じられるものであると思う。それが静かだからといって、けして弱いものではないことは,このアルバムを聴いているとよくわかる。収録曲はどれもよい曲ばかりだが,私は「リヴァー」が好きだ。私もクリスマスにひとりで氷の上を滑ってどこか遠くに行ってしまうための自分用の川が欲しい。といってもスケートはまったくできないのだけれど( 03/12/11)。

A night at the opera

QUEEN "A NIGHT AT THE OPERA"

EMI EMTC103 1975年 → 東芝EMI TOCP65844 

昨年暮れのクリスマスは出張で札幌にいた。イブだというのにホテルでひとりで寝ていたら,実に実にさみしーい,せつなーい夢を見た。その夢を通して流れていたのが「ボヘミアン・ラプソディー」で,目が醒めてからもそれが耳を離れない。それで山野楽器へ行ってこのアルバムを買おうと思ったら札幌の山野楽器がなくなって百円ショップか何かになっていた。山野楽器は西武ロフトの中にずいぶん小さくなって移転していたのだが,どうも寂しい気持ちでこれを買うことになった。私はこれはリアルタイムで聞いたアルバムだし,テープにダビングしたりしてずいぶん聴いたが,思えば自分できちんと買うのはこれが初めて。久しぶりに聞いてみると,実に立派な,素敵なアルバムだった。そして,クイーンというのはやっぱりブライアン・メイのバンドなんだな,という思いを新たにしたのだった。それはそうと,これも最近はやりの「リマスター盤」なんだけど,例によって「図太い音作り」がしてある。確かに初期のCDのような薄っぺらな音よりは良いのだけど,どれもこれもガラードのプレーヤーにオルトフォンのアーム,カートリッジはSPUみたいな音なのもどうかと思う。中低域が粘り過ぎ。同じような傾向はアナログ末期の復刻版ジャズLPにもあったな。まずは中庸というわけには行かないのだろうか(02/01/04)。

THE SOUNDS OF INDIA

RAVI SHANKAR "THE SOUNDS OF INDIA"

COLUMBIA CS9296 1968年 

私の研究室は建物の角にあって風通しが悪く,帯広の暑くて湿気の多い夏には辛い.仕事なんか止めて音楽でも聞こう,と思っても暑い時に聴ける音楽は少ない.そんなときに「バングラデシュのコンサート」に入っているラヴィ・シャンカールのシタール演奏が意外に癒し効果が高く,とてもとても楽な気分になることを発見した.よし,インド音楽だ,CDをたくさん集めるぞ!ということになって最初に買ったのがシャンカールのアメリカデビュー盤にあたるこのアルバム.ビートルズの「リヴォルヴァー」「サージェントペパー」などに参加して名をあげた直後の演奏だ.いやーよかった.リピートかけて無限に流しておくと一日中聞いていられる.つまり,どの曲も同じにしか聞こえないし,何度聞いても曲も覚えず,飽きもしないのだ.というわけでインド音楽CD大量購入計画は白紙,この一枚だけで夏を乗り切ることになりました(01/08/28).

piano nightly

矢野顕子 ”ピアノ・ナイトリイ”

EPIC-SONY ESCB1677 1995年 

矢野顕子はとにかくピアノがうまい.ほんとにうまい.これは彼女が「JAPANESE GIRL」でデビューしたころ中学生だった俺が感嘆して以来,20数年間変わらない評価.このアルバムはその矢野顕子による全曲ピアノ弾き語り.ここ数年は矢野顕子がどのような歌を歌っているのか,どのようなアルバムを出しているのかにまったく興味を持たずに生きていたのに,あるとき,ある人にこのアルバムを紹介してもらい,あろうことかプレゼントまでしてもらった.それ以来,いくつかの暖かい思い出とともに生涯の愛聴盤に仲間入りした.すべての曲が美しく,痛く,重くて軽く,暗くて明るく,言葉では紹介できない.言葉で書けるのは,このCDの録音がすばらしく良いこと.安物のオーディオで聞いても感動的だし,きちんとしたもので聞けば驚異的.しかし伝わってくるものはオーディオの値段に関わらず同じ.名盤とはそういうものだと思う(00/09/11).

ATCO33-237

VANILLA FUDGE "THE BEAT GOES ON"

ATCO 33-237 1968年 

アメリカンロック史上最大の珍盤,奇盤.これに対抗できるのはイレクトリック・プルーンズの「ヘ短調のミサ」だけだろう.67年にスプリームスの "You Keep Me Hunging On" をゲロゲロのアートロック仕立てに変えてカバーし中ヒットを放ち,ビートルズやドノバンの秀逸なカバーで聴かせるファーストアルバム "Vanilla Fudge" もヒットさせたヴァニラファッジが満を持して発表したセカンドアルバムは,普通の感覚ではとてもロックアルバムとは言えないものだった.彼らが目指したのは「音による音楽史・世界史」.A面はモーツアルトからビートルズまでの歴史順演奏とベートーベン「月光」のカバー,B面はチャーチルやケネディなど歴史上の人物の演説録音のコラージュ(テーマは戦争と平和である),そして旧約聖書の朗読,こうした内容がソニー&シェールでヒットした"The Beat Goes On"のヴァニラファッジ流インスト演奏でつなぎ合わせられている.本当に奇妙なものだけど,ときどき聴きたくなって,聴くとその深遠な精神に感心はするが楽しめはしない(笑).もちろんこのアルバムは売れず,次のアルバム"Renaissance"からは普通の曲が入ったものに戻る.その結果このアルバムは最も手に入りにくいものとなり,多くのコレクターが競って求めるものとなった.私の持っているのは1982年頃に池袋西武のレコード売場に突然出現した廃盤貴重盤売場で入手したモノラル盤,同じ時に出ていたステレオ盤は友人石原亘のところに今もあるはず(99/11/22).(06/05/10追記 幻のアルバムだったこれも今はCDで簡単に手に入る。でもアトコのモノラルLPの雰囲気や紙の匂いはCDにはない。)

watermark

ART GARFUNKEL "WATERMARK"

COLUMBIA JC34975 1978年 

アート・ガーファンクルのソロアルバム何枚かを手に入れて,このところじっくり聞いている.S&Gというと「音楽監督」ポール・サイモンばかり注目されがちだけど,これらのアルバムを聞いてガーファンクルの「声」がS&Gのひとつのエッセンスであったことがよくわかった.サイモンのアルバムよりもずっとS&G的に響くのだ.とくにファーストソロでその傾向が顕著.
何枚かのうちで個人的にもっとも気に入ったのがこの「ウオーターマーク」.ほぼ全曲にわたってジミー・ウエッブの作品が取り上げられている.いくつかの曲についてはウエッブ自身の歌によるレコードがあるけれど,ガーファンクルの歌の方が曲の美しさが際だつ.ウエッブの曲の特徴は息が長く回りくどいメロディだけれど,ウエッブ自身の歌ではそのくどさが前面に出る嫌いがある.それはそれで私は好きなのだけれど,ガーファンクルの歌ではそのくどさが「浄化」されて天国的な響きに変わっている.本当に美しい.アレンジ,演奏も最高.ピアノはほとんどウエッブが弾いているし,何曲かで聞けるジョー・オズボーンのベースもあいかわらずよく歌っている.最近はほぼ一日に一回はターンテーブルに....じゃないCDプレーヤーに乗っているCD(99/8/21).

水前寺

水前寺清子”人生の応援団長”

日本クラウン GW5112 1969年

水前寺清子の歌が好きだ.別に隠していたわけじゃないけど,誰にも聞かれなかったから言わなかった.「勝った負けたと騒ぐじゃないぜ,あとの態度が大事だよ」なんて,態度が行動に先行するなんていうアホな心理学理論を打破(どうどうどっこの唄),「咲きたかったら畑を作れ,泥にまみれて種をまけ」なんて主体が誰だかわからなくなり(ここでやらずにどこでやる),「どこかにあなたの椅子がある,あなたを待ってる城がある」なんてアフォーダンス論までかます(いのちかけても損はない).やっぱり星野哲朗の詩がいいんだなあ.で,笑っているうちに泣かされたり,こころから励まされたりする.俺はけっこう古い人間だと思う.でも,それはけして不快なことではない.「晴れればみんながついてくる,曇れば仲間はいなくなる」といわれて「そうだよなあ」って泣いて(青空の唄),「東京が駄目なら名古屋があるさ,名古屋が駄目なら大阪があるさ」といわれて東京を離れ,「東京で駄目なら新潟があるさ,新潟が駄目なら北海道があるさ」といわれて北海道まで来てしまった.「捨てちゃいないぜ男の夢はー」で「そうだよそうだよ」といってまた泣くわけ(東京がだめなら).バカみたいだけどそれでいいのだ.
水前寺清子のレコードはシングル盤も何枚か持っているけど,どれも手に入りにくく,けっこう高い.「ありがとう」の主題歌も探しているんだけど見つからない.CDに復刻もされてなかったけど,最近半分はカラオケが入ったものが発売されているようだ(7MAY99).

blood on the tracks

BOB DYLAN "BLOOD ON THE TRACKS"

Columbia PC33235 1975年 

そのミュージシャンについてはけっこう詳しくて,そのレコードについても知っているのだけど,なぜか聞いたことがないというレコードがある.これも最近までそうだった.買ったのは去年だと思う.もちろんCDで.その時は特によいとは思わず,そのままになっていた.これが,今日聞いてみたらやたらによい.なにか,自分の中で大きく変わったものがあるようだ.職場が変わること,二人目の子どもができたこと,仕事が絶望的にはかどらないこと,いろいろだな.とくに「Idiot Wind」が良い.客観的に見れば,ディランのアルバムの中では奇跡的にバックの演奏がまともだ(演奏は最低,でも音楽は最高というのが多いのね).
下のフィル・オクスもそうだけど,最初は別に良くなくて,ある日から急に良くなるレコードというのが本当にたくさんある.とくに仕事が変わったり,住む場所が変わったりした時にそうなる.子どもの頃は食べ物の好き嫌いだってそうだった.だから,買ってきて聞いてみて気に入らなくても,一応棚には残しておく.だからレコード棚はほんの少しの気に入ったレコードと,たくさんの「そのうち気に入るかもしれない」レコードでいっぱいになる.もちろん,中には良くなる予感が全然しないようなものもあって,そういうのは捨てるけどね.でも,そうやって捨てたものの中にも,今となっては良くなっているようなものがあるかもしれないと心配になる.結局おれは未練がましいのだ.
このジャケット写真ははじめての自作スキャンです.出来はどうかな?(22FEB99)


pleasures

PHIL OCHS "PLEASURES OF THE HARBOR"

A&M SP4133 1967年 

正直言って,いままでフィル・オクスはよくわからなかった.アルバムはひととおり(CDで)持っていたし,ときどき聞いてはいたけれど.当時ボブ・ディランのライバルといわれたプロテスト・フォーク・シンガー,ジョン・レノンと同じようにCIAに追われ,何者かに暴行されて声を失い,その後発狂して自殺した,という歴史的知識以上には自分にとってリアリティを持っていなかった.このアルバムも,なんか気にはなるけど,音もキャラキャラして楽しめないし,という程度だった.

先週末札幌で名古屋のレコード屋主催の「中古レコード市」があって,顔を出した.感じの悪い,寂しい,味気ない市だったけど,手ぶらで帰るのも何なので,たまたま目に付いたこのLP(A&Mの70年代のプレス.コレクション的価値はない)を買って帰った.ここのところ嫌なことが多くて(すべて自分のせいなのだけど...)参っていたから,買い物でもして気晴らしするかと思ったのに,ダメだなあ,などと思いながら家に帰って,「ジャケットも結構痛んでるのに2500円は高いなあ」など愚痴りながらかけてみた.そしたら,何かがいつもと,決定的に違っていた.

LPで聞くオクスの声はずっと親密で,誠実で,そして繊細で悲しかった.ディランのロック化に対抗して(?)ゴテゴテと分厚く盛られたオーケストレーションもCDよりずっとくすんで暖かくて,その中にすっと立つオクスの声はいままでよりずっと強いリアリティでぼくを考えさせ,励ましてくれた.生きることはほんとに辛い,あとまだ人生が半分も残っていると思うとぞっとする,だけど,だけど,でも,でも,ということ.オクスの歌詞はとてもすばらしいので,はじめて聞くなら対訳付きの国内版CD(廃盤?)が良いと思うけれどね(7Dec98).

WINGS WILD LIFE

Apple PCS7142 1971年 

リンダ・マッカートニーの訃報を聞いて,このアルバムが聴きたくなった.ビートルズ解散後「ジョンの魂」「イマジン」と評価の高いソロアルバムを連発するジョンに比べ,ポール・マッカートニーのソロアルバム(「マッカートニー」「ラム」)はまったく不評,ポールが人気復活をかけて結成したウイングスのファーストがこれ.リンダはコダック社のオーナーであるイーストマン家の令嬢で写真家,音楽はまったく経験なかったがポールの特訓を受けキーボード,ボーカルでウイングスに参加した.リンダをバンドに入れたのには,ジョンとヨーコへの対抗意識もあったのかな.しかし,このアルバムも批評筋からはケチョンケチョン,セールスもふるわなかった.ポールの大スランプ時代である.
 でも,いいレコードなのよ.たしかに全体にまとまりはないし,音も荒っぽい.ヒット曲も入っていない.でも,そこにポールのバンド志向,ロックンロール志向の原点がちゃんと見えてる.そして,目立たない名曲が,とくにB面にいくつもちりばめられている."Some People Never Know"から"I Am Your Singer","Tomorrow"と続く流れは美しさの極み."I Am Your Singer"でのリンダのボーカルも,今となっては涙を誘う.LPではレーベルがA面がポール,B面がリンダの顔写真になっていたのも懐かしい.(21Apr98)

荒井由実 ”ミスリム”

東芝(EXPRESS) 1974年 

 ユーミンは荒井由実だった頃の方が良い.でも,あの頃はロック少年だったので,ユーミンなんて(ていうか「邦楽」なんて)バカにして聴かなかった.中学生の頃,まわりの女の子たちがよろこんで聴いてるのを軽蔑してたのを憶えてる.このアルバムもリアルタイムでは聴かないで,初めてきちんと聴いたのは大学4年のときだった.衝撃,感動,号泣.それから魂のアルバムの仲間入りして,いまでも週に1回くらいは聴く.
 このときユーミンは二十歳.で,すでにすべて完成されている.このあとのユーミン(特に最近の)は,二十歳の彼女のバリエーションに過ぎない.「12月の雨」など名曲しか入っていないし,細野晴臣のベースは死ぬほどうまいし,林達夫のドラム,鈴木茂のギター,どれも言うことなし.個人的には「私のフランソワーズ」が好き(もちろんフランソワーズ・アルディも好き).しかしいま売ってるCDは音が悪すぎるよ.オリジナルの東芝盤が欲しい...
 ここには自分の思い出もいっぱいつまっている.これを聴くと,いろんな人,いろんなことを思い出す.みんな元気で生きていてほしい.


THE BEATLES "RUBBER SOUL"

PARLOPHONE PCS3075(STEREO)/PMC1267(MONO) 1965年 

 ビートルズの最高傑作はこれだと思うなあ.ソリッドでなんか冷たい感じがするのが涼しくてよい.これを最初に買ったのは小学6年の時で,アメリカ盤(CAPITOL ST2442)だったんだけど,あとになって曲目がイギリス盤や日本盤とは違うことがわかって驚いた.
 その後日本盤,ドイツ盤,日本盤モノと聞いてきたけど,最近になってオリジナルのイギリス盤モノラル(PMC1267)を聞いてぶっとんだ.音がぜんぜん違う.極限にリアル.その後はこれでしか聞く気がしない.CDやステレオしか聞いたことない人には,ぜひちゃんとしたオーディオでオリジナルモノを聞いてみてほしい.といっても中古で1万円以上するんだよねえ.
 よく「よい音楽には音質なんか関係ない」みたいなことをいう人がいる.それはそうだと思う.ビーチボーイズはラジオで聞いても感動するし,カザルスのレコードが音が悪いから楽しめないということはない.でも,いい音で聞けばもっと感動するし,演奏者の考えがもっとよく伝わってくる.だから,オーディオに金をかけたり,オリジナル盤を高価で手に入れたりするのは無駄じゃない.同じ意味で,最近の「復刻」CDの中に作品に対する愛情の感じられない音質のものがあるのはほんとに残念.
 ビートルズのCDはものによってレコードより音の良いもの(Magical Mystery Tourとか)悪いもの(初期の4枚分,Abbey Roadなど)がある.「With The Beatles」とかのCDだけ聴いて,モノラルは音が悪いとか思っちゃだめよ.

THE BEACH BOYS "PET SOUNDS"

CAPITOL T2458(MONO)/DT2458(DUOPHONIC) 1966年 

 最近の「渋谷系」ソフトロックブームなんかもあって,「ビーチボーイズ=サーフィン」という偏見もだいぶ変わってきてると思うけど,まだまだ理解されてないと思う.といってもみんなが理解しちゃってもつまらない.自分だけわかってればいいのだ.で,これは私にとって至上のレコード,「魂のアルバム」第1位.といっても,買った当初(大学3年くらいの時)にはどこがいいのかわからなかった.
最初買ったのは疑似ステレオの国内盤で,なんとなく繰り返し聞いていた.で,大学院の入学式の帰り,けっこうヘビーな気分でまっすぐ帰り難くレコード屋に寄って,たまたまモノラルのアメリカ盤(再発の廉価版のやつ)があったので買って帰った.そして聞いた.突然,ぶっとんだ.それ以来ずっと魂のアルバムのままでい続けている.
 ビーチボーイズのレコードはビートルズほど「オリジナルに近いほど音が良い」ということはない.60年代のキャピトルのプレスは盤質もいまいちだし,高域に伸びがない.このレコードにしても市場価格がいちばん高い(8000円くらい?)のはイギリス盤のファーストプレスで,これは音質的なことが理由らしい.イギリス盤は未聴だけど,自分が聞いた中ではやはりオリジナルのアメリカ盤モノラルがよかった.再発のものは音が冷たすぎるし,疑似ステレオの国内盤は音が薄すぎる.ただ,こうした古いレコードをちゃんとした音で聞くには,オーディオにもちょっとしたお金がかかる.
 CDはちゃんとモノだし,けっして悪くはない.去年出た「PET SOUNDS SESSIONS」でのステレオミックスには驚いて,しばらく喜んで聞いてたけど,そのうちモノの方に戻ってしまった.長年聞いてるものにはやっぱり愛着があるよね.

THE KINKS "THE VILLAGE GREEN PRESERVATION SOCIETY"

PYE NSPL18233 1967年 

 良いレコードはジャケットも良い,というのはおれの持論なんだけど,これはジャケットがダサイ.ダサすぎる.でも中身は最高.ほんと,みんなに聞いてほしいなあ.
 これを初めて聞いたのは修士1年の時,そのころ世田谷区東松原の塾の「教え子」であった当時高校3年の藤田学君(元気でやってるかなあ...)から教えてもらった.「魂のアルバム」ってのはもともと藤田君の言葉で,そのままおれにとっても魂のアルバムになった.これは初めて聞いたときからのめりこんだ.
どこがいいと言葉で説明するのは難しい.内容もダサイといえばダサイ,くすんだ色合いで地味なサウンド.でも,10年以上ロックを真剣に聞いている人なら,かならず「カッコイイー」と叫ぶ箇所が3ヵ所以上はあるはず.
 これはオリジナルは持ってない.パイのイギリス盤は数がないし,あっても驚くほど高い.持ってるのは英PRTの再発LPと,米REPRISEのCD.このCDはなんか音が丸くて好きになれない.国内盤のCDはどうなのかなあ.
(06/05/10追記 上の文は数年前に書いたもの。いまではこのアルバムは各種のリマスターCDや復刻LPで手に入り,リマスターCDは以前のCDよりはアナログに近い音になっている。それでも一番好きなのは最初に買ったLPの音だ。)

BOB DYLAN "BLONDE ON BLONDE"

COLUMBIA C2S841 1966年 

 これはなかなか良さがわからなかったレコード.初めて買ったのは多分大学に入った頃で,その後就職するときに(就職先にレコードプレーヤを持って行けなかったので)CDを買い,と,ずっと聞いてはいたんだけど,どうもよくわからなかった.
 それが,信州大学で「教え子」だった杉浦淳吉君があまりに「いいですよ,いいですよ」というので,そんなものかな,と繰り返し聞いてるうちに,いつのまにか魂のアルバムに仲間入り.現「教え子」の殿岡みゆきさんも「休みの日に洗濯しながら聞いていたら突然良くなった」と言ってたから,どうもこれはそういうレコードらしい.
 最近の人は知らないかもしれないけど,これはレコードは2枚組なのだ.各面15分くらいしかないのがすごい.ヘタウマなバンド(アル・クーパー,ジョー・サウスらが参加)とディランのダレぐあいがぴったりで良い.ダレていて,それでいてとてつもなく真剣で純粋な歌と演奏.
 最近売ってるCDは「SBM」とやらですごく音が良くなっていて,レコードや前のCDではよく聞こえなかったベースの細かい音の動きがわかって興味深いけど,やっぱりしばらく喜んで聞いた後でもとのレコードに戻ってしまった.そういうものなのかな.


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