オーディオテクニカも何かに気づいたようで前回取り上げた安物VMカートリッジ(を内蔵したレコードプレーヤー)用の交換針をモデルチェンジして円錐針のほかに楕円針を出してきた。針圧は従来型と同じく3.5g。さっそく取り寄せて交換してみたが音質はとにかく元の針で針飛びしたレコードがすべて針飛びしなくなったのでめでたしめでたしである。楕円針は円錐針よりトレース性能がいいというのを実感したのだった。しかしAmazonで新品2500円で買えるカートリッジの交換針が6000円超えはまあどうかとは思う。
なにはともあれこのカートリッジで3.5g針圧をかけるとこれまで歪っぽかったレコードの大半がまともな音で聴ける。いつも愛読している「オーディオ大好きおやじの日記」さんもこのカートリッジを何個も仕入れて50-50年代の装置につけて聴いておられるようで心強い。
英国はREGA社が発売しているCARBONというカートリッジがオーディオテクニカAT3600LのOEMであることは一目でわかる。AT3600Lはアルミ等の金属でなくカーボンで作られた黒いカンチレバーが特徴で,現在単体では買えないがテクニカ製をはじめ多くの普及帯レコードプレーヤーに組み込まれて売られているカートリッジである。ただAT3600Lの適正針圧が3-4gであるのに対してCARBONは2-3gであるところが異なる。まずCARBONを5000円くらいで買って,ヤフオクでAT3600L用の交換針ATN3600Lを新品2000円で買って比較してみると,CARBONの針はややおとなしい上品な音で,ATN3600Lだとテクニカらしいエッジの立った音になった。こちらの方が針圧もたっぷりかけられるしATN3600Lのほうでしばらく聴いてみようと思う。大量に製造されているカートリッジなので交換針の供給も当分大丈夫だろう。
このページの下のほうにスクロールしてみればわかるように自分はMCカートリッジもSPUに至るまでずいぶんと試してみたのだが,けっきょくこういう安物のMMカートリッジの音が好きなのだなあと思う。というか,自分はMCカートリッジが傷んだレコードや録音の悪いレコードで出す歪んだ音が苦手なのだと思う。同じ初期盤をSPUと聴き比べても自分の耳にはAT3600L/CARBONの音のほうが好ましく聴こえる。幸せな耳だと言えばそういうことになる。
今年は年初めから人事関係のトラブルなど強いストレスにさらされていたせいか出張先で熱を出すなど体調が思わしくなかった。それが10月中旬に日本精神病理学会というので発表をしに東京に行って帰ってきてからは強い不安と焦燥で仕事もできなくなり,生まれて初めて精神科というものにかかることになった。精神科の学会に行って帰ってきたら精神科にかかることになるとは面白いなとひとりで笑った。
病気は不安障害(DSM5なら全般性不安症)ということで抗うつ薬と抗不安薬でようやく落ち着いてきたところである。心と体の調子が悪かったことは買い物からもわかるもので,なんと今年は7月から10月末までレコードを1枚も買っていなかった。それに気づいてからは頑張ってレコードを買って健康づくりをしている。その効果あってか昨日のCT検査では転移や再発の兆候はなかった。
レコードを買わないくらいだからオーディオの買い物も少なかった。そんななかで買ってよかったのはゼンハイザーのヘッドフォンHD25だった。値段の割に安っぽい作りだしケーブルが右耳側から出るというのも不思議だが音は素晴らしくよい(エージングには少し時間がかかる)。Appleの純正イヤフォンの音が好きだった人にはこのヘッドフォンはおすすめだと思う。
CTを撮ったらまた肺に転移があるというので3回目の放射性ヨード内用療法の準備をすべくPET-CTを撮ったのだが,どこにもがんが映らなかった。主治医も不満げなのだが映らないものはしょうがないのでとうぶん経過観察をすることになった。PET-CTの料金は3割負担で3万円。これで1〜2年寿命が伸びてくれるといいのだけど。
SME3010Rを中古で買った。元箱なし,メインのサブウエイトなしの完動品ということで75000円。整備するために分解してみるとおかしなことに気づく。シェルコネクタからのリード線のうち1本がベース部のRCAジャックの端子に巻き付いて引っ張られて切れそうなのだ。原因はRCAジャックのアース側のカシメが緩んでケーブルを抜き差しするたびに回ってしまっていることだった。RCAジャック自体が破損しているので交換しなければならない。うまくしたもので,eBayを見るとSME純正のRCAジャックのセットがNOSで出ている。送料込みで約5000円だがさっそく取り寄せて交換した。
使ってみるとやはりRシリーズは調整がしやすいししっかり作られていて気分がいい。ガラード401のプレーヤーのほうに3010R,トーレンスTD-150には3009Rをつけて楽しんでいる。
昨年5月の肺の手術に続いて,3月末にまた入院して首の腫瘍を郭清する3回めの手術を受けた。手術から1週間で退院して傷の具合もよかったのだが,今回は手術後の声の不調が2ヶ月近く続いて,普通に授業ができるようになったのは先週に入ってからだった。これでまた3年くらい落ち着いてくれれば定年にたどり着くのだが,どうなりますか。そういえば,自分の病気について書いた短文が日本心理学会の「心理学ワールド」に掲載された。
下に書いたMC10に続いてカンチレバーと針が交換されたMC20,オリジナルの状態のMC10MkIIを手に入れて,古きよきオルトフォン軽針圧MCカートリッジの音を楽しんでいる。だったらトランスもオルトフォンじゃないとと思って旧タイプのT-20も買った。どれもせいぜい2万円程度だったので,得られる楽しみから見れば安いものだなあと思った。昨日はオリジナルの針がついたMC20を落札できたので,それが届いたらまた聴き比べようと思う。
ヤフオクでオルトフォン初代MC10を針先だけチップ交換して売っている人がいるので買ってみた。MC10の発売は1978年だから,40年以上前のカートリッジということになる。真っ赤なプラボディはオリベッティ・レッテラ・バレンタインを連想させる。出力が0.1mVしかないのでフォノイコのMCポジションでは音量的にもS/N的にも苦しく,トランスで昇圧することにした。何枚かレコードを聴いてみると,まあなんとしなやかな音。オルトフォンはやっぱり素晴らしいなあと感心する。
ネット情報にはMC10の適正針圧を1.7gとするものと2.0gとするものがあるが,当時の取説を確認すると初代MC10は2.0gが適正針圧であるようだ。これが次のMC10 Mk2や Superになると1.7gあるいは1.8gに軽くなる。聴感的にも1.7gだとちょっと高域がきらびやかすぎる感じで,2.0gが適正針圧だと思う。
トランスとフォノイコをつなぐ短いケーブルにはカナレの安い赤白ケーブル(2RCSシリーズ)を使ってみた。0.5mで290円,1mで350円である。アース線はつけたしたが,音はなんの問題もなく普通。MC10がよかったのでこんどは初代MC20も針先を交換したものが出て来れば買ってみようかと思う。
5月の入院以降どうも調子が出ないのは買い物をしないからだと思って,欲しかったレコードをいろいろ買ってしまうとともに,アンプも買い換えることにした。といってもこれまで使っていたCambridge Audio CXA80(写真下)は気に入っていたので,同じメーカーの同じシリーズの新型機CXA61(写真上)を買うことにした。正確にはCXA80の後継機はCXA81でこのCXA61は下位機になるのだが,こちらのほうがコストパフォーマンスがよいしDACもCXA80よりずっと高性能なものになっているのでこちらを選んだ。
CXA80には不満なところが3点あって,第1はボリュームつまみになんの目盛りも印もないので音量の設定が目で見てわからないこと。これまでシールを貼ってわかるようにしていたが,CXA61ではボリュームつまみに見やすい印がついている(写真右)。第2はBluetoothを使うためには背面のUSB端子にドングルを挿さなければいけないうえに使うたびにドングルのボタンを押さなければいけないこと,これもCXA61では本体に内蔵されてボタンをを押す必要もなくなった。第3は部屋で電気毛布や電気ストーブなどを使うと電源トランスがジーと鳴くこと。これもCXA61では解消されている。
上記の改良点と,DACが32bit/384KHz,DSD256まで対応になった点を除けば,このアンプは前のアンプとほとんどなにも変わらない。使い勝手も同じだし音質の差もごくわずかである。なんとなくMac miniの機種更新に似ているなあと思った。
ほんとに皮肉のようにオリンピックが終わったらすっかり涼しくなってしまった。また窓を閉めて大きな音でレコードが聴けるようになったのはありがたいことだ。病気のほうは医者からもう「次の手術」の日程の話をされているのだが,さすがに入院手術の間隔は半年くらいは空けたいなあと思う。
シュアがカートリッジの製造を終了してからM44-7に代わるDJ用カートリッジの座をどのメーカーのどのカートリッジが手に入れるかが注目される中で,オルトフォンが発売した「VNL」カートリッジは最有力のものの一つである。JICOが「J44」シリーズでM44のコピーを目指すのに対して,オルトフォンは同社伝統のVMS型カートリッジをベースに新設計の,しかしM44との互換性を明確に意識した「VNL」を世に出したわけである。
いっぽうDJでないレコードファンから見ても,M44-7のようにたっぷり針圧のかけられるMMカートリッジが新品で買えるというのは大きな魅力だし,初回限定パッケージにはコンプライアンスの異なる3種類の交換針が付属するとなれば食指が動く。さっそく使ってみるとDJ用とはいえ腐ってもオルトフォンだけにクラシックでもきちんとした音で聴けるし,針圧4gの威力で傷んだレコードもモノラル盤も難なく聴かせる。とくにローコンプライアンスの「3」の針は古いレコードにぴったりである。いっぽうハイコンプライアンスの「1」の針はややワイドレンジで現代風に響く。ボディが真四角なので取り付けや調整もしやすい。ただひとつ難があるとすれば演奏時のボディとレコード面との間のクリアランスが非常に小さいことだが(写真右),これも「カートリッジのお尻を擦らないように高さ調整すればトラッキングアングルが適正になる」という意図的な設計なのかもしれないと思わせる。これで当分大丈夫そうである。
4月にPET-CT検査を受けたら肺に光るものがあって,肺転移だから取りましょうということになり,5月末に入院して左肺の一部を取る手術を受けた。甲状腺がんの肺転移は多発転移でもう抗がん剤しか治療法がない状態でみつかることが多いのに対して,自分のは単発で取れる場所にあったのでまあ「不幸中の幸い」ということになる。肺転移すると5年生存率はかなり下がるがそれでもまだ8割くらいである。まあがんばりましょう。
3月にレストアした3009IIを近代化改装しようと3009S2impのアームベースを買ったのだが高さ固定ネジがついていなかった。それでSMEのエレーヌさんにネジを送ってもらって(写真左)ようやく取り掛かった。アームベースを取り替えるのと一緒に「左右逆」になっていた接続をチェックしたら左右逆なだけでなく逆位相にもなっていた。ようはシェルコネクターに180度逆にケーブルをはんだ付けしてしまったのである。それも直して3009IIはすっかり使いやすいアームに生まれ変わった(写真右)。
前に不注意でカンチレバーを曲げてしまったDL-103を針交換した。いつのまにかDL-103は針交換も3万円近くかかるようになっていたが,交換できるだけありがたい。交換したDL-103はストックとしてしまい込んで,4年くらい前にeBayで安く買ったDL-103を開封してこの3009IIにつけて聴いている。いい音だが,さてあと何年レコードが聴けるか。
今日は病院に行ってCT検査を受けたが,ここまでの治療でもしぶとく残っている「小さい奴」が主治医はとても気になるようで,来月あらためて PET-CT検査を受けることになった。まあ病気とは一生のつきあいだが,毎年こんなに被曝して大丈夫なのだろうか,大丈夫じゃないだろうなあ。
ヤフオクで「音出し確認済」とはいうもののジャンク感のつよい旧型3009IIを33000円で落札した。届いてみるとやはりのジャンクで,「本来ねじ止めだけで固定されているパーツがことごとくボンドで接着されている」「不適切な注油が行われていてあちこちベタベタ」という曲者だった。それでもパーツの欠品はなかったのでリストアできるだろうと思った。エラスティック・カップリング・ラバーは劣化していて要交換,内部配線も被覆が硬化していて交換せざるを得なかった。
まず全体を分解して金属部品は溶剤に漬けてボンドを溶かす。幸いこれでパーツは元通りバラバラになった。アームベースの横方向のベアリングがボンドと油でベタベタ,不適切な組み立てで自由に回らなくなっていたのも洗浄し,調整する(写真)。こんなところまで手をつけるのは今回が初めてである。アームリフターの内部も薄汚れていたので掃除して油を入れる。
ナイフエッジもアームパイプに接着されていたのだが,刃もきれいに残っているので今回ここは(大変作業が面倒なので)いじらず,アース線もオリジナルのまま残して,シェルコネクタからの配線だけをカルダスに交換するつもりだった。しかし例によってシェルコネクタへの再ハンダづけに失敗してコネクタをダメにしてしまい,以前買ってあった伊audiosilente製の新造コネクタに交換した。これは精密にできているしハンダづけの熱にも強くて上手に交換することができた。しかしSME純正のシェルコネクタはハンダづけが前提になっているのになぜあんなに熱に弱い素材で作ったのか。みなさんはお金をケチらないでSMEから内部配線がハンダづけ済みのシェルコネクタを取り寄せることをお勧めする。
エラスティック・カップリング・ラバーは今回は純正の黒いものを使った。前に3009IIに使った無色のものよりかなり柔らかい。純正はこのくらいだ,ということも覚えておかないとならない。旧型出力コネクタのケーブルは使いにくいのでeBayで買っておいたRCAコネクタに交換する。本当はアーム高さ調整の部分も3009S2imp以降のものに交換するつもりで買っておいたのだが,パーツに不足があって交換できなかった。
組み上がったアームをTD-150に取り付けてDL-103Rで聴いてみると妙にいい音である。同じDL-103Rを3009Rにつけてもこういう音は出ない。やはりSME最高のアームは3009IIだなあと感心する。最初左右チャンネルが逆で焦ったが,これはそのうち直してやろうと思う。3月初めの土日2日間はこれのおかげで楽しく過ごした。こういうことをあとどのくらい楽しめるのか。
英国ウェストサセックスはステイニングのSME社から発送されたSME純正パーツ#2208は1週間ほどで手元に届いた。今回はぜいたくして内部配線がすでにハンダづけされたものをお願いした。送料込みで213.61英ポンド,邦貨29481円である。しかし十数年前に自分がイギリスに行った時には1ポンドは200円近かったのではないか。
パーツを見てわかったのは「SMEオリジナルの内部配線は撚ってない」ということだ。eBayで入手できるカルダスのアーム内配線用ケーブルは4本がかなり固く撚り合わせてある。この撚り合わせのせいでケーブルがかなり強いバネ的な力をもって,アームを左右方向に引っ張るのが気になって,最近はアームベース側は撚りをほぐして配線していた。撚ってないだけでなく,SMEのケーブルはカルダスよりもかなりしなやかで,これならアームに与える力も小さいだろうと思った。
慣れた手順でアーム内にケーブルを通すと,配線はアームベース側がすでにハンダメッキされていてRCAジャックに簡単にハンダづけできた。リッツ線のハンダづけにはいつも苦労するのでこれもありがたかった。組み上げてプレーヤーに取り付けて聴いてみると,これまでのカルダスの内部配線とは微妙に音が違うような気がする。シェルコネクタと内部配線はもう壊れない限りはいじらないようにしたいと思う。
カップリングゴムでアーム後部を支えていた軸が取り外せることがわかってナイフエッジは簡単に取り付けられて,難関のシェルコネクターへのアーム内配線はんだ付けと配線をパイプ内に通す作業も無事にパスして,カップリングゴムをアロンアルファで接着する。完成したアームパイプをもとのパイプと交換して配線をはんだ付けして完成。ガラード401と組み合わせてSPUを取り付けてみるといい音で鳴る。今回使ったカップリングゴムと金属製ナイフエッジはどちらもeBayで買った「模造品」だが,とてもよくできている。
調子に乗って前に交換した3009Rの内部配線をもっと細いものに交換しようとして3009Rのシェルコネクターをダメにしてしまう。3009IIと3009Rの内径が違って3009II用のシェルコネクタが使えないというのが敗因だった。パーツを取り寄せようとハーマンのwebページを見るとハーマンは去年でSMEの代理店をやめているのを知って驚く。SMEのwebページには"Genuine SME Spare Parts Available Direct"と書いてあり,メールを書いたら2時間で返事が来た。もう本国から買うしかないので対応が迅速なのはとてもありがたい。
ちなみに,3009シリーズのシェルコネクタのパーツナンバーとSME直販価格は以下のとおりである。
3009II, S2imp用 シェルコネクタ+内部配線 1802/9 GBP201.61
3009II, S2imp用 シェルコネクタのみ 1802/9WW GBP82.35
3009R用 シェルコネクタ+内部配線 2208/9 GBP201.61
3009R用 シェルコネクタのみ 2208/9WW GBP82.35
今度のことで3009Rの「正式名称」が"Series II Model 3009-R" であることがわかった。やはりRシリーズは「旧型3009IIの後継機」だったのだな,と思ったらRシリーズの英文取説にはちゃんとそれが書いてあった(写真)。日本語の取説はどうだったかな,と思って見てみると「お買い上げいただき誠にありがとうございます」みたいなことしか書いてなかった。
(追記)SMEの国内代理店は今年4月から株式会社リジェールになっていて,おそらくそこと同じ系列の株式会社リザイエでSMEの修理もやってもらえそうである。ちなみにSMEはしばらく前にトーンアームの単品販売をやめていて,今後SMEのトーンアームは同社のターンテーブルと一式でしか購入できないのだそうだ。
SPUだけは買ってしまうとオーディオ趣味が「上がり」になってしまいそうでこれまで手を出さなかったのだが,印税などで懐が暖かくなったこともあり,また「いつかは買おう」という「いつか」がもうこの先ないかもしれないと思ったこともあり,いちばん安い「SPU #1」の丸針タイプを買ってみた。約6万円。
ガラード401の3009Rにつけて,最初はフォノイコのハイゲインで聴いてみたがS/Nが悪すぎるのでテクニカのトランスを出してきて3Ωで受けてみると,実にいい音で鳴り出した。なにをかけても「この音が正しいのです」という説得力がすごい。とくにグラモフォンやアルヒーフのレコードをかけたときの「正しさ」感には感心する。針圧やアームの高さ,インサイドフォースキャンセラーなどに敏感でけっこう音が変わるのも面白い。
感心しながら何日か聴いたが,やはりSPUでもうまくかからないレコードはあって,TD-150の3009IIにはテクニカAT-120Eaをつけて聴き比べている。いずれ(いずれがあれば,だが)楕円針のSPUも試してみたいと思う。
3月にまた北大病院に入院して2回目の「放射性ヨード内用療法」を受けた。治療後の検査の結果,去年9月の1回目の治療に著効があって今回はもうヨードの集まる腫瘍が残っていないことがわかった。転移のあったリンパ節自体が縮小していて,腫瘍の一部はもう画像でも確認できなくなっていた。したがってこの治療は今回で終了ということになった。この病気になってから「よくなった」のは初めてなのでうれしいことだ。
さて,グラドのモノカートリッジMC+については10年くらい前に買って(ずっと下の方に記事あり)ときどき取り出して使っていたが,上位機種としてME+という楕円針のモノカートリッジがある。経験的に丸針で聴き込まれて摩耗したレコードが楕円針だとうまくかかることがあるので,楕円針のモノカートリッジもあってよいかと注文してみた。写真上のシルバーボディがMC+,下のゴールドボディがME+である。
取り替えてみると音は悪くはないのだがやや薄味である。2日目になってスクラッチノイズが両チャンネルから出ているのに気づいた。これは「モノ用の針がついただけのステレオカートリッジ」なのである。MC+はちゃんとモノカートリッジのボディだったのに上位機種がこれなのは納得できない。何かの間違いなのか,10年の間にそういうコストカットが行われたのか。
そういえばネット上には「グラドのモノカートリッジはステレオボディにモノ針がついているだけ」という記事が時々あって,どうしてウソを書くのだろうと思っていたが,その人もME+を買って自分と同じ経験をしているのか,それとも今はMC+もステレオボディのモノカートリッジになってしまっているのか。とりあえず輸入元のナイコムさんにメールを書いて確認しているところである。
2万円もムダになってなんか嫌になっちゃったのでひさしぶりにバリレラ(RPXゴールデントレジャー・トリプルプレイのほう)をつけてモノ盤を聴いてみるといい音なので感心する。VRIIのほうもシェルにつけてSMEで聴いてみるがやっぱりRPXのほうがナチュラルでいい音だと思う。
9月末に北大病院に入院して「甲状腺がんの放射性ヨード内用療法」というのを受けた。これは甲状腺組織が(通常でも,がん化しても)ヨードを吸収する性質を持っていることを利用して,放射性ヨードを内服してそれをがんも含めた甲状腺の残存組織に集めさせ,放射線によってそれらを殺すことで再発を防ごうとする治療法で,60年以上の歴史をもつ標準治療である。幸い放射性ヨードが食道の周囲の甲状腺残存組織によく集まっていることは確認されたので,その箇所からの再発の可能性はかなり低くなった。いっぽう首のリンパ節への転移に放射性ヨードが集まったかは明確でなかったので,3月末に再入院してもういちど放射性ヨードを飲むことになった。できればもう手術しないで済むようになるといいのだが,やってみないとわからない。
macOSがCatalinaになってiTunesがMusicアプリに変わったが,自宅でも大学研究室でも外付けディスクに音楽ファイルを入れていたのが災いしてかiTunesからMusicへの移行がうまくいかなかった。いろいろ試してみたけれど時間をムダにするばかりで嫌になったので,これまでもFLACファイルの再生に使っていたAudirvanaにすべての音楽ファイルを移行することにした。AudirvanaはiTunesやMusicより格段に音質がいいのが特徴だが,自分の使っているMac miniでは音楽を聴きながらOfiiceやSafariなどで重い作業をするとノイズが入ったり音飛びが起きたりするし,Audirvana自体が落ちてしまうこともしばしばあって,このままでは常用にならない,
ネットで調べてみると,こういう問題はAudirvanaの設定で回避できることがわかった。いろいろ試してみた結果,アプリのウィンドウの右下にあるスピーカーマークをクリックして開くDACの設定のなかの「低レベルの再生オプション」で(1)インテジャモードを解除する(2)大きなCore Audio I/Oバッファを解除する(3)トラックのプリロードに割り当てられた最大メモリを1024MBくらいまで小さくする,という設定でノイズも音飛びもほとんどなく,アプリが落ちることもなくなっている。
前のエントリのあとに自分はまた入院して手術を受けた。甲状腺がんはめったに死なない病気だが再発や転移はしやすいので長い間つきあっていかなければならない。同じ位置の再手術だったせいもあって退院後の傷の痛みやひきつりがひどくて苦労したが,それもようやく落ち着いてきた。
いろんなカートリッジを使う関係でフォノイコライザはゲインやインピーダンスが細かく調整できるものがありがたい。すこし前にPro-JectのPhono Box S というのをeBayで買って使っていた。細かく調整できるし音質も気に入ったが調整がボディ底のディップスイッチでやりにくいのが玉に瑕だった。調べてみると同じメーカーで液晶ディスプレイを見ながら前面パネルのスイッチでゲイン,インピーダンス,静電容量が自由に調整できるのがあったのでまたeBayで買ってみた。約400ドル。
ライプチヒの業者から発送されたPhono Box DS+は10日ほどで届いた。液晶パネルを見ながらの調整はすこぶる便利だし音質やS/NもPhono Box Sより明らかに改善されている。MMカートリッジで静電容量が4段階に調整できるのも便利である。こういうのをなぜ日本で買えないのかと思う。これでオーディオラックの2段目(アンプ類の載っている棚)の機器はすべて1年前とは違うものになった。
CDプレーヤーがまだ必要なのかについては迷っていた。手持ちのCDの大半はリッピングしてMacのHDDに入っており,FLACなら理屈の上ではCDプレーヤーで聴くのと音質的に差はないはずだ。しかし手元には数百枚のCDがあって,それを聴く「機械」がなくていいのか,とも思う。アップルのコンピュータからCDドライブが消滅したのでCDはコンピュータで聴くこともできなくなりつつある。それでオクで買ったオンキヨーのシスコン用CDプレーヤーのデジタル出力をアンプのDACに入れて聴ける状態は維持していた。
前にケンブリッジオーディオの欠陥CDプレーヤーで聴いた元気で楽しい音は印象に残っていた。オンキヨーからデジタル入力でも,MacからUSB入力でもああいう音は出ない。いま愛用しているケンブリッジCXA80にはペアになるCXCというCD専用トランスポートがあって,それを買えばあの音がまた聴けるかなあというのを考えていたら,ヤフオクに中古のCXCが安く出ていて,定価の半額くらいで買うことができた。
CXA80はブラックなのにこれはシルバーなのは愛嬌だが,期待通りのいい音だった。DAC以降は昨日までと同じなのに,トランスポートが変わっただけでこんなに違うのかと驚く。とくに低域の量感が増してがっしりした感じになった。前の欠陥プレーヤーのようにアタッカで音が切れたりしないし,他のプレーヤーでは音飛びしやすいCDなども上手にかかり,作動音も静かである。アメリカのAmazonでも高評価なのはよくわかる。
自分が「CD再生機」を買うのはおそらくこれが最後で,次に買うとしてもユニバーサルディスクプレーヤーになるだろうと思う。次があれば,だが。
V-15 Type II は以前から持っていてJICOの針で聴いていたのだが,どうも「爆音」寄りのクセが強すぎて好きになれなかった。しかし大阪のこまわり君から古い中古の純正針を送ってもらって聴いてみたらはるかにナチュラルかつ濃厚な音ですごくいい。JICOの針は基本的にすごくよくできていると思うが,オリジナルと完全に同じではないんだなあと再確認した。
ただその純正針はダンパーがへたっていたようでカートリッジボディが盤面ギリギリまで下がってしまう。それでeBayで80年代メキシコ製のNOS針を取り寄せてみた(邦貨約1万円)。これもとてもよくてジャズでもクラシックでもよく鳴る。Type IIIほど神経質でないのもいい。
男もすなるナガオカのカートリッジといふものを,自分もしてみむとてすなり。安い楕円針のMP-110というのを買ったが,まあよくも悪くも日本のカートリッジそのものの音である。ガラードにV15IIを,トーレンスにMP110をつけておけばおおよそなんでも楽しめるだろう。古い傷んだレコードにも強いので,とてもよいカートリッジだと思う。
ここしばらくDL-103をメインに聴いてきたが,またMMカートリッジになってしまった。自分はどうもMCよりMMカートリッジの音の方が好きなのではないかと思う。MCカートリッジは歪みっぽいレコードで歪みが強調される感じがあるように感じる。まあSPUとか最近の高級カートリッジではちがうのかもしれない。
モルドバのプリンスは富山にお住いの方に引き取っていただき,仕切り直しでいろいろ物色していたところ,ヤフオクに古いガラード用の積層プリンスが出ていた。15000円。これはくしくも富山の方にモルドバを引き取っていただいたのと同じ値段である。取り寄せてみるとずいぶんくたびれて汚れていたが,きれいに掃除して蜜蝋で磨いてやるとツヤを取り戻した。
アーム穴はオルトフォン用が空いていて,SME用の穴を開け,裏側にアームやケーブルの収まるスペースを作るのにはそれなりに苦労した。SME穴はテンプレートどおりだとシェルによっては位置調整が合わないのですこし後方に伸ばすことになった。とりあえず写真のように落ち着いている。
フォノ端子のないCambridge Audio CXA80というアンプを買ったので,フォノイコをいろいろ試した。アンプと同じメーカーのCambridge Audio Duoは自分にはゲインが低すぎて気に入らなかった。MMで43dBくらいはないと出力3mVのカートリッジでは苦しい。eBayで取り寄せたPro-Ject Phono Box Sというのはゲイン調整や入力抵抗調整がディップスイッチでできて便利だし,音も気に入ったのでよかった。これと前からのメジャグランのフォノイコでレコードを聴いている。
ガラード401は買った時に仮に自作したボードに乗ったままなのでもうちょっときれいな箱に入れてあげたいと思っていた。eBayでモルドバ共和国の人がいろいろな「プリンス」を廉価で出品していて,ちょうどよいのがあったので取り寄せてみた。品物と送料をあわせて邦貨約30000円である。
届いてみるときれいな仕上げだが,注文した時から危惧していたようにSME用の穴は指定の楕円穴が裏まで貫通しているだけ(写真左)で,3009S2imp以降のピンプラグを横から差し込むようなスペースは加工されていない。まあそれはケーブルが真下に出る旧型3009IIを使えばいいと思って,前にピンジャックに換装していた3009IIを旧型ソケットに戻して取り付けた。
ガラード401も取り付けてみるとなかなかいい感じである(写真中)。しかし実際にカートリッジを取り付けてみると,アームをターンテーブルから最も遠い位置まで移動してもオーバーハングが合わない(写真右)。穴の位置が不適切なのである。合板積層のこのプリンスで穴を新しく加工するのは大変だし,だいいち古い穴がそのまま残るのでは見た目も悪い。見た目を良くするための投資だったのだから万事休すである。(このプリンスをなんとか加工して使ってみたい方はご連絡いただければ手間賃だけでお譲りします。)
オーディオをいろいろいじくっていると,ときどき面倒臭くなって「あ〜もうシンプルなプリメインアンプで簡単なシステムにしたい」と思うことがある。自分が最初に買った英国オーディオであるCyrus2もそういう動機で買ったのだし,デンオンのレシーバーを買ったのもそうだった。先日またそういう気分になって,ちょうど英国製バジェットオーディオとして話題のCambridge Audio Topazシリーズの上位機種であるTopaz AM10がAmazonで安く出ていたので衝動買いしてしまった。24800円。ドル建ての定価が299ドルであるからずいぶんお買い得である。ちなみに下位機種のAM5は2万円以下で買えるようだ。
ここしばらくのテクニクスのプリと中華デジアンの音がかなり硬めでクールだったこともあって,AM10の柔らかくかつ元気な音にすっかり魅了されてしまう。ちゃんと英国オーディオならではの「音楽のポイントに隈取りしてここを聴きなさいと言ってくる音」である。PHONO入力もついていて,これもゲインはやや低めだが至極まっとうな音だった。しかし値段が値段だけに見た目や操作感にはまったく魅力がない。しかし昔のLINNの黒箱みたいなものと思えば愛嬌がある。いまどきのアンプだけにリモコンが使えるのも便利で,値段から言ってもこれは誰にでも薦められる製品だと思う。
それで気をよくしてペアになるCDプレーヤーのTopaz CD10も買ってみた。やはり24800円。これとAM10を組み合わせると総額5万円にして音質的にはなんの文句もないもので,あらゆるCDが実に楽しい音で聴ける。ただしこのプレーヤーには大きな欠陥があって,それはCDのギャップレス再生ができず,アタッカ楽章などでトラック間に無音部分が挟まれてしまうことである。サージェント・ペパーのタイトル曲から"With a little help from my friends"に入るところでも一瞬音が切れる。英米のAmazonでは1つ星レビューの嵐だし,国産だったらリコールものだが,平気で売っているのもイギリスらしいといえばそういう感じである。しかし音はとても2万円台のCDプレーヤーとは思えないもので,自分はこの欠陥には目をつぶって使い続けることにした。
3月の大雪にはまいった。さてまた中華デジタルアンプを買ってみた。おなじみTopping社のPA3アンプ,80W×2のハイパワーである。前に買って数日で手放してしまったS.M.S.L. SA98と同じTDA7498EパワーICが使われているのでダメかなあと思ったが,SA-98Eとはずいぶん違う柔らかめの音で今のところ気に入っている。真空管やトランジスタと同様,パワーICの種類だけでは音は決まらないんだなあと思う。逆にこの音では「パンチが弱すぎる」と思う人もいるだろうから好みは別れるかもしれない。だから自分はネットなどで「音が悪い」と酷評されている機器の音は聴いてみたくなる。
このアンプのもうひとつ優れたところは,電源と入力切替を表示するLEDが適度に暗いことである。最近の安価なオーディオ機器の青色LEDは強すぎて灯りを消しても部屋がうっすら明るくなってしまうのでビニールテープを貼って隠したりしていた。ただしこれも「暗すぎてよく見えない」という人はいると思う。
通電1日を過ぎて,新品オーディオらしい音の角がだんだんとれてますますよくなっている。これまで廉価デジタルアンプはつごう5台買った(ほかにTP10,TP40,SA-98E,AL-502H)が,その中でこれがいちばんいいのではないかと思う。デジタルアンプのいいところは低域の解像度の高さだと思うが,このアンプでも405-2では音程のわかりにくかったベースラインの音程が小音量でもしっかりわかるレコードがある。
eBayで中国の人がSME3009S2用の2.8gのバイアスウェイトの模造品を安く出品していたので買ってみた。2個入りで送料込み1600円。届いてみると純正の梨地仕上げとはずいぶん異なるものだが,重さは正確なので実用上の問題はなさそうだ。ただアームにつなぐための糸は細過ぎてすぐに切れてしまった。それでウェイトの糸を自作することにした。
インターネット検索をしてまめぞう音響研究所さんを参考にホーマックの釣具売り場で1.5号のテグスを買ってきたのだが,自分の3009S2ではちょっと弾力があり過ぎてうまくいかない。改めて1.0号のテグスを買ってきてやってみたらうまくいった(写真右)。写真左のように直径4mm前後のドライバーの軸にテグスを巻きつけてなんども固結びしてアーム側の輪っかを作る。そして反対側をバイアスウェイトに通してウェイト側の正しい長さのところにも何度か結び目を作って抜け止めする。バイアスウェイトから輪っかまでの正しい長さは3009S2用の2.8gのウェイトで86mm,3009III/R用の4gのウェイトでは95mmであるが,多少違っても機能に影響はないはずである。
下で紹介したテクニクスSU-A6は自分で修理しないで福岡の業者さんで完全オーバーホールをしてもらった。セレクタやボリューム類のガリがなくなって快適なだけでなく音質もずいぶん良くなったように思う。ただし費用は7万円くらいかかった。いまパワーアンプはQUAD405-2をつないでいるがA6のサービスコンセントから電源を取るとひどい音なのでテーブルタップに直挿してテーブルタップのスイッチで電源オンオフしていてやや不便である。
憧れていたテクニクスA6(SU-A6)プリアンプがヤフオクに24000円で出ていたので入札したら落札できてしまった。出品者はなんと同じ十勝管内の新得町の人で落札の翌日には手元に届いた。故障箇所の修理と基本的なメンテ調整のされたもので最初からなんの問題もなくいい音が出たが,「フルサイズコンポ」を部屋に入れるのはひさしぶりなのであまりの大きさにびっくりした。
セレクターにCD入力がないことで作られた時代の古さがわかるが,それだけにフォノ入力が2系統ついているのがこのアンプの最大の魅力である。PHONO1はMM/MC切り替えだけでなくMMは1mVと2.5mV,MCは100uV/100Ωと250uV/220Ωにワンタッチで入力感度が切り替えられ非常に便利だ。PHONO2はMM2.5mVに固定で昇圧トランス経由でMCカートリッジをつなぐのに適している。ただしアンプ内部では2つのフォノ入力は感度や抵抗を切り替えるセレクターを経て1系統のイコライザアンプに入るようになっている。ほかに高機能なトーンコントロールもこの機種の特徴だが自分はほとんど使わないだろう。
音はもうテクニクスの音としか言いようのないナチュラルでフラットな音,面白みがないといえば確かにそうだが,どんなレコードでも歪感なく聴かせるのはさすがである。コンデンサーやオペアンプはオリジナルの状態のようなのでいずれ新しい良質なものに交換してあげようと思う。サービスマニュアルは例によってネットで入手済みである。
インフルエンザは治ったはずだがどうも体調が悪い状態が続いて調子が出ない。いっぽうで長男の大学再受験は成功したようで一安心する。さてeBayで香港の業者がDL-103無印を送料込みでも針交換価格より安い値段で売っていたので取り寄せてみた。香港を出てから1週間で帯広まで届く。今はこういう国際郵便も日本郵便のWebページで追跡できるので感心する。
手元には古いDL-103とDL-103Rがあるがこれをいつ買ったのかは判然としない。DL-103系のデータシートは10枚保存されていて,そのうち最も古いものは1982年7月,そのあと83年10月,86年2月,87年1月,88年1月,そして05年9月と書き込みがある。05年9月のもののシリアルが手持ちと一致している。DL-103Rの方は95年4月ともう1枚日付がないのがあってこれのシリアルが手持ちと一致している。まあどちらも10年以上針交換していないのだろうと思う。このページにも何度か出てくるようにDL-103は最近もときどき取り出しては「いい音だなあ」と思うのだが何日か聴いていると歪みっぽいレコードが出てきて「やっぱダメか」と外してしまっていた。DL-103は何年か使うと針が減らなくても歪みっぽくなるのは以前から経験していたのだがここのところMMカートリッジ収集に凝っていたこともあって針交換もしないでいたのだった。
新品のDL-103はやはりとてもいい音で,古い103で歪んでいたレコードも上手にかかるし,やはりMCカートリッジの実体感のある音はいいなあ,と思わせる。大人がちょっと贅沢に酒を飲めば消えてしまう程度の金額でこんなカートリッジが買えるというのはありがたいことである。香港にはまだ在庫があるようなのでもう1個注文しておいた。
卒論の打ち上げの翌日から39度の熱が出て,生まれて初めてインフルエンザA型と診断された。イナビルという新しめの吸入薬を1回吸入しただけで翌日には熱は下がったが,まだウィルスが生きているということで最低2日は隔離のために仕事には行けない状態である。歳を取ってもまだまだ体験することたくさんある。甲状腺のほうも手術で取らなかったリンパ節に怪しいものがあるというので経過によっては再手術になるかもしれない。まあどうなるにしても成り行きに任せるだけだ。
古いアルニコのほうの2213ウーファーもリコーンした。使ったリコーンキットは前に2213Hに使ったのと同じもので,手順もまったく同じだからもっと上手にできるかと思ったらそうはいかなかった。まあ1回目はビギナーズラックでうまくいって2回目は失敗,3回目から安定してできるようになるというのは趣味でよく経験することだ。
コーン紙を取り除いていくと,この2213ユニットは過去に最低1度はリコーンされているようだった。その際にマグネットをフレームに固定するネジがちゃんと増締めされなかったために緩んでガタが出ていたことが片チャンネルのビビリの原因で,これはちゃんと増締めすることができた。作業中最大のトラブルは接着剤を硬化させる薬剤のスプレー容器が作業中に壊れてしまったことで,それによって仕上がりの見た目がかなり悪くなってしまった。また,2213Hより2213のほうがマグネットにコイルが収まるギャップのクリアランスが狭いようで,コーンを大きく動かすと接触する感じがあって音出しするまで大いに不安だった。
さいわい音はとてもうまく鳴って,ビビりも改善されたし,大音量を入れてもコイルがマグネットに接触するようなことはなかった。前にリコーンした2213Hはリコーン直後は低音が出ず,硬さが収まるのに3ヶ月以上もかかったのに対して,2213は最初から低音もよく出るし中高域も自然でまったく問題ないどころか,いやこれこそJBLだねやっぱりJBLはいいねえ,という音で鳴ってくれる。同じ系統のユニットを同じコーン紙で張り替えてなんでこんなに音が違うのか。まあ考えてもわからないので「やっぱりアルニコマグネットはさすがだなあ」ということで納得しておくことにするが,ヒントとしてはこのリコーンキットのエッジが2213Hの純正のものよりかなり硬めで,古いJBLのエッジに近いということが挙げられると思う。
わが4312Bについている旧型アルニコタイプの2213ウーファーがときどきビビるので,比較用に中古の2213Hを買った。これは見た目は汚いものだったが音は大丈夫で,ビビリもなかった。そこで古い2213を修理しようと業者に問い合わせたら5万円以上かかるというので考え込んでしまう。それで思いついたのが「DIYでリコーンする」ということだった。そういっても貴重な2213をいきなり実験台にはできないので,ヤフオクでコーン紙のないジャンクの2213Hを5000円で買って,それをノースウェスト・トレーディングの2213リコーンキットで練習してみることにした。リコーンキットと専用の接着剤一式で約2万円。
リコーン作業はけっして簡単ではないが,説明書やYouTubeの映像などを参考にしながらであれば,アンプの修理や製作の経験があるような人なら誰でもできると思う。いちばん時間がかかったのは古いコーンやダンパーと,それを接着しているボンドをきれいに剥がすことだったので,この工程を合理化できれば作業はもっと楽になるのではないか。
完成すると見ため的には新品同様になる。4312Bに取り付けてみるとやはり新品のスピーカーと同様の硬くて耳障りなピークのある音だが,これはエージングによって徐々に改善されると思う。リコーンから今日で3日目だけれどすでに徐々に柔らかくなってきている。また,今までのユニットより歪みがかなり減った感じがあって,前は歪みっぽく感じたレコードが気持ちよく聞けるようになっている。
さて練習がうまくいったのだから次は本番の2213ということになるが,今回リコーンした2213Hがちゃんと鳴っているのだから急ぐことはない。それより中古の2213Hのペアが完全に余ってしまったのでなんとかしないといけない(欲しい方あれば相談ください)。
ヤフオクで白いボディの古いM44-5(写真の左端)を安く手に入れて,これでボディの色やロゴの違うM44の各タイプが一通り揃ったことになる。ネットで手に入るシュアのカタログを参考に,M44系の変遷をたどってみよう。
最初のM44は1963年に発売された白いM44-7で,当時の価格は$19.95である。1964年のシュアのカタログにはこれに0.5mil針のM44-5と,モノ用のN44-1,SP用N44-3交換針が加わっている。1968年のカタログでは楕円針のM44E,その上位機種のM55Eが加わるが,これらは茶色のボディに変わっていたようだ。この時点ではM44-7等はまだ白いボディである。
1973年のカタログではM44-5が消えて0.6mil針のM44Gが加わるとともに,白いボディがなくなってすべて茶色に変わる。ただ手持ちの茶色ボディはM44-5なので(写真の左から2番目),茶色になるのとM44-5の廃止は同時ではない。1976年のカタログではM55Eはもっと濃い色の写真になっている。このころからM55Eを筆頭に黒のカモメマーク入りボディ(写真の3番目)に移行していったものと思われる。1979年頃に私が初めて買ったM44Gはすでに黒ボディだった(ただ,茶色のM44Gは見たことがないので,M44Gは最初から黒だった可能性もある)。
1980年代に入ってM44はアメリカ製からメキシコ製に変わる。4本の接続ピンの根元の上部に「MEXICO」と書いてある(写真の右側)のがメキシコ製である。それとおよそ同時にボディからカモメロゴが消え,文字だけの寂しい外観になる。このボディにスタイラスガイド付きのImproved交換針がついたM55E,M44E,M44-7の写真が1983年2月のシュアの広告に登場しているので,この頃がモデルチェンジの時期だったのだろうと思う。この時期のシュアのアメリカ版カタログにはM44系のカートリッジは掲載されていない。すでにHiFiオーディオの位置づけではなかったのかもしれない。
白いボディが1963年から1970年頃の7年,茶色が1970年頃から1978年までの8年,黒のカモメマークが1978年から1983年までの5年なのに比較して,カモメマークがなくなってからのメキシコ製Improvedはもう30年以上売っているわけで,悪口ばかり言われるものの,このタイプこそがもはや標準的なM44なのだろう。
古いM44と現行のM44の音の違いというのはいろいろ言われるが一概には言えない。まあ基本的にはどれでも同じ音だと考えたほうがいい。むしろM44系の針はカンチレバーが大きく湾曲していた旧型とまっすぐになったimprovedでは違うので,針による音の差の方が大きいのではないかと思う。このページの下のほうに古いタイプをコピーした互換針の話も書いておいたので参照してほしい。
ヤフオクで衝動買いしたテクニクスのプリアンプSU-C01。「コンサイスコンポ」という高級システムコンポシリーズの一つとして1979年に発売されたアンプである。入手したのはこの機種で故障しやすいセレクタースイッチが分解清掃されたもので,他の場所も一切トラブルなくよい音で鳴っている。QUAD44と比べてよくも悪くもフラットな音でレンジも広く,同じパワーアンプにつないでもQUADより低音が豊かになる。ただQUAD44の便利なモジュール形式やゲイン調整に慣れきっているので,入力ごとに音量がすごく変わってしまうことへの違和感に慣れるのには時間がかかると思う。
PHONO入力はMMとMCが切り替えられて,MCはハイゲインイコライザーではなく独立のMCヘッドアンプを介するという贅沢な構成である。音もとてもいいのだが,MM側のゲインは低めでM44-7くらい出力の大きいカートリッジでようやくライン入力と同じくらいの音量になる。こういうのもQUAD44なら簡単に調整できるわけで,別のアンプを使ってみることでQUAD44の万能性がわかる。
しかしこれを5万円で売っていたのだから全盛期の日本のオーディオというのはやはりすごい。筐体を開けてみると高品位の部品が美しく配置されていて,基盤は単層なのでメンテにも苦労がなさそうだ。専用部品は比較的少なくて入手が難しめなのはトーンコントロールICのM5213Lくらいだが,これも若松通商にあったので念のため入手しておく。そのうち電解コンデンサーは交換してあげようと思う。いまはこれに中華デジタルアンプSMSL SA-98Eをつないでいるので,この家に来てから初めて,QUADのアンプを一切介さない音が鳴っていることになる。
なかば予想したことではあるけれども,SME3009Rのアームケーブルは昨日深夜にSME純正ケーブルに戻されている。3009SIIのほうも今日のうちに純正ケーブルに戻すことになると思う。このページのずっと下の方を見ればわかるように,私は15年ほど前にもSMEのケーブルを他のものに替えて,よくなったよくなったと喜んだのも束の間,しばらくして純正ケーブルに戻している。今回それが少し規模を大きくしながら再現したのであった。バカみたいだと思うが,やはりときどき繰り返し確認し続けないといけないことというのは人生にあるのだと思う。
端的に言えば,ケーブルを替えて「よくなった音」はSMEアームに自分が期待している音とは違ったのである。レンジが広くなり歪が減り低域が豊かになったのは間違いないのだけれども,SMEアーム独特のしなやかでちょっと神経質な高域がどこかへいってしまう。新しいケーブルを数日聴いているうちにだんだんそれが気になってきて楽しめなくなる。これが15年前とまったく同じように再現されたのだが,正直言ってホッとした気持ちと,これからも純正ケーブルの機嫌取りをしていかなきゃいけないのかという失望感が入り混じった変な気持ちでレコードを聴いている。しかしやっぱりこの純正ケーブルの音は魅力的だし,昔から自分で言っているように「SMEアームの音は純正アームケーブルの音」ということに尽きると思う。
ラインケーブルのほうはここしばらくで作ったベルデン88760のでよいのでそれでいくが,アームケーブルについては古い純正ケーブルをきれいに磨き,必要なら修理しながら使っていきたいと思う。ただ純正ケーブルの線材でプラグだけ付け替えたらどうなるかについては興味がある。今度断線して修理できないのが出てきたら試してみようと思う。
ところで最近プラグやジャックの清掃には「ペーパーセメント用のソルベント」というのを使っている。むかしLINNショップから勧められて使っていた「KONTAK」という高価な接点クリーナー液があったのだが,それと似たような感じでとてもきれいにすることができる。ひどい汚れやサビはメラミンスポンジを併用することでさらにきれいになる。接点はそのくらいの出費で十分きれいになるのであって,高価な接点復活剤などが必要になることは稀だと思う。
旧型3009SIIはいい音なんだけど古いので接続や調整がしにくい。接続については前に書いたように3009SIII用のRCA出力ユニットに交換して他のアームと同じケーブルが使えるようにした。調整についてはゼロバランスやラテラルバランスの調整が3009Rよりはるかに面倒なのだが,これについてはアームの心臓部分の構造が違い,SIIの音のよさがその部分に依存しているので変えようがない。しかしアーム高さ調整の具合の悪さはどうしてもがまんできないものがあった。
一番左の写真のようにSIIの高さ調整は1個のネジで締めるだけになっていて,これがガタつくしアソビが大きいので気をつけないとすぐにアームが傾いてしまう。それではせっかく苦労してラテラルバランスを調整しても意味がない。このへんの寸法は3009Rまでずっと同じなので,もっと楽に正確に調整ができる3009R期のアームベース部を手に入れて交換することにした。真ん中の写真がイギリスから届いたパーツで,一目でわかるように高さ調整はベース全体で均等に締め付けられるようになっていて傾きが生じない。
交換は首尾よく完成し,高さ調整がスムーズに行えるようになってこのアームへの不満がまたひとつ減った。いまや3009SII,3009SIII,3009Rの部品が混合したニコイチならぬサンコイチになったわけだが,そういう「近代化改修」をして使い続けられるのもSMEアームの魅力といえよう。
アームケーブルはけっきょくモガミ2473とNEUTRIK/REAN NYS352Gで作ったものに落ち着いた。アームケーブルを交換したことでますます「ダメなカートリッジなどない,どのカートリッジもそれぞれいい音だ」という信念が強化された。新しいケーブルでは古いSME純正ケーブルに比べて歪みが少なくなり,低域が豊かになったので各カートリッジの個性もよくわかる。この機会に持っているカートリッジのリストを作っておこうと思う。
実に37種類。複数持っているものもあるので実際の所有数はもっと多い。ここにあるすべてのMMカートリッジの交換針は純正で入手可能か,JICO製を買うことができる。この中で気に入っているものとしては最近ではDENON DL-8があるし,AT120Ebも常用になっている。SHUREではM91EDが特に好きだ。今は持っていないが過去に使ったもので印象深いものをあげればADC QLM32やEMPIRE 2000,ORTOFON FF10などがあって,これらはぜひまた手に入れて聴いてみたいと思う(16/09/07カートリッジ追加)。
アームケーブルで自作ケーブル病が再発してしまい,以前から気になっていたベルデン88760でラインケーブルをいくつか作った。88760は有名な標準ケーブル8412の現代版とされるもので,強力なラップシールドが施された2芯シールドケーブルである。太さは約4mmの細いケーブルだが,芯線は一般的なマイクケーブルよりずっと太くなっている。シールドはドレーン線で接続できるようになっていて,加工が簡単である。サウンドハウスで1m480円。
最初は例のLinkman激安プラグで試作してプリアンプとメインアンプの間につないでみたら,驚くほど音が変わった。このケーブルの音はネットでは「クリスタルサウンド」とよく言われているがまさにそのとおりで,見通しがグッとよくなって特に通奏低音の動きなどが手に取るようにわかる。いままで聴こえなかった音に気づくのも音質が改善された証拠である。
ただ88760はかなり硬いケーブルなのでプラ製プラグではちょっと頼りない感じになってしまう。そこでふたたびサウンドハウスから使い慣れたカナレF-09と試しにREAN NYS-352Gを取り寄せてみた。初めて使ったNYS-352Gはいいプラグで,ジャックへの嵌り具合も絶妙である。ハンダづけもF-09ほどではないがわりとやりやすいので,これからこれを使っていこうかなと思っている。ただステレオの左右を示す表示がないので工夫が必要だ。
作ったケーブルでDACからプリアンプまでとプリアンプからメインアンプまでをつないでみると,Audirvanaでのデジタルファイル再生の音がなんともハイエンド風の透明な響きになる。アームケーブルを作ってレコードの音がすごくよくなったのと相俟って,この10年くらいで最も満足できる音になっているのではないかと思う。といってもその音で聴くのはいつもと同じ「ペットサウンズ」なのだけれども。
SMEのアームケーブルはいい音だと思うがよく断線する。ケーブルやプラグの構造上断線の修理は面倒で新しいのを買う方が楽だが,いま純正ケーブルは4万円もする。同じようなものを自作できないかというのはずっと懸案だったが,昔LINNのケーブルに変えてがっかりしたのがまさに「トラウマ」になって手をつけられなかった。しかしこの1週間ほどで2種類作ってたいへんうまくいった。
最初に作ったのはモガミ2473(小柳出で左右ペアで1m500円)とマルツLinkmanの一番安いピンプラグによるもので,アース線は3009SIII用をまねてアーム側で二股になってプレーヤーアースをとるようにした(写真左)。これを旧型3009SIIにつけ替えてみたら音がよい方向に大きく変わったのでびっくりする。ナチュラル&フラット,歪感も大きく減った。
それで気をよくしてもうひとつ作った。今度はカナレL-2B2AT(梅澤無線で1m49円!)という細い二芯シールドに自作派に評判のトモカのピンプラグ,これもアースはSIII用方式(写真右)。TD-150のフローティングを活かすためにもっと細くて柔らかいアームケーブルにしたらどうかというもの。これは3009Rにつないで,最初硬い音で失敗したと思ったが1日聴いたらどんどんよくなった。ハムやヒスなどのノイズレベルがすごく下がったのと,やはり歪感が減ったので,ここ数年あまり上手に鳴らせなかったDL103が滑らかな音で聴けるようになった。ただトモカのプラグは嵌合が固すぎてアームのピンジャックに根元まで挿さらない。これはいずれマルツの安いプラグに交換しようと思う。
SMEのケーブルが悪くてこれらがいいというのでなく,手元のSME純正ケーブルはどれも作られてから10年20年,なかには30年以上経っているものもあるわけで,経年劣化だと思う。ここのところ「ケーブルは高いのより新しいもの」という経験が重なる。SMEコピーという意味ではコンデンサーをかまして容量を加えたケーブルや二芯シールドでシールドをアース線に引き出したものも作ってみようかと思っている。
両端がRCAピンプラグになってからのSME純正アームケーブルにはいくつものバリエーションがあるが,大きく2つのタイプに分けることができる。第1のタイプは黒いケーブルの表面が艶消しの2芯シールドのもので,芯線がそれぞれホットとコールドにつながり,シールドはアース線によって外に引き出されて,アンプ側に落ちるようになっている(擬似的なバランス伝送だがアンプのピンジャックのコールド側がアースに落ちていればあまり意味がないようにも思う)。アームのアースはもう1本のアースケーブルにつながっていて,アンプにはつごう3本のアース線がつながる(写真左,写真はケーブルのアンプ側)。このタイプは3009S2imp, 3009/3010/3012Rなどに付属していて,S2imp用はプラグがニッケルメッキ,Rタイプ用はプラグが金メッキであった。SMEはこのタイプでヴァンデンフルのケーブルを使った高価なものも作っていて,自分はヤフオクで安く買った「SME純正ケーブル」がそれだったので驚いたことがある。
第2のタイプは3009SIII,SIIISに付属していたもので,ケーブルが黒くて表面にやや艶のある単芯シールドで,芯線がホット,シールドがコールドにつながっている。アームのアースはアース線でアンプにつながるが,アース線のアーム側は二股になっていて,マニュアルでは1本をターンテーブルのアースに接続するよう指示されている(写真右,写真はケーブルのアーム側)。つまりS2impやRのケーブルはアース線が2本あるのがアンプ側なのに対して,SIII/IIISのケーブルはアース線が2本なのがアーム側ということになる。自分は最近SIIIアームを買うまではこのタイプのケーブルの存在を知らなかったので,ヤフオクで「SME純正ケーブル」を落札したらこのケーブルが来たときに「ケーブル素材も構造も違うので純正ではないのではないか」と出品者にコメントしてしまった。知らなかったこととはいえ申し訳ないことをしたと思っている。どうもすみませんでした。
これらのアームケーブルにはピンプラグの中に極小のセラミックコンデンサが組み込まれて静電容量が与えられているものと,そうでないものがある。それがどういう意図でどのように使い分けられていたのかはよくわからない。また,SME製のケーブルにはこれらの他に灰色や水色のケーブルにアース線が1本だけついたものも売られていて,1990年代に札幌の大阪屋で何本か買ったのがまだ手元にある。これはアーム用というよりラインケーブルとして販売されていたと思うが,アース線がついているのでアーム用にも使えた。しかしそれらがアームに付属して販売されていたことはないと思う。
eBayに3009IIIをバラしてパーツにして売っている人がいて,出力ジャックまわりのパーツ一式が出品されていたので買ってみた。送料こみ75英ポンドで邦貨11383円也,以前はこのくらいの値段で純正交換セットが新品で買えたが最近は見なくなった(SMEの補修パーツカタログには現在もSpare #3826Gとして掲載されている)。これを3009SIIについている旧式の4ピンコネクターと交換して,SIIにもふつうのピンケーブルがつなげるようにしようというわけである。
アーム内配線の交換までやった自分には交換はごく簡単で,アース線の取り回しに少し悩んだ程度できれいにできた。この機会にMMカートリッジに合わせて作られていると思われる3009III用のアームケーブルに交換したのもあって,音はずいぶん現代風になった。3009SIIの音はよくも悪くもあの4ピンコネクターの音なのかもしれない。
このパーツを落札してPayPalで支払いをして,イギリスから日本まで届くのを待っている間に国民投票の結果がEU離脱になってポンドがひどく下がった。もう数日待っていれば安く買えたのに残念だった。まあそれにしてもこの2週間くらいの作業でこれまでやや持て余していた3009SIIが便利な常用アームに生まれ変わったのはよかったと思う。
このカートリッジは数年前から私のガラクタ箱の中に転がっていた。たぶんマイクロのベルトドライブのプレーヤーを中古で買った時についていたのだと思う。しかしカンチレバーがしわしわに歪んでいたし,そもそもこんなカートリッジがいい音するわけがないと放置していた。それが下に書いた3009IIのリストア後にいろんなカートリッジを試しているときに気まぐれで音を出してみて驚いた。それでヤフオクでナガオカ製のデッドストック交換針(楕円針のDSN-42)を買ってきちんと鳴らしてみてますます驚いたのである。
標準針圧は2.0g,ややブーミーながっしりした低音の上に濃いめの中音域,それにわずかにピークのあるシャリっとした高音が乗っかるという自分の大好きなバランスである。音質もいいが傷んだレコードや歪っぽいレコードに強いのも特筆すべきことで,私がチェック用に使っている「難しいレコード」のほとんどを難なくクリアしてしまった。同じデンオンでもDL-103ではそういうレコードは盛大に歪むので,レコードファン的にはこちらのほうが優れていると言わざるをえない。
このカートリッジは1970年代後半にベストセラーになったデンオンのDDプレーヤー群に純正で付属していたもので,単売はされていなかったようだ。外見的にも特徴のない「ただのカートリッジ」なので,単売したところで売れなかっただろう。しかしプレーヤーはたくさん売れたのでこのカートリッジもまだたくさん残っており,ヤフオクにも時々出てくる。こういうものがこんなにいい音で鳴るというのがオーディオ最盛期の日本メーカーの実力だったのだと思う。私が中学生の時に買ってもらったモジュラーステレオは日本コロムビア製で,その交換針の番号はDSN-38だった。このカートリッジの純正丸針はDSN-37,楕円針がDSN-42である。いずれもJICO製で現在も簡単に入手できるのがありがたい。
(16/10/16追記)その後の調査や実物確認によって,DSN-37もDSN-42もオリジナルは丸針であることがわかった。適正針圧も同じだが,DSN-37はDL-8用で半透明のグレーのノブ,DSN-42はDL-8A用で黒いノブがついている。DL-8Aも入手して試したが,どちらのカートリッジボディにも両方の針を取りつけて聴くことができる。現行品で入手できるJICOの互換針はDSN-37用DSN-42用いずれも丸針と楕円針,SAS針の3種類が用意されている。
シェルコネクタが渋くなってからしまいこんでいた旧型3009 Series II だが,シェルコネクタの整備方法が確立したので修理することにして,ついでに内部配線をカルダスのリッツ線に交換するとともに,劣化したエラスティックカップリングのゴムを劣化の心配のないテフロン製のパーツに交換する作業を行った。
最難関と事前に予想していた「アームパイプ内に新しい配線を通す」作業は事前のメンタルリハーサルどおり古い線に新しい線をハンダづけしてシェル側に引き抜くことで簡単にクリア。意外に難しかったのはエラスティックカップリングの交換で,オーストラリアから取り寄せたパーツが太すぎで長すぎてまったくはまらない。ヤスリで削ってなんとかはめ込んだ。これでウェイトを全部つけてももう垂れ下がることはないし死ぬまで交換の必要がない。
シェルコネクタは配線を外してから分解し,ベンジンのお風呂に入れて汚れを洗い落とした後に回転部に少量のリチウムグリスを入れてグリスアップした。これでシェルの付け外しもぐっと滑らかになる。ナイフエッジやベアリングも掃除したり洗浄したりしてすっかりきれいになった。
リストア後の音質はどうかというと,あいかわらずのSMEの音である。内部配線を交換したのでわずかに見通しがよくなったかもしれないが,これも聴くうちに落ち着いてくるだろう。なにしろ劣化の不安のあるところを直したので精神衛生上は大きな効果があった。どんなカートリッジでもつけられる万能アームなのでテクニカのシェルにつけたDL-103で楽しんでいる。
uDAC3はとてもよい音なのだが肝心のCDプレーヤーがデジタル接続できないのが不満だった。ネットを見ていると例によって中国製でuDACより安い単体DACが出ていたのでこれは面白いおもちゃだと思って取り寄せてみた。S.M.S.Lの「Sanskrit 6th」という製品で,USB接続で32bit/192KHz,それとデジタル同軸および光入力がスイッチで切り替えられる。これをコンピュータとはUSBでつなぎ,CDプレーヤーとはTOSLINK光でつないで,QUAD44のRADIO入力(モジュールはCD/AUX)に入れた。
中華オーディオに共通する特徴として音の出かたはややクールでuDAC3ほど元気いっぱいではないが,音のレベル自体は高いと思うし,さまざまな入力に対応しているのも便利である。自分はこれまでCDでヴァイオリン独奏曲を聴くと耳の中がジンジンいってがまんできなかったのだが,同じCDがこのDACで聴くとまあなんとかがまんできる。デジタルものの進歩というのはまさに日進月歩で,5年前の5万円のDACと今の1万2000円のDACでは後者が圧倒的によいのだと思う。これに最後のもう一味を加える,といった種類のことに中国のメーカーが習熟しだしたらもう他国のメーカーは競争できないだろう。
プリアンプを介さずに中華デジタルアンプに直結して聴いたらもっとよいのではないかと思ってやってみたがあまりにあっさりした音になりすぎて自分はダメだった。中華デジアンで聴くにしても間にQUADのプリアンプが入らないと楽しく聴けないのが自分の音感覚なのだろうが,遠からずオーディオアンプはデジタルアンプと真空管アンプだけになるだろうと思う。
旧いSMEアームの最大の欠点はシェルがアームパイプにきちんと平行に取り付けられないことである。高さ調整をしてアームパイプをレコードに平行にしても,シェルがまっすぐ付いていないのでカートリッジは多くの場合尻下がりになってしまう。これを解決するには,アームの平行を犠牲にしてアームを高くすることになるが,あまり高くするとアームリフターの最低の位置でも針先がレコードから浮いてしまうし,見た目もかっこ悪い。見た目がかっこいいからSMEアームを使っているのにこれでは台無しである。カートリッジの前側とシェルの間に紙などを挟んでカートリッジを傾ける方法もあるが,これも精神衛生上あまり気分がよくないし,テクニカAT120などシェルとカートリッジの接触部分が狭いカートリッジではうまくできない。SME純正の旧型S2シェルではカートリッジがフィンガーリフトを挟んだぶん浮いているのでそもそも紙が挟めない。
シェル一体型交換アームCA1を採用した SeriesIII ならこの問題は解決しているはずなのだが,残念ながらそうではないのだ。実際にカートリッジを取りつけてみると,CA1のシェル部分には1本1本角度のバラツキがあって多くの場合傾いている。新品でもそうだったので,製造時からそうなのだと思う。左右の傾きは調整できるのでよいのだが,写真のようにカートリッジが尻下がりについてしまうのはどうしようもない。シェル部分が狭いので紙も挟めない。Series III は画期的な名トーンアームだと思うが肝心なところがどうしてこうなのか。Series III のマニュアルを見るとカートリッジは基本的にはコンパウンドでくっつけてネジは軽く締めればよいと書いてある。コンパウンドの可塑性を利用して調整しろということか。(16/07/31加筆 手元にある5本のS3用キャリングアームの水平を調べてみたら,4本は尻下がり,1本は尻上がりにカートリッジが付いていた。尻下がりのうち1本はアームを最高位置まで高くしてもシェルが水平にならなかった。)
3012R/3010R/3009Rの発売と同時に標準になったS2Rシェルで2本ピンが採用されたことで問題は相当に改善される。しかし改善されるのは2本ピンの純正シェルを使った時だけだし,そもそもこのS2Rシェルは3009IIや3009/S2impなどの旧型アームには取り付けられないのである。(最後の頃に製造されたS2impや,のちの修理でシェルコネクタが交換された旧型アームではS2Rシェルが使える場合もある。)
この問題が根本的に解決されるのはユニバーサルシェルが廃止される Series V からだが,今度はSMEアーム自体がそれまでの優美な外観を失ってしまう(値段もすごく高くなって手が出なくなった)。音質,機能,外観,価格,精神衛生のバランスから言うとRシリーズがSMEアームの完成形だったのではないかと思う。それでRシリーズ以外のSMEアームでの上に述べたような傾きの解決方法だが,まあ気にしないことである。旧い Series II についてはシェルコネクタをS2Rの使えるR用のものに交換すると気休めになるかもしれない。
昨日わかったこと。SMEアームのバイアスウエイト(インサイドフォースキャンセラーの重り)の重量は3009/3009II/3009S2impは2.9g,3009III/IIISと3009Rでは4.5gである。ただSMEのインサイドフォースキャンセラーもあまりまじめに考えない方がよいものである。3009IIとRで取り違えてつけていたのに昨日気づいたのだがこれまで特に問題を感じたことはなかった。
2年ほど前にブロンズのナイフエッジに交換していた3009Rと3009/S2impだが,どちらもオリジナルのナイロンエッジに戻した。音よりも見た目がキンキラなのが気に入らなかったのだが,戻してみると音もこっちの方がSMEらしいよく言えば色気悪く言えばピークのある音だ。まあSMEの人もこれでいいと思ってこれを使っているのだろうからむやみにいじるものではない。ブロンズエッジはヤフオクに出してみようと思っている。しかし交換した時には簡単にできたのに戻す時にはネジの裏側のアースタグがなかなか適切な位置に止まってくれなくて苦労した。もう壊れない限りいじらないことにする。
AT33EVがよかったのでこんどはDL-103をつけてみるとこれもよかったので,TD-150+3009IIIのほうにDL-103,Garrard401+3009IIのほうにDL-103Rをつけて聴いている。どんなレコードでもきちんとかかる,やはりとてもいいカートリッジだと思う。今回はカートリッジの水平とアームパイプの水平を両方実現するためにシェルとカートリッジの間に紙のシムを入れてカートリッジを少し傾けた。
カートリッジを取り替えるときはたいていいま聴いているカートリッジでは上手く鳴らないレコードが出てきて,そうするとどれもこれもダメな感じがしてきてカートリッジを取り替え,上手く鳴らなかったレコードが上手く鳴ると安心してしばらくそのカートリッジで聴く,という流れになる。しかししばらくするとまたそのカートリッジで上手く鳴らないレコードが出てきて,別のカートリッジに取り替える。
不思議なのは,再度取り替えていい音で鳴っているカートリッジで以前上手く鳴らなかったレコードをかけると,ちゃんといい音で聴けることが多いということだ。以前DL-103では歪みっぽくてダメだったレコードがいまはきちんと聴ける。これは一体どういうことなのか。ある程度その音に飽きると歪みっぽく聴こえるとかいうことがあるのだろうか。一流メーカーが出しているカートリッジできちんとしたアームにつけてちゃんと調整していれば基本的にそんなに音の悪いものなどないと思うので,自分の耳の問題なのだろうと思っている。
DL-103無印とDL-103Rを聴き比べてみると,103Rも以前思ったほど悪くはない。無印よりRのほうがわずかに柔らかく滑らかなので,聴き方によっては少し眠く感じるくらいだと思うが,やはり自分は無印のほうが好みだと思った。無印とRでコイルのインピーダンスが違うのも無視できないだろう。DL-103は10年くらいは平気で使えるので,自分が死ぬまであと1個か2個買えばすむだろう。
SME 3009Rのメインウェイトについているゴム製のリング,純正部品も入手できるのだが市販のOリングで代用できないかと思って,サイズを測ってISO規格の近いサイズのものを取り寄せてみたけれども少し太いようでうまくいかなかった。材質にも違いがあるようだ。まあ純正でも数百円なのでそれを使えばいいのだが,いずれ手に入らなくなるのではと思うのだ。
カートリッジについてはMMカートリッジを好む時期とMCカートリッジを好む時期が交替でくる。ここ3年くらいはMMカートリッジを好む時期がずっと続いていたが,ラインケーブルをテクニカの安物に代えてからオーディオの調子がすごくいい状態が続いているので,ひさしぶりにテクニカAT33EV(現行品)をつけてみた。昇圧はQUAD44のMCモジュールを使うのではなく同じくテクニカの昇圧トランスAT650を使う。
このページを遡ってみるとこのAT33EVを買ったのは2012年の1月である。テクニカAT33系の多くがラインコンタクト針やボロンカンチレバーなどの現代技術を用いているのに対してこのAT33EVは普通のアルミカンチレバーにムク楕円針が付いている。その結果なのか,このカートリッジはテクニカにしては実に穏やかで静かな音がする。組み合わせたAT650トランスの特徴はよくある40Ω,3Ωに加えて珍しい20Ωポジションを持っていることだ。テクニカのMCカートリッジは10〜12Ωのインピーダンスなのでこのポジションがちょうどよいし,DL103無印が40Ωなのに対して14ΩのDL103Rを使うのにも適している。
3年前にガラード401が来たときに「仮」のつもりで適当な木材で作ったベースをいまだに使っている。使っている間に塗装したり,補強材を入れたり,また塗装したりしているうちにベースはすっかり寄木細工のような風貌になってきた。写真左が3年前に作った時,写真中が補強して塗装したところ,写真右が今日現在使用中の様子である。
トーレンスのようにフローティングにしない限りレコードプレーヤーの音はプレーヤーベースの影響を大きく受ける。ガラードのようなリジッドなプレーヤーだと基本的にはベースは重くて硬くて強いものほどゴロも抑えられるし音質的に有利だと思う。実際補強を入れて塗装する(表面を硬くする)と音は全体に「静か」な方向に少し変わる。
もっとお金をかけてよい材料でソリッドに作られたベースにすればもっとよくなるのはわかっているが,ツインアームに対応したコンパクトなものはなかなか売っていないし,このベースはプレーヤーの下部やアームの裏側が見えて手が届くので整備や調整が楽なのも捨てがたい。
下で紹介したNuForceのDACを買った時に,研究室のオーディオに接続するために右にAmazonリンクが表示されているテクニカの安いRCAケーブルを買った。試聴した時にそれでQUADに接続してすごくいい音だったので自宅で使うことにして,それでもともと繋がっていたDac Magicと繋ぎ替えたのだが,どうもさっきのいい音がしない。こちらは何本も買って10年くらい愛用しているLINNのブラックケーブルである。
それからしばらくのうちに自宅システムのラインケーブルはすべてこのテクニカの一本1000円ちょっとのケーブルに入れ替わってしまった。このケーブルがとくによいということではなくて,ケーブルも長い間使っていると劣化するということなんだろうと思う。このテクニカのケーブルはプラグがジャックに柔らかく嵌って抜き差ししやすいのもよい。高級ピンケーブルはだいたいピンプラグが硬くて抜き挿しに力がいるし,機器のピンジャックにも傷がつくのでずっと気に入らなかった。
LINNのブラックケーブルはたしか1組1万円くらいして,買った時にはいい音なので驚いたのを覚えている。これで私のシステムからあんなにいろいろ買ったはずのLINN製品はいっさい姿を消した。これからこのテクニカの安ケーブルの音でひとまず耳をリセットして,その上でまた高い新しいケーブルが必要かどうか考えようと思う。
前回更新からしばらくして,私は甲状腺がんになって入院し,甲状腺全摘と周囲のリンパ節郭清の手術を受けた。あまり死なないがんとはいえ,入院の前にはずいぶん精神的に調子が悪くなって苦しんだ。まあとにかく手術は終わって退院し,こうやって生きているわけである。ただ,毎日たくさん薬を飲まねばならないのは面倒なことだ。
3週間と少し入院して退院し,しばらく自宅療養してから職場に復帰した。復帰祝いで研究室のオーディオを改善しようと思って買ったのがこのNuForce uDAC3という小さなUSB DAコンバータである。15000円。大学に持って行く前に自宅のオーディオにつないでみてびっくりし,そのままメインのDACになった。大学へはこれまで使っていたDAC Magic が行くことになった。
なにしろ元気で楽しい音である。その下に写っているのはQUAD 67CDが具合悪いのでヤフオクで15000円で買ったオンキョーのCD/SACD/DVDプレーヤーで,これをCDトランスポートとして使ってDAC Magicに光でつないで聴こうという算段だったが,アナログ出力も十分いい音なのでそのまま使っている。デジタルものは新しいものの進歩にはかなわないと思った。NuForceにはDDA120というフルデジタルプリメインアンプがあって,そういうのに入れ替えてみたらどんな音だろう,ということも夢見る。しかし病気のために28年度前期の非常勤や講演は全部断ってしまったので当分の間オーディオ機器に使えるお金はない。
父の法要と納骨が終わってからしばらく放心状態だったが,元気が出てきたので懸案だった4312Bのアッテネーター修理その他のリストアを行った。
4個のアッテネーターをハーマンから取り寄せた新品に交換すると同時に,ネットワークのコンデンサをDAYTONのものに交換,ユニットのガスケット(パッキン)の交換,接点のクリーニングなどを行った。やはり難関は銘板を剥がしてネットワークを取り外すところで,予想通り銘板はシワシワになってしまったので新品と交換した。
結果としてアッテネーターのガリはなくなって大変気分がいいが,音質的にはなにも変わらない。まあコンデンサ交換で悪くならなくてよかったというところだろう。4312はLS3/5aのような音場型のスピーカーではないのでスピーカーの間に心置きなく物が置ける。レコード棚をDIYして間に置いたので300枚程度余計に収納できるようになった。
オーディオテクニカは1962年創業で私と同い年である。そのテクニカの初期のベストセラーであるAT-3型MMカートリッジの「新品」というのをヤフオクで手に入れた。元箱などはないので確実ではないが,ほとんど使用跡のないものではあった。カートリッジにはオリジナルのムクダイヤの(おそらく)楕円針が付属していた。
さっそくSMEのシェルにつけて3009SII,ガラード401で聴いてみる。よく言えば穏やかで重心の低い音だが全体にひどく眠い音で楽しめない。ただ傷んだレコードには強いしなんとなく素性の良さを感じるので,あきらめずにJICOから新品の丸針をとりよせてみた。大正解。もとからの重心の低い音に中高域の張りも加わってとてもよい音だし,古い傷んだレコードにも強い。JICOの針はオリジナルと違って接合だが,やはり古い針は磨耗していたか,ダンパーやマグネットが劣化していたのではないかと思う。JICOにはAT-3用の楕円針も用意されているのでいずれ試してみようと思う。
これはテクニカが特許回避でVM型に移行する以前のMMカートリッジで,いわゆる「テクニカくさい音」よりはもう少しナチュラルである。針圧が3.5gまでかけられるのも私のようなレコードマニアにはうれしいものだし,針圧をうんとかけてよければ音の良いカートリッジを作るのはそんなに難しくないんだなと再確認させる。自分が初めて買ったモノラルカートリッジはこれのモノラルタイプであるAT-3Mだったが,あれはもう30年以上前だと思う。
とりあえず父の納骨と一周忌の法要を済ませるまでは死ぬわけにも倒れるわけにもいかないのでこういうもので心を励ましたいと思う。
ヤフオクで適当に入札しておいたら落札できてしまったJBL 4312B。最初は低域がブーミーでがっかりしたが徐々に締まってきて現在は満足できる音で鳴っている。スピーカースタンドもハヤミのかなりしっかりしたものを買った。御多分に洩れずアッテネーターにガリがあるので他のところも含めてオーバーホールしようとハーマンからパーツを取り寄せた。いちばん高かったのはアッテネーターを交換するためには剥がさないとならないフロントパネルの銘板(Foilical)で1枚8000円。音には関係ないと思うがオーディオでは見た目はとても重要だ。いまのところうまく鳴っているのでパーツは揃えたものの修理するのはだいぶ先になると思う。
4312Bではアッテネーターの調整によってクラシックもちゃんと聴けるし,ジャズがバリバリ鳴る音も作れる。クラシック向き,ジャズ向きなんていうのは言われているほどはないと思う。
SMEのナイフエッジは3009/12 Series II まではメタル製であるが3009S2imp以降,Series III,3009/10/12Rなどは「カーボンファイバー」製になっている。ようはプラスチックであって,これが音質に悪影響を与えるために Series II のように鳴らないのだと言われている。それでこのナイフエッジを旧型と同様の金属製にするためのパーツが売られていて,今回は Bronze Knife Edge と表記されているものをeBayでチェコの業者から買った。送料込み35英ポンド(右端の写真の右端,金色のもの。ちなみに左端はSeries IIのメタルエッジ,中央がS2impやRに使われているカーボンファイバーのもの)。別に今の3009S2impの音に不満があるわけではないが,3日間夏休みをとったので試してみることにする。
交換には多少のコツが要る。まずメインウェイトを外す。このときライダーウェイトやウェイロッドを外さないこと(小さな部品が転がり出てしまい紛失の原因になる)。つぎに左右のネジを外してナイフエッジを覆っている三角の部品(ヨークヘッド)を外す。つぎにナイフエッジのサドルを固定しているネジを外すのだが,必ず後ろ,メインウェイト側から先に外す。後側のネジをとるとメインウェイトとライダーウェイトの取付けられている黒い部品(スパイダー)をアームパイプから外すことができる。この状態でアームパイプの中を覗き込むと,ナイフエッジを固定する前方(シェル側)のネジが,アーム内のアースタグに切られたネジ穴で固定されているのが見える。これをよく見ておくのが肝心。
前側のネジを外すとナイフエッジが外れるので,新しいナイフエッジを取付けるのだが,この時にアームパイプの中からピンセットなどでアースタグのネジ穴が正しい位置にきて前側のネジを受け入れるように押えながらネジを回す。これは予想外に難しくて手こずるが,リード線を切らないように落ち着いて作業する。前側のネジを固定したら,スパイダーを正しい位置に挿し込んで後ろ側のネジを固定する。私のS2impではスパイダーのネジ穴がバカになっていたので,スペアに買ってあった中古部品のスパイダーと交換した。そしてヨークヘッドをもとの位置にネジ止めすれば交換は完了である。
音質にはあまり興味がないのだが(笑),全般に見通しが良くなり低域も自然に伸びて,現代的な方向に改善されたと思う。金属製のエッジはeBayやヤフオクで6000〜12000円くらいで簡単に手に入る。3009S2impや3009/10/12Rを使っている人には低コストで面白い遊びだと思うので試してみてほしい。しかし音はともかくこのキンキラキンの色はなんとかならないか。オリジナルと同じように黒く塗装されたものはないのだろうか。
ここのところシュアのカートリッジをたくさん集めた。M44-5,M75B,M91ED,M95ED,M70B,M72Bなど,どれもMade in USA時代のものだがせいぜい5000円くらいで,ときには1000円台で買うことができた。V15系以外の1970年代のシュアのカートリッジというのはオークションでもそのような扱いになる。
それぞれ特徴があってそれぞれよい音なのだが,もっとも気に入っているのがM91EDだ。これは世代的にはV15 Type II の直系になると思うが,CD-4にも対応したワイドレンジカートリッジとして売り出されたものだ。同じ位置づけでV15 Type III 系がM95EDだが,95と91では95はちょっとフラットで上品すぎる感じがする。M91EDは十分にワイドレンジで繊細な上に,中低域には独特の力感があって,クラシックも楽しく聴ける。JICOの互換針でも十分いい音だが,やはり無垢ダイヤのオリジナル針には一日の長がある。
互換レコード針については謎が多いことについては下にも書いたが,シュアの純正針や一部の互換針に見られる,ボディに刺さる「スタイラス・アッセンブリー・キャリアー」部分の内側のハンダづけのような銀色の部分が何なのかかがおよそわかってきた。写真のそれぞれ左側がN44-7の純正針,右側がEVG製の互換針で,純正針だけにその「銀色の部分」があるのがわかるだろう。ネット情報などを総合すると,これはカンチレバーにアーム方向へのテンションを与えるテンションワイヤーを固定しているハンダあるいは溶接の跡らしい。そして,純正針にはテンションワイヤーがあるのに対し,EVGの互換針にはテンションワイヤーがなくダンパーゴムだけでカンチレバーが支えられているようだ。これは音質にも相当な影響を与える違いだと思う。
シュア用互換針でもJICO製のパッケージ入りのものにはこの銀色部分があり,テンションワイヤーが取付けられていることがわかる。これも下に書いたが,V15III用の互換針でもJICOリテール品にはテンションワイヤーがあり,ヤフオクで「国産JICO製」として売られているバルク品にはない。そうなるとヤフオクの「国産JICO製針」はいったいなんなのだろうか。レコード針の世界には他にも謎が多い。ここしばらくはメジャグラン製の外付けフォノイコで聴いていたが,またQUAD44のMMモジュールでシュアの各種カートリッジを聴き直してみるとやっぱりQUADのモジュールの音も良い。
父は4月10日に亡くなってしまった。まだ後片付けがいくつかあるけれども,毎日なにか心配している毎日ではなくなった。とはいえまだ心も体も緊急モードからは抜け切れていない。
ここしばらくでずいぶんたくさんのシュアやGEバリレラの互換針を内外から買い集めた。その結果わかったいくつかのことを書き留めておく。まず,eBayで1本$15程度の安い値段で買える互換針のサプライヤー(発売元)には Pfanstiehl と EVG の2社がある。2社とも互換針の製造業者ではなく,各国からレコード針を仕入れてパッケージングして売っているだけと思われる。Pfanstiehlは1950年代から存在する互換レコード針の有名ブランドであったようだが,2001年以降はLKG Industries Inc.の一部門になっている。Pfanstiehl のパッケージは黒いプラ箱に三角の透明窓が開いているもの(写真左)で,製造国表示のないもの,Made in USA,Made in Japan,そして Made in Switzerlandの4種類を確認している。
いっぽうEVGは比較的新しいブランドのようで, Russell Industries Inc. の一部門である。国内業者にこれをEV(Electro Voice)製として売っているところがあるが,少なくとも現在EVGとEVには何の関係もないと思う。EVGはいかにも安っぽい透明のプラケースに入っており(写真右),製造国表示はない。eBayでこれらの針を大量に取り扱っているニュージャージーのAnderson's Musicは「PfanstiehlとEVGの中身は同じである」と主張していて,実際この業者に同じ型番の針を注文しても時と場合によりPfanstielが届いたりEVGが届いたりする。しかし実際にはPfanstiehlのShure N44C(スイス製表記)とEVGのN44Cは外見的にも音質的にもまったく違うものだった。個人的な経験ではEVGよりもPfanstiehlの針のほうが満足できる場合が多いが,製品のバラツキは両社ともかなり大きいと思う。
日本で互換針を作ってきたメーカーとしてはナガオカ,JICO(昔のSWING),アーピス(昔のKOWA)があり,PfanstiehlやEVGが売っている針の中にもこれらのメーカーの製品がかなり混じっていると思われる。しかしeBay互換針と純正針,JICO製でいま国内でふつうに手に入る互換針を比較すると面白いことがわかる。VN35MRのシュアの純正針(写真左端)はカートリッジに挿さる真鍮色の金属軸部分の内側にハンダづけの跡のような銀色の部分がある(黒線で囲んだ部分)。JICO製のVN35E国内販売品(左から2番目)は純正と同様に銀色の部分があるのに対し,同じVN35EでもEVG製(右端)やヤフオクで「国産JICO製の逆輸入品」と称して売られているもの(左から3番目)にはそれがなく,内側も同じ真鍮色である。N91EDで同じ比較をしても,やはり純正とJICOには銀色の部分があり,EVGにはなかった。音質的にも概してJICO製国内販売品のほうが純正に近い感じがする。
ヤフオクでは輸入互換針(なかには明らかにEVGと同じプラ箱に入っているものもある)を「国産JICO製の逆輸入品」と称して売っている業者が複数あるが,それがJICOが国内で売っているものとほんとうに同じという保証はないと思う。業者がウソをついていないとすればJICOは国内向けには純正の高精度なコピーを売る一方で海外にはそれとは違うものを輸出していることになるが,そんなことがあるだろうか。
親族の問題で心配ごとが多くて気持ちがなかなか落ち着かない。こういうときこそレコードはいい音で鳴っていなければならない。
ヤフオクでメジャグランの稲田さんが作ったフォノイコが出ていたので買ってみた(写真右)。ゲインと入力インピーダンスが自由に調整できるイコライザに,前の持ち主の特注によって3つのフォノ入力切替がついているという,まるで私のために作られたようなものだ(前面のトグルスイッチはある目的のために私がつけたものだが実働していない)。
これで聴くとMMカートリッジが実によい音で鳴る。それでカートリッジはすべてシュアになってしまった。TD150+3009SIIIにはM75BにN75EDIIをつけたもの(針圧1g,写真左),ガラード401の3009RにはM44GにSP用のN44-3(針圧3g),3009SIIにはM44GにN44C(針圧4g,写真中),どれもカートリッジは70年代製のカモメマーク,針はeBayなどで入手した互換針である。3009SIIIにはもちろんV15 TypeIIIもつけてみたのだが,ローコストのM75Bのほうが中低域に力があって好ましいと思った。ただこれはV15IIIのほうの針が購入後20年くらいも経った純正のVN35Eであるせいかもしれない。
ガラードとM44Gの相性は驚くほどで,とくに古いステレオ盤やモノラル盤ではこれ以外のカートリッジがなぜ必要なのかと思わせるような説得力がある。N44Cで4gかければフラットの初期盤でもモノラル専用カートリッジと比較してとくに遜色はない。SPでも復刻盤LPにもっとも近い音が出るのはバリレラやテクニカよりM44G+N44-3だった。しばらくはこれで聴いていくことになる。まあまたしばらくすると飽きていじりだすだろうが。
GEのバリレラカートリッジ,古いRPX型トリプルプレイ(写真上)と後のVRII型シングルプレイ(写真下)をしばらく使ってみた。結論としてRPXはとくにモノラルLP用としてこれまで使ったカートリッジでもっともよかったので残り,VRIIはうまく鳴らせずに手放すことになった。
どちらも普通の47KΩ受けで聴いたが,RPXはとてもよいバランスで聴けるのに対してVRIIは元気で迫力はあるもののキンキンして楽しめない。もともとバリレラは6.2KΩくらいで受けるよう指定されているので負荷抵抗を変えればVRIIも良い音で聴けるのかもしれないが,それではRPXはいまの音で鳴らなくなってしまう。あと出力レベルもVRIIの方が大きくて,普通のフォノイコで使うにはますます使いにくい。RPXであればM44-7とそれほど変わらない音量である。
バリレラで苦労するのはやはり針だ。もともとバリレラはレコードの最初のリードインに入る時に他のカートリッジと違うやや甲高い持続ノイズを出すのだが,これが一個一個の針によって大きくなったり小さくなったりする。これがRPXよりVRIIでは一段と大きくなってSP再生ではがまんできなくなる。これもよい針が手に入れば違うのかもしれない。もうひとつ,バリレラは構造上縦方向のコンプライアンスが著しく小さいので(ステレオ盤をかけられないのも同じ理由),レコードのソリに弱くてすぐに針とびを起こす。このへんはオイルダンプアームなどで工夫しないといけないのかもしれない。
それでもRPXと6gの針圧はとくに古い傷んだレコードをこれまで使ったあらゆるモノ用カートリッジよりも上手に鳴らす。まさに「レコードのグレードが一段上がる」,GグレードのレコードがVGで鳴る,VGのレコードがEXで鳴るという感じである。SPも盤によるがうまく鳴ったら絶品。なにしろ古いレコードをたくさん持っている人は一度は試してみるべきである。
ガラード401のON/OFFレバーを回した時になにか「カラカラン」とものが落ちる音がして,それからレバーがOFFの位置よりずっと左まで回るようになってしまった。レバーを適切な位置で止めているストッパー部分のプラ部品が折れたのだ。とりあえずゴムを挟んで応急修理したが,やはり本格的に直すことにした。
幸いにも折れた破片は確保できていた。ガラードをベースから外して裏返し,レバーやリンケージを外してみると,ON/OFFレバーの通るフロントパネルの裏側のプラが折れていることがわかる(写真左)。破片を瞬間接着剤でもとの位置にくっつけて(写真中),カッターの刃を割ったものを接着して破断部分を補強した(写真右)。裏側の隙間には硬いゴムを挟んで曲がらないようにする。これで当分の間は大丈夫だろう。
この部分にはON/OFFレバーを戻すバネの力がつねにかかっており,プラ部品ではいずれ経年変化で壊れてしまう。この部分を含むフロントパネルは初期の401では金属製だったのが70年代に入るとプラスチックになってしまったものだ。他にも力のかかる場所があるから,いずれ初期型の金属製フロントパネルを手に入れて交換したほうがよさそうだ。ヴィンテージオーディオはそうやってニコイチ化していく。
バリレラはその後VRIIも届いたのだが,カートリッジはともかく手に入る互換針の品質にバラツキが大きすぎて落ち着かない。そんなときに落ち着いておおらかにレコードを聴くのにはシュアのM44がいい。思い起こせば自分が最初に買ったMMカートリッジはM44G,たぶん1979年か1980年のことで,M44シリーズの発売は1963年だからその時点で発売15年を超えていたし,今年は発売50周年である。
M44Gの針はグレーノブのN44Gで0.7mil(オリジナルは0.6mil)の針先に針圧は0.75-1.5g,M44-7の針はN44-7(ホワイトノブ)で0.7milの針先に針圧は1.5-3.0g,どちらも現行品はスタイラスガードがついていてノブの形もオリジナルとは違う。M44系のボディは基本的にどれも同じで,どのボディにもN44系のすべての針を取付けることができる。すこしまえに古いカモメマークのM44Gをヤフオクで手に入れたので,それにいろいろな針をつけて楽しんでいる。
eBayなどではシュア製でない互換針を入手できるが,うれしいことにそれらはスタイラスガードのない旧タイプのノブ形状で作られている。ノブがホワイトのはN44-7,ライトブルーのはN44Cで0.7milの針先に針圧は3-5gである。他にもSP用3milのN44-3(最近のシュア製は2.5mil,グリーンノブ,針圧1.5-3g)と0.4×0.7mil楕円針のN44E(ブラウンノブ,針圧1.25-4g)も互換針で容易に入手できる。M44用の針には他にもモノ用1milのN44-1(ダークブルーノブ,針圧1.5-3g),0.5milのN44-5(レッドノブ,針圧0.75-1.5g)が発売されていた。
M44GにN44-7やN44Cを取付けて3gくらいの針圧をかけると古い傷んだレコードでも実にいい音で聴くことができる。3009Rにつける場合はシェルとカートリッジの間に重りを挟んでやるとますます具合がいい。これしかないならこれだけあれば他のカートリッジがなくても音楽は十二分に楽しめると思う。あとはカモメマークのM44-7がほしいなあ。
バリレラはとてもよく鳴って,モノラル盤やSP盤を聴くのが俄然楽しくなった。針圧を6gもかけるカートリッジにはSMEでなくもっとローコンプライアンス用のアームのほうがいいだろうと物色していたら,ガラード製のTPA-12をすごく安い値段で手に入れることができた。一般にこのアームはダイナミックバランスということになっているが,現在のそれのようにバネの力で針圧をかけるのではなく,カートリッジの重さをバネで相殺するようになっている。したがってネジを回してバネを張るほど針圧は軽くなる。
届いたアームは薄汚れたものだったが分解して掃除したらずいぶんきれいになった。配線やケーブルはオリジナルのものが残ってはいたがひどく劣化していたのでリワイヤすることにした。このアームは現代アームのようにシールドされたパイプの中を4本ないし5本の単線が通るようにはなっておらず,シェル端子から左右それぞれシールド線が出るようになっている。シェルリードも左右それぞれシールドされている。それを藤倉の極細シールド線でリワイヤした。取付けてみるとハムを引く。まずアーム本体をアースする(オリジナル状態ではアースされていなかった)とハムはかなり減るがまだ残る。思いついてバリレラカートリッジの外装シールドカバーとアースの導通を調べるとアースされていないことがわかったので,カバーをアースに落としてみる。幸いにもこれでハムは解決した。
鳴らしてみるとSMEで聴くより安定感が増して良い音である。ビジュアル的にもガラード401と相性がよく古風でよい感じだ。
モノラル盤やSP盤を聴く者の憧れともいえるGEのバリレラカートリッジをついに手に入れた。最初はなにしろ詳しい人の指導に従って使おうということでヤフオクで落札した業者さんにシェルにつけてすぐ使えるようにしてもらったので,それなりの出費になった。ネットなどで見ているとなかなかいい音で鳴らないと苦労している方が多いようなので覚悟していたが,私のオーディオでは旧型3009IIに取付けて針圧6gかけたら最初からLPもSPもすごくいい音で鳴って,まさに「ポンゲー」だったのは幸運だった。バリレラの出力は規格上は10mV以上とされているが,ステレオアームで左右パラレルに接続してしまうとシュアM44あたりと変わらない音量で,QUAD44のフォノ入力感度3mVでとくに問題はなかった。もちろん針音(針先から直接響く音)は現代カートリッジとは比べ物にならないほど大きい。
私が買ったのは金色にメッキされた「ゴールデン・トレジャー」タイプで,針の取付けられた「Tバー」を回転させることでSPでもLPでもシングル盤でも聴けるので「トリプル・プレイ」ということになる。ところが届いたものはこのTバーにSP用とLP用の針先が固定されたもので,針交換はTバーごと行わないとならない初期タイプだった。そこでeBayでTバーにクリップインで交換できる針先のついたアッセンブリを買って交換した(写真右)。ついでに交換針もLP用SP用それぞれ取り寄せた。これでSP用3milだけでも3種類の針先が手元にあるわけだが困ったことに(というか当然のことに,あるいはうれしいことに)1個1個で音がずいぶん違う。楽音の再生音だけでなくリードインリードアウトの溝で聴こえるノイズの音質などもそれぞれである。SP用の交換針はサファイヤで長くは持たないから,何個か買って選別することになるだろう。すでに2個注文中,ああ楽しい楽しい涙々。
LP用の交換針にはオリジナルタイプの1milと0.7milが供給されている。いまのところ1milの針で初期盤から復刻盤まで上手に鳴っているが,0.7milもそのうち試してみようと思う。じつはバリレラで使おうと思ってガラードのTPA-12アームも買ってあるのだが,それを使えるようにするには多少のまとまった時間が必要だ。
古いレコードプレーヤーには定期的に注油すべきところが何カ所かある。ターンテーブルスピンドルのベアリング,モーターのベアリング,そしてアイドラードライブであればアイドラー軸のベアリングである。それぞれの場所にどのようなオイルをどのくらいの量注油するのかというのは経験者ならそれぞれ自分なりのノウハウがあるものだ。
トーレンス TD-150のスピンドルについては以前からドイツのJoel Boutreux氏が供給してくれるオイルを使っている。いっぽうTD-150のマニュアルには「注油にはCaltexまたはTexacoのRegal Oil B(ROB)のみを用いよ」と書かれている。ネット情報によるとこのオイルと同等で現在入手可能なのはCaltex Regal Oil R&O 46という「タービンオイル」で粘度はISO VG46,SAEだと20である。
試しにISO VG46のオイルを買ってきてみた。Joelのオイルよりもかなり粘度の低いサラサラした油である。TD-150のスピンドルを掃除してこのオイルに入れ替えてみると,音質が驚くほど変わってしまった。よく言えば軽快で見通しの良い音,悪く言えば低域がスカスカで深みのない音である。しばらく音を聴いてからJoelのオイルに戻すと,低域の厚みや深みが元通りになる。自分はJoelのオイルの音の方がいいと思うが,なにしろスピンドルのオイルは音質にかなり大きな影響を与える。
ガラード401にはトーレンスのようにオイルの指定はない。新品のガラードには小さなポリボトルに入ったオイルが付属していて,マニュアルではスピンドルもモーターもアイドラもこのオイルを使用するように書かれている。しかしネットで調べるとガラードのメンテナンスをする人の多くはモーターやアイドラーにはISO VG10の「ミシンオイル」を,スピンドルにはISO VG100/SAE30からISO VG220/SAE50の「エンジンオイル」を使っていることが多いようだ。ガラード401のスピンドルにはいまはJoelのトーレンス用オイルを入れているが,おそらくもう少し粘度の高いオイルのほうがよいだろうと思い,SAE50のオイルを注文したところだ。
プレーヤーのメンテナンスに使うオイルの量はごく僅かだが,エンジンオイルなどはリットル売りでしか買えない。古いプレーヤーにこると残りの一生かけても使い切れないと思われるオイルのボトルが溜まっていく。
(13/03/22追記)ホームセンターで買ってきたSAE40のエンジンオイルとJoelのオイルはほぼ同じ粘度だった。Joelはトーレンスの指定よりもかなり粘度の高いオイルをトーレンスに最適として売っていることになるが,音質的にはJoelが正しいように思う。
英 Perfect Sound 製のアイドラーとプーリーを買ってみた。アイドラーはついていたものよりややゴムが柔らかく,金属の芯は精密に加工されているように見える。プーリーはオリジナルのものよりずいぶん肉厚でしっかりしている。取付けてみるとアイドラーと軸受の嵌り具合がわずかに堅い。元のものが摩耗していたのか,あるいは軸受の摩耗を予想してわずかに太く作ってあるのか,いずれにしてもガタが生じることはない。ただ401側の個体によっては嵌らないこともあるのではないかと思う。
プーリーのほうは固定ネジがオリジナルのマイナスネジから六角レンチ用のホーローセットになっている。これは使用上はとても使いやすいものだ。レンチのサイズがSMEアームと同じ1/16インチになっているのも配慮を感じる(レンチは付属していないのでSMEアームを持っていない人はちょっと戸惑うかもしれない)。
回してみるとオリジナルよりかなり静かである。トルクもかなり強くなった。回転数にも変化はなく,プーリーが正確にオリジナルと同じ直径になっていることがわかる。使用上も精神衛生上もアイドラーとプーリーの交換は試したほうがいいだろう。ただしアイドラー16800円,プーリー6300円である。
ガラード401はおおよそ調子よく静かに回るようになった。再生音に多少ゴーゴーとゴロが載るのが気になっていたが,アイドラーの支持機構を浮かせているゴムのグロメットをイギリスから取り寄せて交換したらすっかり静かになった。これでモーター支持バネの鳴き止めゴム,ベースへの取付けネジのゴムワッシャーとあわせて,401で消耗するゴムはぜんぶ交換したことになる。あとはアイドラを交換するかどうかだ。
買った時についてきた2個のアイドラはオリジナルと日本製(に見えるもの)だが,オリジナルのほうは音はよいが動作音が大きく,日本製は動作音は小さいが音に今ひとつ元気がない。英国ロリクラフト(現在のガラード商標保持者)製の新品のアイドラーが16000円くらいで買えるので試してみようと思っている。
同僚の倉持先生から旧型3009SeriesIIをもらった。とてもきれいなものだがやはり古いだけにゴム類はかなりダメになっている。ベッドプレートのネジ穴のワッシャーはすっかりボロボロだったので(写真右)新品に取り替える。このゴムワッシャーは4個1組400円くらいで手に入るので早めに交換したほうがいい。問題のエラスティックカップリングラバーも注文したので届いたら交換しようと思っている。まあお金はいろいろとかかるね。
今回買ったガラード401は外見はきれいだが届いてすぐは回らなかったし(プーリーの位置がズレていた),回るようになってからも回転音が大きかった。モーターを分解して注油し,モーターを吊るすスプリングの防振ゴムや固定ボルトの防振ゴムを交換し,アイドラを研磨し,とやっているうちに徐々に静かに回るようになってきた。
回転音の静粛化にもっとも効果があったのはプラッター内側のアイドラの当たる面の研磨で,それまでゴーゴーいっていたのが一挙に静かになった。まだいくつかできることがあるので,ますます静かになるだろう。ここしばらくDualで修行した技術がじつによく役立った。
ホーマックで買ってきたパイン集成材と角材でとりあえずのベースを作り,3009Rと3009S2impの2本のアームを取り付けた。ずいぶん大きくなってしまって最初は後悔したが,下の隙間にRec-O-Kut Re-Equalizerがうまいこと収まったのは怪我の功名だった。
ガラード401を買うのはこれが2回目だ。1回目は大学生のときで初期型,これはどうしてもきちんと回すことができないまま手放した。あの401も今の経験と技術があればきっとちゃんと修理できただろうと思うと少し残念に思う。いずれにしても401はまた私の手元にきていい音で鳴っている。ちなみにネット情報と照合するとこの401は1976年製らしい。すでにLINN LP-12もTechnics SL-1200も発売されていた時代だ。
今年もよろしくお願いいたします。ヤフオクでガラード401を買った。これについてはこれからいろいろ書いていくことになると思うが,まだ音の出る状態にはなっていない。メンテや調整のためにネットをいろいろ調べたが,詳しい情報のほとんどは前期型の401についてであって,私の買った後期型401(製造番号43951だから70年代のものだと思う)についての情報は意外に少ない。前期型401は電源スイッチとノイズサプレッサーが分離していてサプレッサーの補修パーツも簡単に手に入るが,後期型についてはそもそも電源スイッチがどのような構造になっているかの情報もない。英国の掲示板に「修理がhardである」という記述があっただけだ。
そこで世界の皆さんのために電源スイッチを開いて写真を撮ってみた。左側が外観,右が固定ネジを外し粘着テープを切って開いてみたところである。ホット側コールド側それぞれ真鍮板の接点になっていて,操作パネルの電源レバーの操作と連動して右側のプラパーツが写真下方向に押されて電源が入るようになっている。2つの接点のそれぞれにサプレッサー用のセラミックコンデンサがついていて,容量は0.01uF/2500Vである。
このスイッチの故障としては真鍮板が折れるのとコンデンサの容量抜けが予想される。しかし修理はどこかで真鍮板を買ってきて同じ形に作るだけだし,コンデンサは交換すればよいのでそれほど難しくはないと思う。世界の後期型401ユーザーの皆さんは安心ください(Sorry Japanese text only)。
ヤフオクできれいなDual 1219(キャビネットなし)を少し高い飲み代くらいの値段で買った。ジャンクということだったが修理できるだろうとふんで落札して,モーターやアイドラ駆動メカをきれいに分解整備してアーム部分に取りかかったらびっくり。アームの根元部分のプラパーツが割れて分離しているのだ。いろいろ試みるが復元できなくて修理はあきらめた。
そこで思い出したのが以前から見ていたvabitさんのこのブログだ。さっそく完全マニュアルプレーヤー化してSMEをつける改造に取りかかる。これまでのオーディオ工作の中ではもっとも難度の高いものだったが,とくに苦労したのは電源のオンオフおよびアイドラーの動作をコントロールする仕組み(上の写真の真ん中)と,SMEアームを入れるための穴開け(写真右端)である。
Dual本来の動作ではstartレバーが左に押されるかアームがレコード側に動くと電源が入るとともに,アイドラーが移動してプーリーとターンテーブル内周に接触した状態にロックされ回り始める。アームが戻るとこのロックが外れてアイドラーがプーリーから離れて電源が切れる。しかしアームとオート機構がない状態では一度ロックされると解除されない。それで不要になったレコードサイズセレクターから紐を出してロックの部品につなぎ,セレクターレバーを左に押すとロックが外れて電源が切れるようにした。紐が外れないようにセレクターレバーにスプリングをつけてテンションを与えた。その結果が下の写真。
SME用の穴は最初甘く見ていて,ドリルでいくつか穴を開けてあとはヤスリでつないでいけばいいと思っていたが,2mmの鉄板は甘くなかった。けっきょくドリルで穴を開けまくり,その穴をより径の大きいドリルで広げてつないでいく方法でなんとか開けて,それからヤスリで仕上げた。アームはついたがオーバーハングは外周ギリギリまで持って行ってようやく合うし,アーム高さも最低にしてもまだ高めである。このへんは構造上の限界。
音を出してみると実に元気で楽しい良い音で,とくにSP盤の再生はDual 1218で聞いていた音より格段に改善された。ただモーターの振動を針が拾ってしまって「ブーン」という低い音が少し聞こえる。これはモーターの不良なのか,なにか他に原因があるのか,もともとそういうものなのかわからない。Dual 1219にSMEをつけてみた人はまだ世界に2人くらいしかいないみたいだからね。さて次は1219のために買ったキャビネットについてきたジャンクの1249を修理しないといけない(笑)。
お世話になっている青森の知人に修理してもらったQUAD 67CDが戻ってきた。CDがちゃんとかかって聴けるだけでなく,これを買ったときからの問題だった「特定のCDで音飛びする」現象もいまのところまったく生じない。むかし音飛びしていたCDをかけても音飛びしない。とてもうれしいことだ。
それより驚いたのは67CDの音だ。このCDプレーヤーはこんなにいい音だっただろうか。どんなCDでも刺激的にならず,まさにQUADの音で聴かせる。67CDが帰ってきてからiTunesで音楽を聴くことはずいぶん減って,久しぶりにCDプレーヤーでCDを聴き続けている。
この67CDに難があるとすれば唯一,シュシュシュシュというCDの回転音がかなり大きいことだ。これが以前からそうだったのか,こんどそのようになったのかはよくわからない。これがなにか対策のできるものなのかどうかを少しずつ調べているところだ。
(12/11/18追記 67CDはその後自分でいじってまたダメにしてしまい,再度青森に送って直してもらった。こんどは回転音もしなくなり快調そのものである。)
ヤフオクでスタントン500Aという古いカートリッジを2000円で買って,それをDual 1218につけて使っている。500シリーズは1970年代に発売されて今でもスタントンのカタログに残っている「放送用標準カートリッジ」である。各種の交換針が純正,互換で簡単に手に入るのも大量に作られたカートリッジならではである。
買った時についてきたのは0.7milの丸針(D5107A,黄色マーク)だが,それにSP用3.0milの互換針(D5127,緑色マーク)と0.3×0.7mil楕円の互換針(D5100EE,赤色マーク)を買い足して必要に応じて針を交換して使う。互換針はeBayで送料込み2000〜3000円くらいで買うことができる。現在スタントンが売っている500シリーズ用の純正針もノブの形状がまったく違うが装着できる。ただし品質はあまり感心したものではなく日本製の互換針の方がよいと思う。
シュアM44に比べるとかなり繊細な音が出るがグラドほど線が細くもない。針圧がたっぷりかかるので古いレコードを聴くのには最適である。とくにSP針での再生はほとんどのレコードでAT-MONO3/SPよりもノイズが少なく常用になっている。EMIのSP復刻を多く手がけたキース・ハードウィックもEMTのプレーヤーにスタントン500を使って復刻作業をしていたと聞く。
Rek-O-Kut Re-Equalizer II というものを買った。要はRIAAイコライズされたレコードの音を逆RIAA回路でフラットに戻してから各種イコライザーカーブを与えることのできる道具である。「可変カーブ付きのフォノイコ」とは違ってプレーヤーとアンプの間ではなく,グラフィックイコライザーのようにアンプのテープ出力とテープモニタ―に接続して使う。
写真のようにターンオーバー,ロールオフがそれぞれ8ポジションずつあって,そのレコードに与えられたイコライザーカーブに合わせて調整することができる。真ん中のスイッチをBYPASSにすると入力がそのまま(ステレオならステレオのまま)出力される。INにすると出力はモノラルになって2つのセレクタで与えられたカーブの音が出力される。
よくカーブが問題にされるモノラルLP初期盤では「まあ変わるかな」程度の違いだったが,SP盤では驚くべき効果がある。写真の「ターンオーバー300Hz,ロールオフ-5db」というのは電気吹込SP盤の推奨設定だが,これで聴くと「SP盤にはこんなに良い音が入っていたのか」と思うこと請け合いである。論より証拠でスタントン500A(ステレオカートリッジ)にSP針でRIAAで再生した音とRe-Equalizerを通した音を聴きくらべてみてほしい(レコードはクライスラーのユーモレスク,日Victor ND-630)。ついでに最近入手したストララム指揮ストララム管による「牧神の午後への前奏曲」(1930年,日Columbia W-80)もRe-Equalizer経由でデジタル化してみた。フルートはモイーズによる演奏である。
アメリカからの送料も合わせて邦貨34000円程度の買い物,SP盤を真剣に聞こうと思っているが高価な可変フォノイコにはなかなか手が出ない人にはお薦めである。
ヤフオクでジャンクのQUAD34を落札した。22080円。ベージュの初期型で製造番号はNo.2284,おそらく1983年の製造である。私が前から持っているグレーの34が製造番号No.41119(1995年新品購入)なのと比べるとごく初期のもので,入力端子もDISC以外はすべてDINになっている。届いた時には「傷だらけ」という印象だったが,磨いてみると傷に見えたもののいくつかは単なる汚れで,ボリュームノブの塗装ハゲを除いてはずいぶんきれいになった。しかしこの34はいろんなところが相当に壊れており,44と同じく「コンデンサーと半導体は総取換え」するつもりで部品を注文したところだ。
34は44と違ってDISCモジュール以外は1枚の基盤ですべてを賄っているのが特徴だが,グレーの34とこの34とでは基盤自体が大きく異なっているし,使われている部品もずいぶんと違う。34は44が出た3年後の1982年に33の後継機として発売されてから1995年まで13年間も製造されていたアンプなので,製造中のバリエーションも相当にあるように見える。これからこつこつ調べてまた「無線と実験」にでも発表したいと思っている。
Dual 1218はいい音なのだけれども,冷えた状態で起動すると定速に至るまで少し時間がかかったりオート機構の動作中にアイドラがスリップしてキューキューいったりするのが気になっていた。アイドラやプーリーその他の接触面をベンジンで掃除すると一時的にはよくなるのだが,しばらくすると同じ症状が出る。どうもアイドラの接触面が長年の使用でツルツルになっているのがまずいようだ。
ちょうどアメリカから再生品のアイドラを手に入れる算段がついたこともあり,ダメ元でアイドラを研磨してみることにした。ほんとうは取り外して旋盤かボール盤で研磨するのがいいのだろうが,今回は取り付けた状態でモーターを回しながら1000番のサンドペーパーで接触面が艶消しになるまで研いだ。接触面が真っ平らではまずいのでサンドペーパーを少し傾けたりして元の丸みを帯びた状態を維持するように気をつける。うまく仕上がったら接触面やプーリーをベンジンできれいに洗う。結果は驚くほどの改善。アイドラのグリップは完全に回復してターンテーブルのトルクが増大し上に書いたような問題はすべて解消した。トルクが強くなったことで音質も力感を増したように感じる。少し気になっていたピアノの音の濁りもほとんど解消された。
アイドラを研いでわずかながら小さくなると回転数が変化してしまうのではないかと心配する人がいるかもしれないが,アイドラはモーターの回転速度をそのままターンテーブルに伝えているだけだからアイドラの直径が変化しても回転数は変化しない。プーリーとターンテーブルとの間をきちんと埋めるサイズさえ維持されていれば大丈夫である。トルクが弱く定速まで時間がかかるプレーヤーではアイドラの研磨を試してみるとよいかもしれない。自分でやるのが怖ければやってくれる業者もある。
いまどきQUAD44を使っているような人はだいたいアナログ盤も聴いていて,44に複数のDISCモジュールを挿してカートリッジやアーム,プレーヤーを使い分けている人も多いと思う。QUAD44は入力モジュールの挿し替えで極端な話レコードプレーヤーを5台つなぐことすら可能なのだが,もともとDISCモジュールがついていたところ以外にDISCモジュールを挿すと,ディップスイッチパネルの穴とDISCモジュールのディップスイッチの位置があわなくて調整ができなくなったり,MCモジュールの表示がよく見えなくなったりする。
そこでグレーのQUAD44についていたディップスイッチパネル(厚紙製)をスキャンした画像をGraphic Converterで切り貼りして,DISCモジュール2枚挿し用のパネルを作ってみた(写真左)。これを元のパネルと同じ大きさにプリントして厚紙に貼り付け,穴をくりぬいてあげればいい感じに収まる(写真右)。試してみたい方はここに大きな画像があるので自由に使っていただきたい。ちなみに私のプリンタでは103%の大きさでプリントすると実物大になった。なおオリジナルのパネルを紛失してお困りの方のために修正前のオリジナルパネルの画像もここにおいておく。
Dual のオートチェンジャーは清掃や注油などのメンテナンスは必要とするものの消耗部品というのはほとんどない。アイドラも普通に使っていれば数十年の使用に耐える。そんな中で唯一明らかな消耗部品が "Steuerpimpel"(英文サービスマニュアルでは Guide または Control Stud)である。「シュトイエルピンペル」と読むのだろうか。オート機構の不調,とくにアームが正常に動かなくなった Dual のほとんどではこの部品が劣化しているか紛失している。これは以前使っていた Dual 701(ダイレクトドライブ)でも同様であった。
写真左で団扇状の金属板の下に隠れた白い円筒状の樹脂パーツが Steuerpimpel である。これがない場合は取り付け軸の金属が露出している。私が買った1218ではSteuerpimpel は劣化崩壊して上の金属板にタールのように付着していた。それをきれいに掃除して eBay で入手した代替部品を取り付けた状態が写真左である。
要はこの位置に一定の高さをもった摩擦の大きいものがついてさえいればアームは正常に動作するから,Steuerpimpel は自作することもできる。写真右の左端の黒いのはゴム板から自作したもので,これでアームはきちんと正常動作した。左から2番目がeBay.comで買った代替部品,3番目と4番目はドイツから買った「Dual 純正部品」と称するものである。それぞれ取り付けてみると3番目の透明なものが最もスムースにアームが動作したので現在はこれがついている。これは eBay.de で3個10ユーロ,あと2個残っているのでまあ死ぬまで大丈夫だろう。ちなみにこのタイプの Steuerpimpel がついているのは Dual 1200シリーズだけで,1000シリーズでは違う形のものがついているか,そもそも Steuerpimpel 自体がないのだそうだ。
ここしばらく家での飲酒を控えている。夕食時にすでに酔っぱらっている状態でないと,夕食後に2時間程度レコードを聴くことができる。これは貴重な時間だ。酒を控えると持病の右腕の痛みも和らぐ感じがする。もう調子に乗って飲んでいる年齢ではないのだろう。
ヤフオクでDual 1218を買い,アメリカから取り寄せたUnited Audio(当時のDualアメリカ総代理店)製のコンパクトなベースに入れた。1218はアイドラドライブの3スピードプレーヤーで,買った最大の目的はSP盤を聴くことである。最初はシュアM44GにJICO製のN44-3をつけて聴いたみたら思ったよりいい音だったので,こんどはテクニカAT-MONO3/SPを買って聴いている。状態のよい盤では復刻盤よりよい音がしていると思う。SP盤もたくさんまとめて送ってくださる人がいたり自分でもちょっとずつ買い集めて増えてきている。
Dualの特徴はオートチェンジャーで,これも動作しているのを見ると惚れ惚れするほど楽しいものである。オートチェンジャーでシングル盤などを聴いて楽しむためにこれもテクニカのAT100Eという安いVM型カートリッジを買ったのだがこれがいいカートリッジで,分厚い中低域にちょっと荒っぽい高域が乗ってロックやジャズのレコードを楽しく聴かせてくれる。いつのまにか使っているカートリッジがすべてテクニカになってしまった。私はあと2週ほどで50歳,テクニカも創立50周年だそうだ。
(Dual 1218のメンテナンスについてはMJ無線と実験に原稿を書いたので2〜3ヶ月後には掲載されるのではないかと思う。)
eBayに未使用のSME SeriesIIISが$300弱で出ていたので買ってみた。IIISはSeriesIIIの廉価版という位置づけだが,実物を見てみるとSeriesIIIとはさまざまなところで大きく違うアームであることがわかる。ウェイト付近のモールド部品もすべてまったく別のものでIIISを買ってIIIの部品をとるとかその逆はほとんどできないと思う。アーム機能の最大の違いは,SeriesIIIにはSMEの他のアームと同様にラテラルバランス調整があるのにIIISにはラテラルバランス調整がないことだ。ナイフエッジのSMEアームでラテラルバランスが調整できないのはこのIIISだけではないか。針圧やインサイドフォースキャンセラーの調整もSeriesIIIではつまみを回転させるロータリー式になっていたのに,IIISでは「手でズラしてネジで固定する」だけのものに簡略化されている。オーバーハング調整もSeriesIIIにあった惚れ惚れするようなスライド機能はなく,これも「ズラしてネジで固定する」ものになっている。SeriesIIIについていたシェルの傾き調整やラテラルバランス調整用の素敵なアクセサリもいっさい付属していない。
メインウエイトの構造もまったく違う。SeriesIIIではメインウエイトのプラ部品の中が箱状になっていて,そこに必要な枚数の鉛板を入れてフタをする構造になっている(写真左)。いっぽうIIISでは鉛板自体に溝が切ってあって,これをウエイト部品に直接挿入してストッパーで止めるようになっている(写真中と右)。これはこれで合理的な構造だ。問題は音なのだが,驚いたことにこれだけ構造の違いがあってもIIISはちゃんと「3009SeriesIIIの音」で鳴るのだ。手元にある1979年のSMEカタログによるとSeriesIIIは75000円,IIISは53000円と2万円以上の開きがある(ちなみにこのとき3009SIIimpは46500円)。IIISはSMEがSeriesIIIの音を廉価で提供するためにずいぶん努力して作った製品なのだと思う。ただ現在の中古価格にそれほどの差はないので,コレクター的趣味以外ではSeriesIIIを買ったほうがよいと思う。
SeriesIIIやIIISのアーム部分はキャリングアーム(型番はCA-1)になっていてカートリッジ交換はアームの交換によって行なう。リード線は直出しなので簡単には交換できない。eBayで買ったCA-1のリード線が切れていたのでハーマンに交換を依頼しようと思ったら「SeriesIII系は部品払底のため一切修理ができない」のだそうだ。ネットにはリード線交換の情報があるが相当に難しいらしい。あきらめて先っぽに新しい線とタグをつなぐだけにした。
QUADのアクセサリ類の中でも珍しいものと思われる405用のモノーラルコンヴァーターを入手することができた。外観は1個のDINジャックと3個のRCAジャックがついただけのシンプルな作り,中にもトランスが1個収まっているだけである。(おそらく)DINジャックまたはL/Rのジャックに405をつなぎ,「IN」ジャックにプリアンプからの入力をつなぐのだろう。スピーカーをどうつなぐのかはわからないし,そもそもこれでステレオにするには405とこのコンヴァーターをもう一台ずつ手に入れなければならないので,実際に使うことはないだろう。
ずっしりと重たいし高級感のある作りになっているが,デザイン的にもフロントパネルやリアパネルのレタリングの感じからも「ハンチンドンのQUAD社が作った感じ」がほとんどしてこないのも不思議なアクセサリである。
このページのず〜っと下のほうを見ると私がNitty Grittyのバキュームクリーナー(写真右)を買ってからすでに12年が過ぎていることがわかる。そろそろだいぶくたびれてきたこともあって,前から気になっていたVPIのバキュームクリーナー「VPI HW16.5」を取り寄せてみた(写真左)。送料込み$780.64で邦貨わずか62000円である。円高の影響はすさまじい。アメリカの通販業者に注文してからわずか数日で家に届いた。
旧いNitty Grittyとの違いは大きく2つ。ひとつは洗浄時のレコード回転がターンテーブル式で自動になっていること,もうひとつは洗浄液の吸引がNitty Grittyでは下からだったのが上からの吸引パイプになっていることである。この「吸引が上か下か」というのは作業上意外に重要で,旧Nitty Grittyでは「A面を洗浄→裏返して吸引→B面を洗浄→裏返して吸引」という作業フローだったのがVPIでは「A面を洗浄→吸引→裏返してB面を洗浄→吸引」で裏返しが1回少なくて済む。ターンテーブルは華奢だがけっこうトルクが強く,洗浄ブラシに多少力を入れても止まったり遅くなったりはしない。洗浄ブラシはNitty Grittyがビロードだったのに対してVPIではビニール製の細かいブラシになっている。最初はレコードに傷をつけはしないかと心配だったが,使ってみると合理的なものである。
だいぶ前からVPIの洗浄液をすでに使っていたこともあり,洗浄効果がNitty Grittyよりとくに高いといったことはないように思うが,違いがあるとすれば「洗浄がブラシである」ことだろう。全体的に「機械として合理的で信頼感のある作り」であるし,駆動モーターも含めて消耗したり故障する可能性のあるパーツはすべて別売で入手して自分で修理できることも利点だ。それよりなによりレコードを洗うのがずいぶん「らく」になった。洗浄液の塗布が7〜8回転,吸引が5回転くらいでおそらく2分程度で片面を洗えるし,自力で回さなくてよいから疲れも少ない。取扱説明書には「吸引は2〜3回転」とあるがこれは洗浄液の量にもよるし,115Vのモーターを100Vで回す場合吸引力がやや弱くなることはNitty Grittyでも経験した。
あえて欠点を挙げるならデフォルトのままでは7インチ,10インチのレコードの洗浄があまり快適にできないこと(それぞれの別売キットを買うと解決する)と,日常的に消耗する部分の交換部品がNitty Grittyに比べてやや高価なことだ。たとえば吸引パイプのベルベットが消耗した場合VPIではパイプごと交換で30ドルかかるが,Nitty Grittyだと18ドルで4枚入りが買えるベルベットだけを交換すればよかった。しかしそれらを差し引いても非常によくできた機械であるから,これから初めてバキュームクリーナーを買おうという方にはこのVPIを薦める。
追記:HW16.5の取説をよく読んでみると「濃縮液を希釈したVPI洗浄液には25%のイソプロピルアルコールを加えると汚れたレコードの洗浄力が高まるとともに洗浄液の保存寿命も長くなる」と書いてある。私は以前からその濃縮液を希釈して使っていたがアルコールは加えていなかった。イソプロピルアルコールは手元にあったのでさっそく加えてみた。洗浄効果も変わることが期待される。
あるカートリッジを気に入って使っていても,しばらくするとなんとなく気に入らなくなって別のカートリッジに変えてみるということが定期的に繰り返される。まあ飽きるんだろうと思う。グラドを使いはじめてからこの2年くらいそれで安定していたのだが,やはりその日が来てしまった。そしてSME3009SIIIにまだMCカートリッジを一度もつけてみたことがなかったのを思い出し,まずは軽くてハイコンプライアンスのテクニカAT-F3IIをつけて,QUAD44のMCモジュール(Bタイプ)で受けてみる。
これはしばらくMMカートリッジを聴いてからMCカートリッジを聴くと必ず感じることだが,MCではカッチリとした枠の中に密度の高い音が詰まっている。楽器や奏者の実体感もMCならではだ。グラドはMMの中ではMC寄りの音だと思うが,やはり密度感はMM的なやや薄味なものだ。今度はOrtofon MC-20SuperIIをつけてみる。やはりいい音だが,3009SIIIにはテクニカのほうが合っているように感じる。驚いたのは,3009SIIIにつけるとテクニカもオルトフォンも3009Rで聴いていたのとはまるで違う音で鳴ることだ。フルイドダンパーの効果も大きいと思う。
ちょうど「MJ無線と実験」の原稿料をいただいて懐が暖かかったのでテクニカのもっとよいカートリッジ(AT33EV)を買ってみた。実売37500円というのはこれまで買った中でいちばん高価なカートリッジだと思う。聴いてみると実に上品な音,もちろんテクニカ的な高域寄りのバランスではあるのだが全体にもっと穏やかで秘めやかな音だ。それでいて出るべき音はすべて出ているし,奏者が力を込めたところでは力もちゃんと出す。さすが現代カートリッジはたいしたものだなあと思う。古いプレスのレコードや傷んだレコードにも意外に強い。当分これで聴いていこうと思うので,モノカートリッジもグラドからテクニカAT-MONO3LPに戻して音色を揃える。
この2年ほどグラドのカートリッジを気に入って聴いているが,新品の時の素晴らしい音が割と早い期間で劣化してしまうのが気になっていた。メインのPrestige Gold 1についても,それで1年も使わずに針交換しているのだ。ただその針交換の時に「もしかして」と思ったことがあった。ここ数日またGold 1の音が気に入らなかったので「それ」を試してみた。簡単なことで「針をいちど外して,もう一度取り付ける」だけのことである。予想はみごとに当たって,音は新品の時に近いものにリフレッシュされた。グラドのカートリッジをしばらく使って「音が悪くなってきた」と感じた方は針交換のまえに騙されたと思っていちど試してみていただきたい。
最近はSME3009IIIにつけたグラドはずっとフルイドダンパーつきで使っている。フルイドダンパーを使うことで軽針圧のグラドがある程度針圧をかけるカートリッジと似た力を持つようになり,うまくかからなかったレコード(とくにグラモフォンのドイツ盤)もとてもよい音で聴けるようになった。フルイドダンパーによってとりあえず私の装置では現在グラドは「これまで使った中でもっとも万能なカートリッジ」になっている。
これまで得た情報を整理して,以前の「QUAD44の変遷」を増補改訂した。最大の変更は「中期型」という分類を廃止して,内部構造とトーンコントロール基盤の変更を基準に「前期型」と「後期型」の2種類に分類しなおしたことである。(上の表は縮小表示されているので見えにくい方は新規ウィンドウで開いてご覧いただきたい。)
QUAD44は1979年から1989年までの10年間に35390台が製造された(Dada Electorics資料)が,製造中最大のモデルチェンジは1985年のNo.23000以降でトーンコントロールがロータリースイッチからアルプス製のモールド型に代わり,それに伴ってトーンコントロール基盤がまったく新しくなったことである。同時にTILTが±2段階から3段階に,BASSのSTEPも2段階から3段階に増えている。また,FILTERを0にした状態でもBASS LIFT/ STEPとTILTが動作するようになったので,トーンコントロールのキャンセルを示すLEDも廃止されている。
一般に44は「ベージュが前期型,グレーが後期型」と考えられているが,ベージュでも構造が後期型のものはたくさんあり,実機のシリアルから類推するとベージュの44も最後まで製造されていたと考えられる。デッカのレコードレーベルがそうであるように,オーディオでもレコードでも,イギリス製品のバリエーションは必ずしも製造時期と一致しない。
前期型は1979年の製造開始からしばらくは頻繁にマイナーチェンジしており,外見は同じでも中の基盤が変わったりする。一般にNo.2400までが「最初期型」といわれるものである。ボディの変遷に伴って入力モジュールにもさまざまなバリエーションがあるが,それについてはこのページの他の項目で別に考察している。
こういう仕事は休日でないとできない。休みはありがたいものである。
ヤフオクで「音は出るがセレクタが不良」の後期型QUAD44を約35000円で手に入れた。外見はきれいに見えたし,モジュールが5枚,それもピンジャックつきのTAPEモジュールが2枚手に入ると考えればまったく動かなくてもかまわないという判断だった。届いてみると外見は期待通りほとんど傷のない美品(写真1枚目),しかし音は出なかった(笑)。音についてはこれからリストアしてなんとかしたいと思う。シリアルナンバーは28984,グレーの後期型44の中では最も早い時期のもので,その後なくなった電圧切替スイッチがまだついている。1986年末から1987年初頭の製造と思われる。出力はすべてピンジャック,面白いことにRADIOポジションとCDポジションの両方にCD/AUXモジュール,それもベージュのパネルのものがついている(写真2)。ただこれらが古いものの代用ということはピンジャックの位置から見て考えにくい。おそらく最初からこれがついていたのではないか。
後期型44はBASS LIFTとTILTがそれまでのロータリースイッチからアルプスのモールド型にかわったのに伴い,トーンコントロール基盤とその取り付け方が変わって,中期型B以前とは内部の構造が大きく変わっている(写真3,左が後期型,右が初期型)。古いトーン基盤がLF351/TL071とディップタンタルで構成されているのに対し,新しいトーンコントロール基盤はデュアルのTL072を使うようになり,コンデンサーもすべて普通の電解になっている。おそらく音も大きく変わっているはずである。
後期型についているモジュールはピンジャックの位置がそれよりも低い位置に変わっている(写真4)。これはDISCモジュールのアース端子がピンジャックの下から上に移動した仕様変更(写真2でわかる)に合わせたものだろう。旧型モジュールと混在するとデコボコになって見苦しい。面白いことに,以前から持っていたグレーのCD/AUXモジュールはピンジャックが元の高い位置にある(写真4の左)。いっぽうその後買ったグレーのCD/AUXモジュールは低い位置(右),そして今度の44についていたベージュのCD/AUXモジュールは新しい低い位置についている(中央)。このことからもベージュとグレーの後期型が並行して製造されていたことが推測される。
地震が起きてからしばらくは音楽を聴く気もおきず,週明けくらいからようやく音楽は聴けるようになったが,レコードをかけたのは地震から1週間近くすぎてからだった。日本は大変なことになってしまったが,この犠牲の上に前より少しでもよい社会が作られたらと思う。
今月の初めにデンマークから箱入り未使用の SME 3009 SeriesIII が届いた。これはさまざまな意味で特別なトーンアームで,音が出るまでにもずいぶん苦労をした。しかしさまざまな調整機構の仕組みは実に合理的で精密,調整していてワクワクするアームだ。もちろん軽針圧のグラドとの相性は抜群で,とくに低音域の質感は3009RやS2impより相当に優れている。なによりトレースの安定感,音質的にもビジュアル的にも「針が音溝にピターっと接触している感じ」がする。
今日はいよいよフルイドダンパーにオイルを入れた。オイルはイメージしてたのに比べてかなり粘度の高いもので,ジャムくらいの固さだ。トレースも音もますます安定感を増した。このシリコンオイルの粘度は200000csということだから,ラジコン用のダンパーオイルを使うことができるはずだ。SMEの純正消耗品の値段は高すぎる(ダンパーオイルは5250円)。
しかしポールのベースとリンゴのドラムスのコンビネーションはほんとに素晴らしい。ミュージシャンとしてはジョー・オズボーン/ハル・ブレインよりポールとリンゴの方が上だな。
2台のQUAD44のリストアが一通り終わったので,リストアでやるべきことの覚書を作っておきたい。
私は2台のQUAD44について,上記の「精神衛生上よいこと」までのすべてと,「やらなくていいこと」の1)の半分と3)を試行錯誤で実行して,結果から優先順位を学んだ。ほとんどの交換部品はRSコンポーネンツなどのパーツ通販で手に入れることができるが,電源スイッチとリレー,一部のトランジスタはとくに初期型だと入手に苦労する。ディップスイッチは同じものはすでに入手できないが代替品がある。マザーボードの1000uFはオリジナルと同じチューブラ(アキシャル)タイプで修理したい。少し高価だがRSにRIFAのがあるし,Dadaなどからニチコンのデッドストックを入手することもできる。
オペアンプは新品に交換するだけで相当の改善があるので,OPA134などの高級オペアンプへの交換は必須ではないし,交換するとかえってQUAD44の音が失われる場合がある。高級オペアンプを試す際は基盤に直付けしないでICソケットを使うと,気に入らなければすぐにもとに戻すことができる。トーンコントロールボードの100uFや各モジュールのカップリングコンデンサ(タンタルの2.2uFが多い)は交換で音がすごく変わるので,ここを最近のオーディオ用電解に交換するのも一興だろうが,私はオリジナル通りタンタルで修理したい。ディップタンタルは徐々に手に入りにくくなっているので多めにストックしておくのもよいと思う。
QUAD44には壊れる箇所が少なく,電源が入らない(LEDが光らない)のは電源ボックスのスイッチかヒューズホルダが物理的に壊れているか,マザーボードのコンデンサかトランジスタの不良である。電源は入るが音が出ない場合はマザーボードとトーンコントロールボードの接続,マザーボードのジャンパのハンダ不良を疑う。片チャン出ない,音質が変などはモジュールのオペアンプかコンデンサの問題が多い。なお,リストアのためにはサービスマニュアルが必須である。最近はネット上でも探せば手に入るようになっているので探してみてほしい。
eBayでNOSで買ったほうのQUAD44の電源ボックス,未使用だったはずなのにもう電源スイッチが切れなくなった。LORLIN製スイッチで生じるこのトラブルは経年変化も原因であることがわかる。純正のアルプス製SDG5P-Eの代替品を見つけたことはブログにも書いたが,残念ながらこのLORLINタイプはネジ穴の位置がこれらとは違うので,交換のためにはスイッチの固定部分を板金加工してスイッチ軸の穴とネジ穴を大きくする必要がある(写真左)。またパーツの方の取り付け穴はネジが切ってないので,ボルトとナットを別に用意して固定する必要があること,パーツの端子が黒く変色していてハンダの乗りがひどく悪いこと(事前に磨いておくべきだった)で苦労した。2時間ほどかけて作業は完成し,とりあえず代替部品に交換して,とくに問題なく電源のオンオフができるようになった。なお最初からSDG5P-Eがついている個体では板金加工などなしでごく簡単にこの代替部品に交換することができると思う。興味のある方は若松通商でSS-13というタイプのスイッチを探してみてほしい。
eBayに写真のようなQUAD44用DISCモジュールが出ていた。銘板には「4B 100µV 100R 22nF」と書かれている。これは最後期のグレー44の頃(1987年以降)に売られていたMCモジュールで,QUADのサービス資料によると感度が200µVの「4A」,100µVの「4B」,400µVの「4C」の3種類があることになっている。基盤番号はM12797-1だが,資料にはパーツの抵抗値や容量しか書いてなく,モジュールのインピーダンスや負荷容量がどうなっていたかはわからない。写真を見ると電解は普通のコンデンサが使われており,あまり音がよさそうには見えない。回路図によると使われているオペアンプはTL071のままだが,トランジスタはZTX650とZTX750が各2個,これも入手に苦労しそうなトランジスタだ。200µVという感度はもし手許にあればなかなか使いやすそうなのだが......
QUAD44のサービスマニュアルには以下の7種類のDISCモジュールが記載されている。このうちMM用とMC用A,B,Cタイプは実物を持っており,Dタイプについては実物の存在を確認している。E,Fタイプについては日本国内では販売されていなかったようで,実際に存在したのかどうかもわからない。
名称 | Type | 基盤番号 | 感度 | インピーダンス | 容量 | 適応ブランド(ハーマンの国内カタログによる) |
---|---|---|---|---|---|---|
Disc Input | (MM) | M12515/M12518 | 1mV, 3mV,10mV(DIP) | 47kΩ | 50pF, 230pF(DIP) | |
Moving Coil Disc Input | Type A | M12542 | 300µV | 470Ω | 22nF | EMT,オーディオテクニカ,ダイナベクター,ソニー,ビクター,ヤマハ,デンオン |
Moving Coil Disc Input | Type B | M12542 | 100µV | 100Ω | 68nF | Ortofon MCシリーズ,オーディオテクニカ AT-1000MC,ナガオカ デンオン DL1000A,グランツ GMC-55 |
Moving Coil Disc Input | Type C | M12542 | 300µV | 100Ω | 68nF | Ortofon SPU,MC10Super,コーラル,アントレー,FR 7f・PMC-3,ナカミチ,スペックス,グランツ GMC-10E |
Moving Coil Disc Input | Type D | M12542 | 100µV | 470Ω | 22nF | FR Iシリーズ,テクニクス,ゴールドバグ |
Moving Coil Disc Input | Type E | M12542 | 100µV | 100Ω | 1.5nF | 国内カタログに記載なし |
Moving Coil Disc Input | Type F | M12542 | 300µV | 100Ω | 1.5nF | 国内カタログに記載なし |
MM用のモジュールには私の手許にあるものだけで2種類がある。上の写真のうち左が初期の基盤番号M12515-ISS4で,オペアンプ(TDA1034またはNE5534)2個で構成されたシンプルなモジュールだ。いっぽう写真右は製造番号12000(1981年頃)以降の44に付属している基盤番号M12515-ISS5で,オペアンプ(TL071)2個に加えてトランジスタ(BC214CおよびBC413C)4個から構成されたやや複雑なものに変わっている。いずれも,カップリングなどの電解コンデンサーはすべてタンタルになっている。2つのモジュールの音は確かに違うが,どちらかがとくによいというほどではない。サービスマニュアルによると製造番号23001(1984年3月)以降の44にはM12158-ISS2のDISCモジュールがついているが,回路図を見るかぎり12515-5と大きな変更はないようだ。
MC用モジュールは入力感度や容量が違っても基盤はすべて同じで,CRの定数が違うだけだ。私が持っている3枚はすべて上の写真左のM12542-ISS3で,オペアンプ(TL071)2個とCANタイプのトランジスタ(BC440-6およびBC460-6)で構成されている。ここでもタンタル電解がふんだんに用いられている。写真右はグレーの後期型44についていたMCモジュールの写真(ネットより)で,基盤はM12542-ISS5になっている。オペアンプはTL071で同じだが,トランジスタがモールドタイプになるとともに,部品の配置もすっかり変わっている。使われているコンデンサのタイプも変わっていて,タンタルではなく普通の電解がついているのが目立つ(これは後で交換されたのかもしれない)。
DISCモジュールに限らず,初期から中期の44にはタンタルコンデンサーが多用されているが,後期になると同じ場所に普通の電解がついている。この間に電解コンデンサの性能が大きく向上したこともあるが,コストダウンもあったかもしれない。環境問題や製造コストから国内メーカーはすでにこうしたディップタンタルの生産をやめており,入手が難しくなっている。ある程度のストックは可能としても,将来的には代替品を試していかないとならないだろう。
懸案だった2台目のTD-150用のベースを作った。塗装はあまりうまくいかなかったけれど(写真ではわからない),とりあえず裸の状態からは脱却することができた。もう一台のTD-150についているオリジナルのベースは9mm厚の板でできているが,素人工作でこの厚さは不安なので15mmにしたところ,その分ひと回り大きくなってしまった。この大きさだとますますLP-12にうりふたつになるので笑う。
構造上予想される通り音質的には大きな変化はないが,3本のネジだけで立っていた状態に比べると,こころもち低域がゆったりしたような感じがする。これは良し悪しなのだが,おそらく箱がついている状態がTD-150の本来の音なのだろう。フローティングにはまた微調整が必要なようで,まあのんびりやっていこうと思う。
下に「むしろ少し悪くなっている」と書いた Joel の thrust plate だが,彼の言うとおり数日後からどんどん透明感が増すとともに,低域の抜けと量感が以前より相当改善された。レコードプレーヤーとはじつに不思議なものだ。
eBayでいつものJoel Boutreux氏から買ったTD-150その他用のスピンドルオイルが届いた。注射器8本分のお徳用で送料込み19ドル。1本で1台のスピンドル2〜3回分なのでTD-150が16台以上注油できる(笑)。もちろんこんなにたくさんいらないのだが日本への送料とかで少量を買うよりこちらのほうがはるかに割安だった。油の寿命とか考えると4〜5本は自分用にキープしてあとはヤフオクにでも出そうかと思っている。これはいまノアで売ってる「トーレンス純正オイル」と比べてかなり粘度の高いものだが,元トーレンス社員の Joel はTD-150や160などの焼結ブロンズ軸受にはこれしかないと言っている。オイルの適量はわかりにくいので,思い切って多めに入れてしばらく回して溢れ出た分を拭き取るのがよいと思う。このオイルを試してみたい人いますか?
追加用のthrust plate(スピンドル軸受の底でスピンドルを受ける板)もいっしょに届いた。摩耗して窪みのできた底の上に乗っけてスピンドル下端のベアリング球を受けるわけだが,今のところ音が良くなった感じはしない,というか少し悪くなっている。Joel は「100%になるまでには時間がかかるよ」と言ってるので期待して待とう。
いま聴いているレコードのジャケットを飾るためのフックをオーディオラックの上に取り付けた。私の作業なのでいつものようにわずかに右上がりに傾いている。あまりにいつものことなのでわざわざ妻を地下まで呼んで「また傾いてるでしょ」と確認させた。まあ右上がりで縁起がいい(?)からいいのだけれど,ここまで規則的だと不思議に思う。
グラド Prestige Blue1 で聴くジャズはとてもいい。久しぶりにMMモジュールが嵌っているし3009S2impも戻ってきたのでV15TypeIIIを試してみたが,グラドと比べると高域はキャッキャと楽しいが中低域がずいぶん薄い音に聞こえる。これまでクラシック用にはいろんなカートリッジがあるけどジャズはV15TypeIIIに敵うのはないよなあと思っていたが,少なくともいまの私の環境ではグラドはV15TypeIIIよりジャズを楽しく聴かせる。そのうえクラシックの古いレコードも上手に鳴る。MC的な実体感とMM的な闊達さが両立した本当によいカートリッジだと思う。とりあえず当分の間は交換針の心配が不要なカートリッジで楽しめるのはとてもうれしいことだ。
グラドの唯一の欠点はハムだ。2台目のTD-150でMC+にハムがあるのに気づいたが,注意して聴いてみると1台目の Prestige Blue もわずかにハムっている。ハムはカートリッジがモーターに近づくほど大きくなる。ネットで調べてみるとこれは「The infamous Grado hum」と言われるほど有名な問題で,グラドがどのプレーヤーでハムるかのデーターベースまで作られている。グラドのコイル構造がモーターの磁界を拾いやすいことが原因らしいが,この音質を生み出しているのもその構造なのだろう。私は小音量派なのでいい音がすれば多少のハムは気にならない。
2台目のTD-150はいい音で鳴ってはいるけれど,電源オフの状態でモーターがプルプルと振動していることと,シャーシにAC数ボルトが漏れているのが気になっていた。たぶんコンデンサだろうな,と思って交換してみた。写真左が元ついていたもの,モーター用(下)が0.33uF/160VAC,スイッチのスパークキラー(上)が0.01uF(10nF)/1000Vである。最初はモーター用の0.33uFは定数通りにした(耐圧だけは同値だといまのものは非常に小さくなってしまって収まりが悪いので630VAC,写真右下)が,スパークキラーは1000V耐圧なんてなかなかないし機能さえ同じならよいと思ってQUAD44用に買ったRIFAのRC-Unit(47nF+120Ω)をつけてみた。結果として振動も漏れ電流もかえってひどくなってしまった。トーレンス名人の Joel Boutreux 氏にメールで尋ねてみると「0.01の方を正しいのに替えろ!」ということだったので同じ定数/耐圧のもの(写真右上)をRSコンポーネントから取り寄せて交換してみたら,振動も電流もピタリと消えた。0.01uFは単なるスパークキラーではなかったようだ。これでとりあえず動作は完璧。あとは箱だな。
たまたまヤフオクにモーターが壊れたTD-150が出ていて,それを2万円ちょっとで落札できて,たまたまスペアのモーターを買ってあった結果,私のTD-150は2台になった。なにかを蒐集していると,運命とか出会いというものがほんとうにあることをたびたび感じる。
知人宅から帰ってきた3009S2impをとりつけ,グラドMC+で「ペットサウンズ」の米オリジナル盤(T-2458)を聴いてみる。期待通りの良い音が鳴ってくる。SL-1200MK5にMC+でもモノラル盤はずいぶん良い音で鳴っていたのだが,TD-150とSMEで聴くと低音はもっともっと深く伸びるし,中音域は活き活きとして「モノラル盤ってこんなに良い音が入っていたのか」と改めて感心する。TD-150はなにしろ音の良いターンテーブルであることを再確認した。ただ現状ではモーターのハムを少し拾っているので,そのうちなんとかしないとならない。箱がないことについても息子たちから強いクレームが出ているので,これもそのうちなんとかしよう。
こんどのTD-150はシリアルNo.16666で,もとのTD-150(No.52003)よりかなり前のものである。比較してみるとモータードライブ用のコンデンサの形状やメーカーが違ったり,トップパネルが#52003では梨地のような艶消しになっているのに対して#16666ではアルミの艶がそのままだったり,違うところがいくつかある。アームボードの銘板も,書いてあることはまったく同じだが「MADE IN GERMANY BY EMT.....」の文字が#16666の方が少し大きい(写真右端)。まあ実にどうでもいいことだけれども。 オーディオマニアならLP-12を2台とかTD-124やガラード301を複数使っている人は珍しくもないと思うが,TD-150を2台使っている人なんてなかなかいないだろう。「ひねくれたオーディオ趣味」の面目躍如である。
(09/11/08追記)よく見比べてみたら,2台のTD-150はサブシャーシ(ターンテーブルとアームが載ってフローティングされている部分)の形がまるで違うことがわかった。#52003ではスピンドル軸受の周囲にサブプラッターより少し大きい直径の円盤がついているのに,#16666にはそれがなく,下から覗き込むとサブプラッターが回ってるのが丸見えだ。誰かが外した跡もなく,元からなかったものと思われる。なにかが複数あると必ず詳細に比較検討せずにいられないのは一種の職業病かもしれない......
eBayで落札した英soundsupports社製のTechnics SL-1200/1210シリーズ用のSME3009アームボードが届いた。ヤフオクなどで時々見るような金属板1枚にSMEアーム穴を開けただけの単純なものとは違って,2枚の金属板を組み合わせてSMEアームベースがきちんと沈み込むように細工されている(写真左が表面,右が裏面)。これは恐らくSL-1200付属のターンテーブルシートがMK5以降薄くなってターンテーブル面が低くなり,純正アームでも多くのカートリッジで高さ調整ができなくなっていることに対応しているのだろう。加工も精密にできており,すぐにでもこれを使ってSL-1200MK5にSMEアームを取り付けてみたくなる。しかし下にも書いたようにSMEアームの取り付け先は別のプレーヤーに変更になってしまった。さてこのボードとSL-1200MK5はどうするかなあ。手放すにしても,このままそれぞれ別個にヤフオクで売るのと,SMEボードのついたSL-1200MK5と取り外した純正アームをそれぞれヤフオクで売るのと,どちらが結果的に得る金額が多くなるだろうか。このページをご覧の方でこれらのものに興味のある方はぜひお知らせください..........
1台目で4年間修行を積んだだけに,今回は完全にバラバラにして各部を磨き上げて組み直すのもスムーズに進んだ。心配していたモーターも問題なく回り,回転数も正確に出た(しばらく前にeBayで買ってあったプーリー付モーターがほんとうに50Hzなのか気になっていた)。しかし代替ベルトではやっぱり回転数の切替えがうまくいかず,純正ベルトをもう1本注文する必要がある。フローティングサスペンションはキャビなしでもきちんと機能することがわかったので,3009S2impが戻ってきたらとりあえず「ベイシースタイル」で使ってみようと思う。
油断していたらまたこんなものが家に届いてしまった。いちばん大切なところが完璧に壊れていて回らないのだが,その壊れている部分の補修パーツは手許にある。壊れているところ以外は,いま使ってるTD-150よりも状態はずっとよくてツヤツヤしている。ただしキャビネット(plinthという方が雰囲気は出るが)はない。さてこれからやるべきことは(1)全体の分解掃除(2)故障部分の部品交換(3)アームの取り付け(4)キャビの自作,である。ネットで見るとTD-150IIをキャビに入れないで使っておられる方もいる。「ベイシー」のLP12みたいでかっこいいのでこういう使い方もあるかと思う。気になるのはこの状態でフローティングは効くのか,ということだ。まあいろいろ試してみよう。また苦難の道のりだとは思うが腕が鳴る。私は登山はしないが(大学の「山の会」の宴会部員ではあるけれど),登山をする人の気持ちもこんなようなものなのだろうか。実は SL-1200MK5にSMEをつけるボードも今頃イギリスからこちらに向かっているのだが,それは使わないことになりそうだ.......
eBayに初期型QUAD44の電源アウトレットに使う旧IECタイプのソケットが出ていた(写真はeBayより資料的価値のために転載)。これは手に入れなきゃと入札したのだがどんどん値が上がって追いつけなかった。最終落札価格は26ポンド,邦貨約4000円である。世界中で探している人がいる筈だから理解できないこともないが,たぶんもとはせいぜい1〜2ポンドのものだろう。私自身,このソケットの実物を見るのはこれが初めてだ。このページの下の方で紹介した現行IECを改造したソケットに比べると,プラグのピンがけっこう先の方までカバーで絶縁されていることが特徴で,ピンの長さ自体は変わらないように見える。当時のイギリスではそれなりに使われたコンセントなのだろうが,私は同じタイプの電源コネクタが使われている機器を他に一度もみたことがない。44はどうしてこれになっていたのだろう。
いっぽうeBayにはSL-1200シリーズにSMEアームをつけるためのボードも出品されている。これを落札するといよいようちのSL-1200MK5にもSMEをつけられるわけだがさてどうなるか。
MC+がとてもよかったのでこんどは米Gradoのステレオカートリッジ「Prestige Blue1」を買ってみた。これは同社のラインナップでは下位から2番目くらいのもので,これも1万円ちょっとだった。
手持ちのLPが500枚を超えた頃から,私にとってオーディオの改善の目的は「1枚でも多くのレコードがきちんと聴けること」に特化した。どうしても歪んでしまうレコード,傷や摩耗のあるレコードが,新しい機器で少しでもましな音で聴けるようになることがうれしい。その点で「Prestige Blue1」はMC+に続いて私を大喜びさせてくれた。これを書いているいまも,MC20SuperでもDL103でもAT-F3IIでもうまく聴けなかった英国プレスPhase4のストコフスキーのワーグナーがまともな音で鳴っている。チェコ盤のアンチェルの「グラゴルミサ」も,三波春夫の「世界の国からこんにちは」のシングルも,ずいぶん普通に聴けるようになった(ドイツ製のプレーヤーとイギリス製のアームとアメリカ製のカートリッジで三波春夫を聴いてるというのも不思議だけど.....)。
音もまったく悪くない。MC的なカッチリ感とMM的な開放感のバランスが取れていて眠くないし,音場感や高さもきちんと出る。低域もずっと下まで柔らかく伸びてセカセカした感じもない。当分はこれを常用することになると思う。QUAD44にはMMモジュールを2つ挿して2台のレコードプレーヤーをつないでいる。要りもしないMMモジュールをもう1個買っておいてよかった(笑)。
2chのピュアAU板で話題になっていた米Gradoのモノラルカートリッジ「MC+ Mono」を買ってみた。針先は1milと古典的だが針圧は1.5gしかかからない。値段は正規輸入品で1万円ちょっと。だがその再生音は期待をよい方向にかなり裏切るものだった。
なにしろどんなレコードもきちんとかかる。いままでステレオカートリッジはもちろんDL-102やAT-MONO3でもひどく歪んだり傷みが気になったレコードのかなりの割合が,とりあえず聴くに堪える音で聴ける。金文字LXTでどうもうまく鳴らなかったものや何がいいのかわからなったトスカニーニのLM初期盤なども,かなり満足できる音で鳴る。こういうのはバリレラとかで5gくらいかけて聴かなければダメなのかな,と思っていたのに1.5gできちんと鳴るのだから,驚くしかない。針先が1mil(DL-102などは0.7mil)というのが効いているのだろうか。いっぽう傷のあるレコードなどでの針飛びが減ったのは,ハイコンプライアンスの賜物だろう。
音質的にもDL-102よりは明らかにワイドレンジで,低域もずっと下まで伸びている。ただやはりMMなので音像感がやや薄口になるのは否めない。しかし私はLP再生では微細な音質差よりも「できるだけ多くのレコードがきちんと聴けること」を重視するので,当分はこれで聴いていくことになると思う。あとはこのメーカーがいつまでカートリッジや替針を供給してくれるかだ。
自宅地下に自分の部屋ができた時に,メタルラックの木製棚板を使ったオーディオラックを作った。これがまさに曲者で,機器の重さであっという間に反ってしまって,プレーヤーの水平を出すのに苦労するようになった。その状態でも1年以上使っていたのだが,ついにラックを新調した(写真左)。今度もオーディオ用として売られているものではなく,倉庫用のスチール棚だが,業者と相談して棚板の耐荷重300kgのものにした(メタルラックの耐荷重は90kg)。結果は上々でプレーヤーを置いてもまったく反らないし,かなり重さがあるので置くだけでもほとんどガタつかない。それで値段は送料込みで15000円かそこらで,メタルラックよりも安く済んだ。
外観的にはインテリア性皆無で,こんな棚を自分の部屋には絶対置きたくない人も少なくないだろうが,私はこういう「道具としてのアフォーダンスだけを示すデザイン」が好きなので気に入っている。一方レコード棚はメタルラックのままで,レコードの重さで盛大に反っている(写真右)。これもそのうちスチール棚に入れ替えないとならないだろう。ちなみにスチール棚は北島株式会社というところから通販で買った。
今年もよろしくお願いいたします。こういうWebページを公開しているとたくさんの方から情報や質問のメールをいただくのも楽しいものだ。写真は兵庫県の新見さん(というよりCozyさんと呼んだ方がオーディオ系ネットでは通りがよいだろう)からいただいた中期A型QUAD44(Ser.21943)の写真。Cozyさんのブログは「QUAD44」で検索すると必ずヒットするもののひとつで,オーディオだけでなく音楽やカメラの趣味も私と近いので以前からよく拝見していた。そうしたページの作者の方から直接連絡をいただくとうれしいし,たいへん恐縮する。しかしこの44ウッドケースはうらやましいなあ。44と405はペアになるのにどうして横幅が違うのか気になっていたが,ウッドケースに入れるとこうして同じサイズになるというのは盲点だった........
自分へのお年玉として買ったのはこういうものだ(EDIROL UA-25EX)。これでAirMacExpressから光デジタル出力を取り出してDA変換し,44へ送ることができるようになった。もちろんMac本体からもUSB経由でサウンドを送ることができる。AME経由の音とUSB経由の音はやはり微妙に違って,AMEのほうは穏やかで癒し調,USB経由はもっと鮮度が高くオーディオ的になるが,どちらにしてもAMEのアナログ出力と比較して驚くほど改善された。iTunesの曲がいい音で聴けるのはもちろん,ナクソス・ミュージック・ライブラリーやネットラジオがまじめに聴ける音に変身したのはうれしい驚きだった。いまAMEをアナログ出力でオーディオに繋いでいる方はぜひ外付けDACを試してみてほしい。しかしUA-25EXのインジケーターLEDがやたら明るいのにはまいった。DTMやPAの現場ではこのくらい必要なんだろうが,部屋ではあまりに眩しくてさっそくビニールテープで隠してしまった。
スペインから送られてきた未使用デッドストックの44電源ユニットはQUAD印のシールで密封された元箱入りだった。開封して取り出し,さっそく中を確認してみたら驚いた。写真左のようにこれは新IECアウトレット,丸形の電圧切替スイッチ付きの明らかに中期型44用の電源ユニットでノイズサプレッサーも付いているのだが,使われている電源スイッチはなんとアルプスではなく私の最初期型44 (Ser.2072 ノイズサプレッサーなし)と同じLORLINの白い部品なのだ。
これが私のジャンク44(Ser.8504でアルプススイッチとノイズサプレッサーつき)より後に作られたのは確実なので,44のスイッチはLORLINからアルプスに「変更された」のではなく,2種類のパーツがロットによって適当に使われていたということがわかる。「変更された」と信じていた時には中期型以降の44でも電源スイッチのトラブルが多いと言われるのが不思議だったが,LORLINのほうのパーツが使われているものでは中期型以降でも故障が起きていると考えれば辻褄が合う。
骨董オーディオの修理では「オリジナル部品」にこだわる人が多いが,QUADに関しては創業者ピーター・ウォーカーは自分の回路の性能はどこの部品でも機能や定数さえ満たされていれば常に同じだと考えていたようだ。コンデンサーのメーカーなどもロットによってさまざまだ。30年近くも使われた場合のパーツの耐久性に差があったからといってウォーカー爺を責めることもできまい。
電源スイッチの不具合が再発し,こんどはまったく電源が切れなくなってしまった。そこでついに懸案の電源ユニット本格修理を行なった。電源スイッチとヒューズホルダーの交換,ノイズサプレッサーの追加である。予定ではついている部品を交換してからサプレッサーを取り付けるだけ,1時間程度の作業のはずだった。
開けてみて驚いた。電源スイッチに使われているパーツがジャンク44についていたものとも,QUADから送られてきたものともまったく違うものだったのだ。ヤバいな,と思ったとおり端子の配置も取り付け寸法も大きく違う。シャーシの金属加工が必要になったし,リード線の取り回しも違うので一部延長しなければならなかった。結局修理には3時間を要してしまった。写真左が完成写真。上記の理由でQUAD独特の幾何学的な配線は台無しになってしまったが,ノイズサプレッサーを入れたことで起動時のポップノイズが非常に小さくなったし,問題なく動作しているのでよしとしよう。取付寸法の違いのせいで電源ボタンが今までよりかなり前に出てしまった(ボディからの飛出しが長くなった)のも愛嬌である。
写真右は電源スイッチのパーツ。左側の白いものが今回修理したSer.2072の44についていたもの(LORLIN P8MS)で,プラとファイバーボードだけでできている。右側のグレーのがSer.8504についていたもの(アルプスSDG5P-E)で,取付部分は金属になっている。見るからにアルプスの方が信頼性が高そうだ。Ser.8504やネット上の写真と比較すると,この最初期型は電源トランスもまったく別の型のものがついている。eBayで落札した中期型の電源ユニット(NOS)が届いたらまた研究してみたい。
CANCEL LEDのパーツをQUADに注文したあとになって,部品取り用に買ってあるジャンク44(Ser.8504)にもLEDが残っていたことを思い出した(忘れている自分にも驚いた)。LED基盤ごと移植してみたら見事に光って問題解決。気のせいかもしれないが前のLEDよりずいぶん明るい。部品が改良されているのか,それとも前のLEDが経年劣化していたのか。
いっぽうでここ数日,電源スイッチが切れないトラブルがまた起きるようになった。近いうちにいよいよ電源ユニットの本格修理(電源スイッチ,ヒューズホルダー,ノイズサプレッサーの交換)に手を付けなければならないようだ。失敗した時のためにジャンク44のほうの電源ボックスも修理しておこうかと思う。こうやってコツコツ直していくと,自分の44はどんどんニコイチ,3個イチになっていく。初期型の生産からもう30年,今も元気に動いている44のかなりの部分はそういうものだろうから,44のバリエーションはますます千差万別になるのだと思う。
QUAD44がよく言われるような前期/後期だけでなく前期型,中期型,後期型の3種に分類できること,各型にもまた微妙なバリエーションがあることは前にも述べた。最近オークションなどネット上のQUAD44の画像を詳細に見比べ,資料とも突き合わせたところ,おおよそ以下のようなことがわかってきた。(形式の名称は私が勝手につけたもので,他の場所では通用しない。)
形式 | ボディ色 | 入力ボタン | CANCEL LED | TILT | STEP | RADIOモジュール | プリアウト | 電源アウト | 電圧切替 | Ser. No. | 製造時期(推定) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
初期型A | ベージュ | 黄と赤 | あり | ±2段階 | 2段階 | DIN,黒 | DIN+RCA1系統 | 旧IEC | 角形 | 2072 | 1979-1980 |
初期型B | ベージュ | 黄と赤 | あり | ±2段階 | 2段階 | DIN,ベージュ | DIN+RCA2系統 | 旧IEC | 角形 | 8504,1235X | 1980-1981 |
中期型A | ベージュ | 黄と赤/茶 | あり | ±2段階 | 2段階 | DIN,ベージュ | DIN+RCA2系統 | 新IEC | 丸形 | 1808X,1943X(Mボタン赤), 2123X,2172X,21943(Mボタン茶) |
1982-1983 | 中期型B | ベージュ | 黄と茶 | なし | ±2段階 | 2段階 | DIN,ベージュ | DIN+RCA2系統 | 新IEC | 丸形 | 1983-1984 |
中期型C | ベージュ | 黄と茶 | なし | ±3段階 | 3段階 | DIN+RCA,ベージュ | DIN+RCA/RCA3系統 | 新IEC | 丸形/なし | 2468X,2556X,2599X,2622X, 2794X,2888X,3422X |
1984-1986 |
後期型 | グレー | グレー | なし | ±3段階 | 3段階 | DIN+RCA,グレー | RCA3系統 | 新IEC | 丸形/なし | 28984,3093X,3149X,3381X, 3446X,3505X,36910,37165 |
1986-1989 |
QUAD44の製造中の最大の変更は,中期型C(1984年3月,23001番以降)でトーンコントロール関係の可変抵抗がそれ以前のロータリースイッチからアルプスのモールド型に変更になったことで,それに伴いトーンコントロール基盤や内部のコンストラクションが大きく変更されるとともに,TILTとSTEPの調整範囲が各1ステップずつ増えている(写真左が初期型A,右が中期型C,ボディ色の違いは撮影条件によるもの)。後期型44は音が違うとよく言うが,この違いはおそらく中期型Cから生じているはずだ。なお製造番号などから見て中期型Cと後期型はしばらくのあいだ並行して製造されていたと思われる。CANCEL LEDは中期型AとBの間に廃止されているが,この間に基盤の変更はないので,中期型Bでは基盤にはLEDへの給電端子が残っているかもしれない。
入力モジュールの違いについては代表的なRADIOモジュールだけをとりあげたが,DISC系モジュールにはもっと様々なバリエーションがある。入力に限らず44の各部はモジュール化されていて整備で簡単に交換できるので,とくに入出力は整備によってバリエーションが生じている場合も多いと思われる。QUADの資料では電源アウトレットが新IECタイプになるのは1982年の19000番台以降のはずだが,ネット上の写真ではもっと若いナンバーのものが新IECになっていた。この個体はMボタンは赤だったので,電源ユニットが交換されている可能性がある。
写真は滋賀県の宮原健吾さん所蔵の美しい最後期型44。44は約4万台製造されたとのことなので,初期型が1万8-9000台,中期型が1万2-3000台,後期型が1万台弱というのがおおよそのところと思われる。これを読んでくださっている方で,ここに載っている各タイプをお持ちの方はぜひシリアルナンバーをお教え願いたいし,これと一致しない44をお持ちの方もぜひお知らせいただきたい(写真もお送りいただけるとなおうれしいです)。
このページを見てくださった方からQUAD44について問い合わせをいただくことが多くなった。ごく基本的なこととして,QUAD44の操作マニュアルやサービスマニュアル(英文)はネット上のあちこちで入手することができるので(たとえばここ,10/05/03更新)まずそちらをご覧いただくとよいと思う。
3歳の三男が妙に熱心にQUAD44のパネルを撫で回しているのでよく見たらトーンコントロールのキャンセルを示すLEDがなくなっていた。しかしこのLEDが引っ掛けてあるだけで固定されていないことは知っていたので,内部に落ち込んでいるだけで簡単に直るだろうと思った。実際,同じ位置に取り付け直すことは簡単だったが,電源を入れてみると光らない。テスターで調べてみると電流は来ているので,3歳に押されてLEDが破損してしまったようだ。LEDは写真のような小さな基盤に取り付けられていて直径は3mm。小さな穴を経て外へ出るので,この大きさのLEDでなくてはならない。でもネットでちょっと調べてもこの形この大きさのLEDは見つからなかった(quad44とledで検索したらヒットしたのはこのページだったorz)。またイギリスに問い合わせなければならない。このLEDが平面から飛び出して,押す行動を非常に強くアフォードしていることは気になっていた。自分自身も押したい衝動に繰り返し駆られたが,大人だから我慢できた。3歳には我慢できなかっただろう。こればかりはQUADの設計に問題ありで,のちの44でこのLEDが廃止されたのはコスト削減のためだけではなかったかもしれない。
通販に注文していたFMアンテナやケーブル類が届いたのでさっそく2階のベランダに設置してみた。ケーブルはベランダから庭におろして地下室の換気口から引き込んだ。これでコミュニティFMも含め全局ステレオで受信できるようになった(帯広で聴けるのは合計5局)。フィーダーアンテナでは盛大にジュルジュルいっていたマルチパスもかなり治まって,普通に考えて実用上問題のない受信状態だろう。しかしステレオ受信の場合NHK-FMのクラシック番組を本気で聴くにはまだSN比が足りない。ベランダからだと局方向に隣のアパートがあるので,これ以上は屋根上に本格的なアンテナを立てないとだめだろう。いずれ電気屋さんに頼まざるを得ない。むかし埼玉県新座に住んでいた時には東京タワーが目視できる2階のベランダに5エレ八木を設置して聴いていた。強電界でもきちんと受信するには最低5エレのアンテナを注意深く調整する必要があるのはわかっているのだが,いま時それはちょっとやりすぎな気もする。
チューナーをつなぐのにRADIOモジュールだとゲインが高すぎるのでゲイン調整のできるTAPEモジュールに換えた。RADIOモジュールとTAPEモジュールのREPLAY側では音がすこし違う。全体にTAPEモジュールの方が柔らかめのバランスになる。RADIOモジュールがLF351またはTL071を使ったオペアンプ構成なのに対し,TAPEモジュールのREPLAY側はE5270トランジスタによるディスクリート構成になっているせいか(RECORD側はCA3140Eを使ったオペアンプ構成である)。AirMacExpressを受けるのもTAPEモジュールにしてみるついでに,RECORD側をピンジャックに出してみた。金工も含む大改造で一瞬ヒヤリとする場面もあったが(電ドリの刃が基盤上の部品を削った.....)挽回して,ピンジャックから録音用の出力を取り出せるようになった。ついでにオペアンプと電解も交換。この出力をMacに取り込めばレコードをデジタル化できる。まああんまりそういうことはやらないんだけれど。
ヤフオクでケンウッドのT-1001というチューナーを買った(落札価格3100円,写真左)。ネットラジオをAirMac経由でQUADで聴く楽しみは定着したけど,そうなると普通のラジオやとくにNHK-FMも聴きたくなったからだ。QUADやLINNの機器に合うように小型のもの,と思って探したらこれが見つかった。FMアンテナがないのでリード線を伸ばしただけで聞いてみると,ステレオではマルチバスノイズ(懐かしい)がひどいがモノラル受信だとほぼクリアに聞ける。今朝も「20世紀の名演奏」でマルツィをやっているが全部モノラル録音なので問題なし。久しぶりに聴くFMの音は癖がなくてよいものだ。写真右のようなものを作って44のサービスコンセントに接続できるようにもした。本格的なアンテナを注文したのでそのうち20数年ぶりにアンテナ工事もやってみよう。昔のバリコンチューナーも欲しくなってくる(ヤフオクでただ同然の値段で大量に出ている)。心配なのはNHK-FMの放送がいつまで続くかだけだ。
オーディオ関係のクリーニングといえば無水アルコールがデフォルトだが,ターンテーブルのゴムベルトにはアルコールは良くないといわれる。そこでTD-124に詳しいページなどで推奨されるベンジンを買ってきて試してみた。まずプーリーを磨く。無水アルコールでそれなりに磨いていたのだがベンジンだとどんどん綿棒が黒くなってピカピカになる。インナープラッターのベルトが当たる面も磨く。ボロ布がけっこう汚れるので驚く。最後にベルトをかけて回転させながら,ベルト内側の接触面だけを清掃する。これも綿棒が驚くほど黒くなる。(この方法だと純正ベルト表面のThorensロゴが消えてしまうこともない。)
結果はすごく良かった。悩みの種の回転数切り替えもいままで何だったのかと思うほどスムーズになったし,トルクが向上したこともあって音も元気になった。今後はベンジンでクリーニングすることにしよう。イギリスから届いた互換ベルトは幅が広くて(純正は4mm,このベルトは5mm)回転数切り替え不能。ただし不具合を報告したら代金は返金された(great eBayerである)。こんどは純正ベルトを測定して長さ,幅,厚さの同じものをゴムベルト屋に作ってもらっている。うまくいったら大量仕入れして売ろうかな。
(08/02/17追記) 作ってもらったベルトはとてもうまく働いて回転数切り替えもスムースだ。やはり鍵はベルトの幅だったようだ。ちなみに作ってもらったベルトは幅4mm,厚さ0.6mm(これは純正よりちょっと薄い),直径166mm(全長520mm),価格は純正の半額くらいだった。
iPodについてくる純正イヤフォンは中域重視のカマボコサウンドで好きなんだけど,徒歩通勤(35分間)の間にズレてくる。スポンジのイヤパッドをつけると多少ましだが,今度は音がコモる。それで耳にきちんと固定されるイヤフォンを買おうと思ったのだが,ネットでいろいろ調べているうちに音質的にもそれなりのものが欲しくなって,テクニカのATH-EC700というのを買った。アマゾンで1万円ちょっと。
最初はキンキンでまた失敗したかと思ったが,1日くらい使ってる間にどんどん音が柔らかくなった。純正と比べ低音域が解きほぐされてチェロやコンバスの動きがよくわかるようになったし,空間感も向上した。感心したのはテクニカのカートリッジとちゃんと同じ「テクニカの音」がしていること。細身だが分離の良い中低域にややアクセント気味の高域が乗るテクニカサウンド。好き嫌い分かれると思うが私は好きだ。
SMEが帰ってきたのでTD-150をセッティングした。しかしSMEがほんとにピカピカの新品同様になってきたのには驚いた。ハーマンのサービスにはいつも頭が下がる。QUADの代理店もハーマンのままだったら何の心配もなかったのだが。
フローティングのプレーヤーはサスペンションの調整次第でターンテーブルやアームベースが前後左右にどんどん傾くので,まず置き台やボディーの水平をきちんととって基準を定めてからサスペンションの調整をして,結果としてアームベースの水平が確保されるようにするとフワフワの「good bounce」が得られる。オルトフォンをつけて聴いてみるとずいぶん違うしなやかな音だ。SL-1200MK5もかなり良く鳴っていたとはいえ格が違うのは当然か(あるいはプラセボかw)。しかし回転数の切替はまた不安定になっている。純正ベルトならわりといいのだが,道楽としてはまた別の互換ベルトを買ってみようかと思う。
三が日にQUAD44のヒューズホルダーを掃除して戻したら(ネジをやや強く締めすぎたせいか,パーツの経年劣化か),ヒューズホルダーにひびが入ってしまった。互換パーツを注文したので,次に電源スイッチが具合悪くなったらスイッチと一緒に交換しようと思う。まあいつになるかわからないが。
正月はおせちを食べたり酒を飲んだりする以外は新居の地下に潜ってオーディオ三昧で過ごしている。こんなに幸せでよいのかと思うし,どうせそのうちまたひどい目に遭うだろうとは思うが,先のことは心配してもしょうがないので今はこの生活を楽しみたいと思う。SMEが修理中なのでSL-1200Mk5にいろいろなカートリッジをつけて試しているが,予想よりずっとまともな音で鳴るようになってきた。これが5万円ならまあ文句はない。
今日はオペアンプだけ交換したままになっていたAタイプのMCモジュールのコンデンサーを交換して,ついでにこのモジュールと新しい方のMMモジュールのRCAジャックを新しい金メッキのものに交換した。オペアンプを新品に交換するとずいぶん音が変わるが,コンデンサーは換えてもとくに変わった感じはしないことが多い(ノイズが出ていたのが治ったことはある)。もともと劣化の少ないタンタルコンだし,電源周り以外ではコンデンサーはあまり劣化しないようだ。RCAジャックも含めてやや精神衛生的側面の大きいメンテナンスといえる。
QUAD44のMCモジュールにはA,B,C,Dの4タイプがあって,このうちA,B,Cを持っている。違いは感度とインピーダンス,容量の3点で,Aタイプは0.3mV/470Ω/22nF,Bタイプは0.1mV/100Ω/68nF,Cタイプは0.3mV/100Ω/68nF,Dタイプは0.1mV/470Ω/22nFとなっている。ハーマン時代のカタログを見るとAタイプがEMT,テクニカ,デンオン等用,DタイプはFRやテクニクス,ゴールドバグ用(マニアックだ)となっている。問題はBとCで,オルトフォンMCシリーズはBタイプが指定されているのに対してSPUとMC10SuperはCタイプが指定されている。この2タイプは感度以外は同じなので,音量の好みで選べばよい......はずだが音も違う気がする。同好の士がどのオルトフォンとどのモジュールを組み合わせているか知りたいものである。
ショックだったのは交換したRCAジャックの寸法(長さ)が以前他のモジュールにつけたのと違っていたことだ。アンプにつけるとモジュールごとに段違いになってしまう。秋葉原の同じ店の同じマスの中から買ったのにどうしてこうなるのか。しかし気がついてみるとこのページももう10年近くやっている。10年分が1ページに収まっているWebページというのも今時珍しいのではないか。
あけましておめでとうございます。さて,QUAD44の裏側には3個の電源アウトレット(サービスコンセント)がついていて,44の電源スイッチに連動するようになっている。303や405などのパワーアンプには電源スイッチがないので,このアウトレットから電源をとるのが合理的だ。ところが初期型44だとこれが旧型のIECソケットになっている。マニュアルをみると新品の44にはこれ用のソケットが1個付属していたようだが,いまは世界中探してもこのソケットはみつからない。これで困っている人は多いのではないかと思う。
しかし解決法は意外と簡単だ。まず新IECソケット(写真右,秋葉原で400円)か,このソケットがついた電源ケーブル(パソコンショップにモニター連動用の電源ケーブルがある)を買ってくる。そして,新IECソケットの外枠(スカート)をニッパーかなにかでもぎ取る。もぎ取った後をヤスリなどできれいに平らに仕上げれば出来上がり(写真左)。新IECのスカートの中のプラグが旧IECと全く同じかどうかは確認できないが,とりあえずこれで初期型44のアウトレットに差し込むことができるし実用上は問題ない。
いままで4個ほどこの加工をしたが,新IECソケットのスカートはすべて予想外に簡単に,きれいにもぎ取れた。もしかしたら旧IECとの互換のために取れやすくしているのかもしれない。しかし完成したソケットをQUAD44に差し込むのには意外とコツがいるのだ。44のアウトレットには「フタ」がついているのでプラグでこれをこじ開けないとならない。まっすぐ入れても刺さらない。札幌の病院の人にコツを教えてもらってやっと差し込むことができた。コツは「ソケットを斜めにしてアースプラグから差し込む」ということだ。
引越の少し前に久しぶりにDL-102を1個買った。でもTD-150+3009Rにつけて聴くと「このカートリッジこんなに寝ぼけた音だったかな」と思うような音だったのだが,これはまだ判断できないな,とは思っていた。正月明けに自分用引越祝いとしてSL-1200MK5を1台買った。これにDL-102をつけてみるとびっくりする程よい音だった。DJ用にかなり低感度化されていると噂のMK5のアームとDL-102との相性が良いのか。昔の経験を活かしてトランス経由でつなぎ,針圧もたっぷりかけるとますます力感のある良い音になる。
趣味性はかけらもないプレーヤーだが,これだけきちんとしたものが今でも実売4万円台で買えるというのはすごいことだ。結構重いカートリッジもつくし(サブウエイトは自作もできる)針圧も4gまで直読できる。気軽にモノ用カートリッジをつけて古いレコードを聴くには最適だと思う。ちなみにステレオカートリッジはつけてみていない。音が良くても悪くても,そういうことをするのはなんか粋でない気がする。
大学の改装で新しい部屋に移った。ずいぶん狭くなったこともあってオーディオを開梱して設置するまでにはずいぶん時間がかかった。最初はスピーカースタンドはあきらめてLS3/5aを「ブックシェルフ」式に本棚に入れてみた。しばらくそれで聴いたが低音はこもるし高域は伸びないしで全然楽しめなかった。オーディオラックも置けないのでアンプなどは本棚に並べることになったが,これはホームセンターで立派な棚板を切ってもらってとてもうまくいった。
ようやくレコードプレーヤーも組めたので正月2日から大学に来て,思い切ってスピーカーを本棚から出してみた。やっぱりこの音だ。引越から2週間,やっとレコードが楽しく聴けるようになって,ここが自分の仕事部屋だという気がしてきた。というわけで「年内」の約束だった仕事をどんどんこなして行かねばならない。
eBayでQUAD44用のDISCモジュール(基盤がM12515-Iss.5になった中期タイプ)とTypeAのMCモジュールを買った。ふたつで送料込み46.72ポンドだから1万円ちょっとだ。出品者が極東の辺境の落札者にとても親切な配慮をしてくれたのもうれしかった。eBayではイギリスの人と取引することが多いけど,イギリス人でもイヤな奴は少数ながらいるし,タイの人や香港の人にはとても親切にしてもらった。人間の違いは国籍や文化よりも個人差の方が大きいことをますます痛感する。
これまでDL103をTypeCモジュール(300μV,100Ω,68nF)につないで聴いてたのだが,同じ300μでもカタログでDL103用とされていたのは470Ω,22nFのTypeAだった。そんなには違わないだろう,と思っていたけど聴いてみるとずいぶん違う。いままでどうも眠い音だなあと思っていたのが一気に元気になった。これでType A, B, Cが揃ったわけで,こうなると残りのTypeDも欲しくなる(必要ないんだけど......)。
Iss.5のDISCモジュールもサービスマニュアルには初期型44ではノイズが出るみたいなことが書いてあったが全く大丈夫。基本的には初期型モジュールと同じ音だがやや明快で現代的な音になっている。昔使っていた34のフォノはこんな音だったような気がする。2ちゃんのQUADスレで昔「後期型44に初期型モジュールが最高」みたいなことが書いてあったのを覚えているが,たしかに好みによって差し替える可能性がある程度には違う音だと思う。44は面白いアンプだ。
べつに「いま,405-2がアツい!」みたいな話をしようとしているわけではない。ほんとに405-2が熱いのだ。帯広はこの10日ほどすごく暑い日が続いている。ここ数日は少し涼しくなったのだが,研究室は風通しが悪いこともあって相変わらずの暑さだ。研究室が暑いのはコンピュータや冷蔵庫など熱の出るものが多いせいもある。その熱源戦線に札幌の病院から戻って来た405-2も参加したのでますます暑いのだ。
405-2は病院で電源や基盤のコンデンサ交換,オペアンプ交換などの治療を受けてすっかり元気になった。また,交換されていたスピーカー端子をオリジナルに近いバナナ専用に戻してもらったのも気に入っている。もちろん音も治療前よりずっとよくなった。しかしすごく熱くなるのは相変わらずで,しばらく大きな音を出した後など真夏にはアッチッチになる。これでは定期的なメンテナンスが必要になるのもわかる。405-2のためにも早く本格的に涼しくなってほしいものだ。
eBayで買ったNeutrikのDINプラグが届いた。ボディに刻まれたブランドはReanだがノイトリック製。とてもよくできていて精度も高く,QUADのDINジャックにすごくしっくりはまる。そのうえピンや内部接点は金メッキだ。これは気分的には最高のDINプラグだと思う。値段はPREHととくに変わらなかった。しかしDINプラグの種類で音なんか変わらない。あくまでも気分だ。でもオーディオ趣味の80%くらいは気分だと思う。その点でこのとても素敵なDINプラグに「CHINA」と刻まれていることは気分的にはやや欠点かも知れない(あくまでも気分の問題として)。
QUAD44のMCモジュールのタンタルコンデンサを思い切って全部交換してみた。パーツ代も作業時間もけっこうかかったが結果はとても満足のいくものだった。ほとんどすべての電解コンデンサーと過半数のオペアンプが新品に交換された44と電解コンデンサーがすべて交換された303の組み合わせで鳴っている音は理想にかなり近い。しかし素人がこれだけいじって失敗がまったくないのは奇跡としかいいようがない。とかいってそのうちまたいじりたくなるだろうから危険は去らないけど。
QUAD44は1979年から1989年までの10年間に約40000台製造された(Kessler,2003)。これらにはさまざまなバリエーションがある。後期のものでボディやボタンの色がグレーになり,キャンセルLEDが廃止されたり入出力がピンジャックになったりしているのは有名だが,ベージュ色の「前期型」と言われるものにもいくつかのバリエーションがある。私の44はベージュ色で製造番号2072,まさに最初期型である。プリアウトのピンジャックは5Vしかない。最近手に入れたジャンクの44の製造番号は8504,これも前期型だがすでにピンジャックは5Vと1.5Vに増えている。
2072の方は入出力モジュールのパネルの色が黒,8504ではボディと同じベージュになっている(もちろん後期型44ではボディに合わせてグレーになる)。違いはそれだけでなく,テープモジュールの再生と録音の表示が上下逆になっている(写真右)。これは初期型の製造ミスで上が再生,下が録音が正しく,取説にも絵入りの訂正文が入っている。私のは2台ともテープモニターボタンは鮮やかな赤(写真左),サービスコンセントは古いIECタイプ(写真中,最初はフタがついてるのかと思った)だが,モニターボタンは後にもう少し黒ずんだ赤に変わるし,コンセントも製造番号19000あたりから現行のIECタイプに変わる。コンセントが新IECでモニターボタンの黒っぽいベージュの44を「中期型」と呼ぶこともできるかもしれない。
サービスマニュアルを参照すると,44は外見だけでなく内部にも多くのバリエーションがあることがわかる。たとえばフォノ入力ボードは製造番号12000あたりでまったく違う回路になっているし,AUX入力ボードも最初はLF351/TL071オペアンプを2個使う構造だったのが後のCD/AUXボードではデュアルのTL072オペアンプ1個で賄うように変わっている。グレーの後期型は内部のコンストラクション自体も初期型とはまったく違うし(トーンコントロール基盤の取り付け方法,アッテネーターなど),音も全然別物だと言われている(私はちゃんと聴いたことないので)。そういえばフォノボードのリストアをしていてコンデンサーにも抵抗と同じカラーコードで容量が示されるものがあるのを初めて知った。オーディオはまだまだ奥深い。
文献:
Kessler,K. 2003 Quad; The Closest Approach. Huntingdon, International Audio Group Ltd.
この写真を見てください。QUAD44が2台あります。もう一台買ってしまったのです.....
ヤフオクで出ていた電源が入らないジャンクの44を3万で落札した。(1)なかなか手に入らないMM用のDISCモジュールを手に入れたい(2)ノイズの出ないTAPEモジュールを手に入れたい(3)今の44の傷んだノブやつまみを交換したい,というのが買った理由だ。届いた44は全体としては今の44よりきれいだが,なぜか入力モジュールがひどく汚れていた。なにか接点復活剤か油のようなものが多量に付着している。電源が入らないのは電源ユニットが壊れている(ヒューズがアセンブリごと取れている)せいか,電源ボードの電解がかなり液漏れしているせいだろう。ノブやつまみはきれいなものがついていたのでとりあえず(3)は達成。汚れた入力モジュールも掃除したらだいぶきれいになった。運良くDISCモジュールは生きていたのでさっそくオペアンプとピンジャックを交換して再生する。これで(1)も達成。現有44の問題点はほぼ解決してしまった。しかしTAPEモジュールはやはりノイズが出て(2)は達成せず。3個のTAPEモジュールすべてでノイズが出るのは何か別の原因を考えなくてはならない。
何はともあれ愛用の44はずいぶんきれいになったしMCトランスもつなげるようになった。何個もの入力モジュールが手に入ったのもありがたい。これで3万円は安いと主観的には思うのだがもうこれは普通の経済感覚ではないだろう。病膏肓に入るというやつだ。
QUAD用のラインケーブルを作るためにいろいろなDINプラグを買って試した(写真)。右から順に(1)RSコンポーネンツで買える独Lumberg社製のプラボディ5ピンDIN(2)同じくRSで買える英Deltron社製の金属ボディ5ピンDIN(3)独PREH社製の金属ボディ5ピンDIN(4)同じくPREH社製の4ピンDIN,である。Lumbergはプラで安っぽく見えるし値段も安い(200円くらい)がとても精巧にできており信頼性が高い。いっぽうDeltronは金属だが仕上げが雑なだけでなく精度も悪く,私が買った5個のうちQUADのジャックにきちんと嵌るのは1個しかなかった(それで値段はLumbergの2倍くらいする)。いっぽうPREHはさすが丸形DINコネクタのオリジネータだけあって仕上げも美しく信頼感があるし,実際精度が高くQUADのジャックにきっちりと嵌る。
結論として金属製ならPREHがお薦め,PREHが買えないならLumbergを使うのがよいだろう。しかし残念ながら私の知る限りPREHのDINプラグは日本国内では買えないようだ。私はflashback sales から買う(1個2.89ポンド,送料1.99ポンド)か,eBayに出品されているもの(だいたい1個2ポンドくらい)を買うかしている。日本のRSコンポーネンツで金属製DINプラグとして表示されている写真はPREHのように見えるが実際に送られてくるのは外見も全然違うDeltronであるから注意が必要だ。ネットで見るとNeutrikのDINプラグというのもあるようで,いつか入手して試してみたい。だんだん変な趣味に展開してきた。
QUAD303が札幌の病院から帰ってきた。すべての電解コンデンサとトラブルの多い可変抵抗が交換され,ハンダもすべて補正されたのでもう安心。自分の体と同様,やはり早めによい病院にかかることが大切だ。
さっそく44につないで聴いてみる。405-2よりもややハイ上がりだが実に元気な音。よく欧米のHPで303は more transparent だと書かれているがその通りで,細身だが見通しがすごくよい。しかし33につないでみたら驚いた。44につないだ時よりずっと中低域が充実して「重厚」といってもよい響きに変わる。405-2ではプリの違いでこんなに音は変わらなかった。これは侮れない。
「ブリティッシュ・サウンド」のイメージから言えば,33+303の音はまさにそれだ。ゆったりした中低音の上にちょっとスパイスの利いた高域が乗って,音楽をやや隈取り気味に聴かせる。いっぽう44-303はもっとハイファイだが神経質だ。どっちが好きかというとハイ上がりの好きな私としては44+303の方が好きな音かも知れないが,33+303の音の「説得力」は圧倒的だ。それでこの外観だもんなあ。まいったまいった,脱帽だよ。
QUAD44のMCモジュールが調子が悪いのでコンデンサーを交換したのだがミスって壊してしまった。オペアンプが逝ってしまったのだ。それでオペアンプも取寄せて交換することにした。QUAD44に使われているオペアンプICは後期型だとTL071/072CPに統一されているようだが,私の初期型44はオペアンプ回路黎明期だけあって今では珍しい各種のオペアンプが使われている。RADIOモジュールにはLF351N(写真は交換前),TAPEモジュールにはRCAのCA3140E がついていた。ありふれたTL071/072なら100円以下で買えるが,こういう珍しいのは300円以上する。といっても恐怖の輸入オーディオワールドではタダみたいな値段であることに変わりはない。
研究室にあったジャンク基盤で十分にハンダ吸い取りとハンダづけの練習をしてから,とりあえず壊れたMCモジュールのTL071CPを交換してみる。成功。音がちゃんと出るようになっただけでなく,音がすごく良くなった。それこそ「ヴェールが一枚剥がれた」みたいな感じ。こんどはCD/AUXのTL072CPを交換する。これも大成功。CDの音はびっくりするほど改善された。ついでに接触の悪いピンジャックも新品に交換する。そんな調子で手持ちの全部のモジュールのオペアンプを交換したが失敗はひとつもなかった。
44はどうも33より音が良くない感じがしていたのだが,今回の部品交換でずいぶん変化した。もちろん33の良さ,44の特徴は基本的にそのままだけど,交換後の音なら44だけしかなくてもとくに不満はないと思う。しかしこの44にはDIYまで楽しませてもらって本当にありがたいことだ。今日現在まだ取り返しのつかない大失敗がないのも奇蹟的だ(そのうちきっと本格的に壊すだろうがそれも楽しみのうちである)。
いっぽうイギリスからはるばるやってきた303は予想通りトラブルがあって札幌の病院に入院中orz。
もう4月になるというのに帯広は写真の通り大雪。でもこういう日にはレコードがいい音で鳴る。
無事に退院してから2週間,QUAD44と33の2台のプリアンプ(QUADではControl Unitというわけだが)を何度も何度もとっかえひっかえして聞いてきた。同じQUADでも2台の音はずいぶん違う。もちろん前のLINNと比べればどちらも正真正銘QUADの音なのだが,33の音はオールドアンプらしく聞かせる音と聞かせない音を整理して強調して聞かせる演出型の音だ。いっぽう44はもう少しフラットで,その分レンジは上にも下にも伸びている。音場感も44の方が上で,高さがよく出る。オーディオ的には44の方が明らかにレベルの高い音だと思う。
しかし音楽を聴いて楽しいのは33のほうだ。とくに古い録音のヴァイオリンなどを聞いた時に,33は録音に寄り添ってそれを最大限いい音で聞かせようとする。いっぽう44はやや突き放したような感じに聴こえる。44の方向なら前のLINNでもよかったかもしれないと思う。けっきょくここ数日はずっと33が405-2につながっている。
オーディオ機器には個体差があるから,これがそのまま33と44の本質的な差ではないだろう。私の44にはMC入力しかなく,33のトランス入力と比べているのも44に不利かもしれない。とりあえず44のMM用ディスクモジュールが見つかるまでは33を中心に聞いていくことになりそうだ。eBayで衝動買いした303も今週中にははるばる英国から届くであろう。33を303につなげば33と44の差がますます33方向に進行するのではないかと期待しているが,オーディオでは期待はたいてい裏切られるからね......
ヤフオクで知り合っただけで顔も見たことのない人が,私を信用してアンプを貸してくれる。オークションはときどきいやなこともあるが,基本的にはみんな良心的で心やさしい,相手思いの人たちが中心だ。私はヤフオクを始めてから,むしろこの世の中がいまもたくさんのきちんとした人々によって動かされていることを痛感した。eBayや海外通販も同様で,人の違いは国籍よりも個体差のほうが大きいことを感じさせられる。
naitを貸してくださったwatiさんは,私がときどき出品する日本に1〜2名しか必要とする人がいないような品物を2回にわたって落札してくださった方。たぶん私より年上で,イギリスのオーディオに大変造詣の深い方だ。トーレンスの前に使っていたレガもいまはwatiさんのところにある。お借りしたnaitは日本にもかなり入っていたnait2ではなくオリジナルのもの。まあシンプルな作りで筐体はがっしりした金属の質感の高いものだが,つまみ類はプラの素っ気ないもので,ボリュームに至っては瓶のフタみたいなプラ部品だ。
しかし音を聴いたら驚いた。まったりした暗めの音を想像していたのだが,まるでちがう元気でワイドレンジな音。QUADよりずっと現代的な音で,とくにロックやジャズはほんとに気持ちよく鳴るし,クラシックでも小編成のものはとても素敵だ。オーケストラなどはQUADにやや譲るが,それにしても十分高品位な音でスピーカーもよくドライブしている。他のものがなくてこれ一台ならとくに不満も持たず聞けると思う。naitやCyrusのような縦長スタイルのアンプが今も気軽に買えるならプリメイン一台でシステムを組んでみたいなあ。とにかくフルサイズの横長オーディオは嫌いだ。
研究室にはQUAD44も届いた。これで以前使っていた34も含めてQUAD全盛期のトランジスタ型プリは全機種使ったことになる。34もまた欲しい(こんどはベージュのDIN入力のやつがいいな)。44は33よりかなりワイドレンジで現代風だがやっぱりQUADの音。33と44では33の方がよい面もあって,どちらか1台残すなら相当悩むと思う。じっくり聴き比べたいのだが残念ながら来週からオーディオはしばらく楽しめなくなってしまう。
QUAD33と405-2で聴くレコードやCDの音は,LINNのアンプとは明らかに違っている。LINNの音はよくも悪くも自然で,だけどややのっぺりしている。いっぽうQUADの音はブログにも書いたようにきちんと料理された音だ。楽器の音や人の声や,その響きにはすべて独特のテクスチャーがあるのだが,QUADで聴くとそれらすべてのテクスチャーが現実よりもずっと強調される。すべての音を平等に鳴らすのではなく,聴くべき音だけを整理して前に並べてみせるのだ。これは「自然な音」ではないけれど,私はこの音がLINNの音より好きだ。五味康祐は「デッカのオーケストラ録音の高域には砂金が混じっている」と書いたが,QUADの音もその種類なのかもしれない。私の部屋でQUADの音を聴いた同僚が「オーケストラの音が細かく泡立っているようだ」と言った。さすが良い耳だ。
TD-150が研究室に届いた時には,とりあえず回ってはいたが回転数の切換えがうまく行ったり行かなかったりする状態だった。ベルトを昔TD-321で使っていた純正のものに替えるとかなりマシになった。eBayで手に入れた互換ベルトでは良くなるどころか45回転が回らなくなってしまったので,古い純正ベルトに戻して聴いていた。同じトラブルはこのプレーヤーを譲ってくれた人のところにあるもう一台のTD-150でも起きていた。私が「純正ベルトだとかなりマシです」と連絡したので,その人はさっそく純正ベルトを買いにいった。純正ベルトに交換したらトラブルは完全に解決したそうだ。それでその人はお礼ということで新品の純正ベルトを1本私にも送ってくれた。
交換してみたら驚くほど変わった。キビキビ回るし回転数調整もスムーズになった。それより驚いたのは音質も良くなったことだ。新しいベルトで回転トルクがかなり強くなったことと関係あるらしい。古いベルトはTD-321のを新しいものと交換したときに取っておいたもので10年以上は経っている。かなり劣化していたようだ。ベルトの交換でサスペンションもある程度調整する必要があった。ベルトもサスペンションの一部,とトーレンスに詳しいホームページにも書いてあった通りだ。
ネットで調べてみてもTD-150のベルトのトラブルは多い。他のトーレンスのベルトドライブ機は互換ベルトでも問題ないようだが,初代ベルトドライブのTD-150だけはベルトを神経質に選び,ベルトの幅や厚さ,伸縮度などが純正と違うとうまく行かないようだ。純正ベルトは3700円。輸入オーディオでも「単に値段が高いだけではない」ということはたまにはある。ごくたまに,だけれども。
(06/01/25後記)懲りずにまたeBayで非純正ベルトを買ってみた。今度は大当たりで純正とまったく同じように完全に機能する。これがアメリカからの送料合わせても$12.98というのはありがたかった。とはいえ上で述べたダメベルトは1本$4.98だったから,やはり「安物買いの銭失い」というのはあるようだ。
印税が入ったら一生使えるプレーヤーを買う予定だった。予算は30万くらいまで,アームレスでSMEが使えて,回転数の切換えが簡単にできて,できれば機械式で電子制御でないもの,そしてできるだけコンパクトなもの,というのが条件。予算的にはTD-124やガラードでもいいし,中古なら旧タイプのLP-12だってありだ。でもガラードはなんだか欲しくないし(大きくなるから),TD-124は消耗パーツの供給が心配,LP-12じゃあまりにそのまんま,で悩んでいた。
そんなときにオークションにTD-150が出ていた。TD-150は1965年から1968年まで売られていたトーレンス最初のベルトドライブ機(製造はEMT)。LP-12の原型とも言われるじつにコンパクトなスプリングサスペンションのプレーヤー(実際いくつかの部品はLP-12と互換するらしい)。写真に一目惚れした。これだ!ということで購入。すごく安いということもなかったが,予算の数分の一で希望通りのものが手に入ってしまった。
モーターが電気で回る以外は,すべてがシンプルな機械制御で動く。意図的に壊さない限り,基本的なメンテをしていれば壊れるところはない。部品もコアなものを除けば汎用のパーツやネジで交換可能だ。すでに40年使われてどこも壊れていないのだ,おそらく残りの一生使い続けられるだろう。
そのぶん調整すべき部分は無数にある。30歳の私だったらまったくお手上げだっただろうが,その後10数年の経験とインターネットの力で,各部の分解掃除と組み直し,アームの取り付けと基本的な調整までこぎ着けて,すでにとても良い音で鳴っている。ああ,レコードってこういう音だったよねえ,というちょっと懐かしく心の温まる音,それでいて解像度はレガに劣らない。これからゆっくりと微妙な調整を仕上げていこうと思う。
ケーブル自作は面白くて最近はベルデンの8412という2芯シールドで作ったラインケーブルで聴いている。カナレよりもう少しふくよかな感じで気に入っている。スピーカーケーブルは自作の基本ビニールキャブタイヤの極太ケーブルが偶然手に入ったので今はそれがついている。カナレより低音が出るが高域はやや荒い。しかしエージングが進んだのかだんだん滑らかになっている(客観的には耳の慣れだと思う)。電源ケーブルはベルデンも試したがやはりリンのアンプはリンの付属電源コードが一番良いという結論になる。現在のところ全体には悪くない音だ。
カートリッジもいろいろ試した。知人の推薦でSUMIKOのPearlというMMカートリッジを買ってみた。奥行きが深く雰囲気のある再生でオーケストラなどとても美しいが,私はハイ上がりで神経質な音のほうが好きなのでどうもやや眠く感じて常用にはならず。いっぽう遊びで買ったオーディオテクニカのAT-F3IIIというMCカートリッジ(写真)はとても気に入って,最近はおもにこのカートリッジを使っている(アンプでMC受け)。定価10000円という安いカートリッジだが高域の輝かしめの癖が私の好みには合っているようだ。これでアルヒーフなど聴くと輝かしくて輝かしくて恍惚となる。思い出せば初めて買ったトーンアームはオーディオテクニカだった。最近ではテクニカは昔のカートリッジメーカーからマイクメーカーに転身した感があるし(シュアもそうなのは興味深い),副業の「寿司を握るロボット」も好調で経営は良いようだ。できる限り長くカートリッジを作り続けて欲しい。
いっぽう学会出張で秋葉のキムラ無線で針交換してきたDL103もとてもよい。手元の古い103と聴き比べると,どうも私のシステムではMCカートリッジは針が減らなくても2年程度でずいぶん音が悪くなってしまうようだ。帯磁だと思うがもしかしたらプリから直流が漏れてたりして.....測定する勇気はなし。
カナレ化はラインケーブルにまで及んで全体にやや和風の生真面目サウンドになっている。リンのインターコネクトケーブルはほんとに良いもので不満はないのだが,どうもスピーカーケーブルがカナレの場合に限ってはラインケーブルもカナレの方がバランスが良い(ジャポネスク風味が一貫する)ように感じる。
この20年はおもに海外製品を使ってきたけれど,自分が育てられてきた音・安心する音は日本のものだったことを痛感する。でも今の国産オーディオに私が欲しくなるような製品がほとんどないことが大きな問題だ。昔のデンオンPRA2000とか今あったら欲しいなあ。和風化されたシステムではオーディオテクニカのカートリッジがとても良い音で鳴るし,久しぶりに使ってみたV15 TypeIIIも期待通りに鳴ってくれている。緻密でありながら暖かい音。そういえばV15 TypeIIIの設計者も日本人だと聞いたことがある。
カナレのラインケーブルの一部は自作してみた。ケーブル作りも昔はずいぶんやったがリンのケーブルを使うようになってからほとんどごぶさたしていた。ちなみに必要な長さのラインケーブルをステレオ1ペア作る材料費は1000円弱である。ケーブルを作るとしばらくの間指先が痛い(被覆線の皮むきなどに指先を使うから)。でもこれも快い痛さだ。
スピーカーケーブルをカナレ4S8にしてから,シングルワイヤ接続とバイワイヤ接続を何度か入れ替えて試してみた。一長一短。現在のところバイワイヤになっている。
K400と4S6を入れ替えて驚いた時の明るさや空間感,広がりはシングルワイヤの方が優れている。全体に柔らかいので歪みっぽい音源でも聴きやすい。そのかわり音はやや薄く腰高になる。バイワイヤでは音の実在感が強まり,とくに低域の制動が良くなって音が厚くなるが,そのかわり音はやや暗めになり,空間感や広がりも控えめになる。固めなので歪みっぽい音源ではややつらい。バイワイヤ専用のK400ではバイワイヤのこうした弱点が前面に出ていた気がする。
これと似たような対比を経験したことがある。MMカートリッジとMCカートリッジだ。シングルワイヤの音はよいMMカートリッジの機嫌のいい時の音に似ている。いっぽうバイワイヤの音はMC的だ。カートリッジについては私は結局実在感でMCを残している。MCでも結局オルトフォンよりデンオンを好むのもその理由だと思う。同じことがスピーカーケーブルでもいえそうだ。しかしシングルワイヤの明るく繊細な音も捨てがたい。ときどきV15typeIIIでレコードを聴きたくなるのと同じように。
(05/07/21追記)いろいろ試してみたがSMEのアームコードも結局純正に落ち着いた。それもニッケルメッキの古い方。SMEアームの音は純正アームコードの音なんだなあと再確認。そういう意味ではコードのない中古がひどく廉くなるのは当然か。
(05/07/25追記)カートリッジはまたオルトフォンMC20に。どっちもいいんだよ。とくにドイツグラモフォンの比較的新しい録音はオルトフォンがいいなあ。いっぽうDL103はデッカや古い録音にいいなあ。でもダブルアームとかもうイヤなんだよなあ。SPUかコントラプンクトでも買えばこうした悩みも解決するのか。6万円もするカートリッジを買うのには私の常識からしてかなりの抵抗があるが,年齢や収入から考えれば,またそれで音的に満足するのであればそれほど高い買い物でもないのだろう。でもそれで解決しちゃうほど人生は甘くないはずだとも思う。
研究室のオーディオはひさしぶりにこれといった不満を感じないような良い音で鳴っている。その原因としては以下のようなことがあげられる(またこれらは印税がいくらか入ったことに起因する)。
そこで同じカナレのもう少し太いケーブル4S8をバイワヤリングでつないでみた。これでも140円/mしかしないので通販送料合わせて総額1500円に収まる。こんどは重心がかなり低くなって,それでも4S6のときの明るさや透明感はしっかり残るという理想的な結果になった。しかしK400はどうしてあんな音なのだろう。ケーブルに故障はないにしてもあまりに悪すぎる。端末処理(バナナプラグなどがハンダづけしてある)に問題があるのか,あるいは経年変化か(かれこれ5年近く使っていた)。そのうち暇になったら端末処理やり直して試してみたいが,いまはカナレの音に何の不満もないので当分このままだろう。カナレはスタジオやステージ用の電線で世界的に有名な日本のメーカーで,愛知県日進市で作られている。カナレとモガミ(長野県塩尻市)の業務用電線は中部地方オーディオマニアの誇りだな。
電源の改善も相俟ってとくにCDの音がとても良く聞けるようになった。今日現在ではLPよりCDの方が良いかも。電源の改善では自作の図太い電源ケーブルなどはすべて排斥してリンの純正の細いものと,それと同じメーカー製のやや太いモールドケーブル(ヤフオクで1本2500円)だけになった。結局その方が良かったからだ。リンのラインケーブルも細くてしなやかだが良い音だ。少なくとも私の好みの範囲では「ケーブルは細くて安い方が音が良い」。
ステレオLP用とモノ/45用の2つのプレーヤーを切換えボックスで1つのトランスにつなぎプリアンプにMM受けで入れる,という冗長なアナログシステムを1年間以上使ってきた。そろそろ疲れていたところへモノ用プレーヤー(最近はテクニクスSL-1500という古いDDを使っていた)のアームが接触不良となった。よい機会なのでシステムをリセットした。
プレーヤーはレガ1台に。当然切換えボックスはお役御免。どうせだからトランスも片付けてWAKONDAはMC受けに切り替える。ついでにカートリッジもしばらく付けっぱなしだったDL103RからオルトフォンMC20SuperIIに換える。聴いてみるといい音だ。専用トランス受けではどうも眠い音でDL103に負けていたオルトフォンがすばらしく美しく鳴る。久しぶりの褒め殺しサウンドを満喫する。 オルトフォンはこんなによかったか。そういえばあれはどう鳴るかな,と引き出しの奥から取り出したのはMC10SuperIIだ。
私の記憶に間違いがなければ(間違いの可能性はあり)このカートリッジを買ったのは結婚するより前だから少なくとも12年経っている。最後に使ったのはまだ帯広にくる前だ。それに取り替えてみる。これもいい音だ。MC20に比べてやや線が太くわずかにドンシャリなのだが,それがとくに古い録音ではかえってMC20よりいい味になっている。オーディオは面白いなあ。なおこのカートリッジの復活にはメラミンスポンジによる針クリーニングが決め手になった。1万円もする針クリーニング液など全く必要ない。2ちゃんねるに書いてあることもときどき役に立つ。
6/24追記
1)とかなんとか言ってカートリッジは今日現在すでにもとのDL103Rに戻っている。オルトフォンはほんとにきれいな音なのだが,高域にややピークのあるDL103の音じゃないと結局私はレコードを楽しめないのか。103Rと103無印のどちらがよいかは常に迷う微妙な判断だが,いずれにしてもよい音の80%は慣れである。しかしDL103Rにもメラミンクリーニングは確実に効いたよ!
2)私の記憶にはやはり間違いがあった。どこが間違っていたかはこのページのずっと下の方を見ればわかります。
自宅でCDやiPodの音楽を聴くために簡素なオーディオ装置を揃えた。最初にヤマハの小型スピーカーNS-10MMT(有名な小型モニターいわゆる「テンモニ」のそのまたミニチュア版,人呼んで「ミニモニ。」)を新品ペア9800円で買って,それに貰い物の古いBOSEのアンプとビクターのCDプレーヤーをつないで聴いていた。そのうちにもっとちゃんとした音で聴きたくなった。予算からいえばもう少し高い値段のマランツのアンプとCDでも良かったのだが,何しろ大きい。QUADやLINNに慣れた目からは一般的な国産アンプは巨大すぎる。
それで選んだのがデンオン(いまはデノンというらしい.....)のCDレシーバー。これだけでCDもFMもAMも聴けてアンプもついている。イギリスのオーディオ誌でこれの旧モデルがベストバイに選ばれていたのも印象に残っていた。送料も合わせて約3万円。総額4万円のオーディオシステムだ。予想よりずっと良い音だった。高域寄りのバランスは好みだし,FMもきれいな音で聴ける。AMもそれなりに音楽的だ。こういうものを作らせたらやっぱり日本はすごい。家でゴロゴロするのが前より楽しくなった。
レシーバーの上に乗っているのはスタックスのイヤースピーカーのドライバー。これで聴くと3万円のレシーバーでも研究室のオーディオより明らかに良い音で聴ける。といってもヘッドフォンの方がCDレシーバー本体よりずっと高価なんだけどね。
最初はAT-MONO3/LPというカートリッジを面白半分で買ってみたことから始まった。ところがこれでモノレコードを聴くとずいぶん良い音であるだけでなく,これまでひどい音でしか聴けなくて盤が傷んでいるものとばかり思っていた古いモノラルレコードがかなりの確率で普通に聴けるようになった。死蔵していたワルターVPOの大地の歌のオリジナルLXT盤とか,英HMV盤のトスカニーニNBCのブラームスとかがみごとに蘇った。そうなると,モノラルカートリッジ用のサブプレーヤーがあってもいいかな,という気持ちになる。ちょうどコスモテクノという3万円以下で買えて78回転も聴けるプレーヤーが気になっていて,恐いもの見たさで取り寄せてみたのがいけなかった。
中国製で外観や造りは絶望的になるほど安っぽいのだが,モーターはDDできちんと回り,回転数の変更はスイスイだしスイッチひとつでターンテーブルがピタッと止まるのでほんとに便利。そのうえ音も決して悪くなかった。ちょうどヤフオクにはまっていたという悪条件が重なって,中古のMCトランスやフォノイコライザーまで買い揃えてしまって写真のようなことになった。これでいちいちカートリッジ交換をしなくてもモノラル盤がとても良い音で聴けるし,取り寄せ中のM44G用のSP針が届けばSPも聴ける。コスモテクノはアーム高の調整ができず,カートリッジごとに高さ調整してないことが免罪されるので精神衛生上もよろしい。それでもステレオ盤をかけると音場感がまったくないし音色も硬くて余り楽しめず,やはりレガ&SMEはいいわということになったのも同様に精神衛生上よいことだった。
よろこんで使っていたレガのトーンアームが断線した。代理店は補修パーツは売らないというし,いよいよずっと暖めていた計画を実行することにした。すなわち「レガにSME3009Rを取り付ける」。そのためにはレガにSME用の穴を開けなければならない。数年ぶりの大仕事に心が弾む。昔ならとるものもとりあえず手持ちの工具で開けてしまっただろうが,そこはすでに不惑の年,じっくり計画してまず工具をそろえた。電気ドリルや各種の刃,養生用のマスキングテープなど合計8000円余。買ってきた工具でまずはいらない板にSME穴を開ける練習,それから本番。
準備のかいあって数時間の作業で3009Rはレガのボード上に収まった。まるで最初からSMEがついていたような感じ,心配していたダストカバーもちゃんと閉まる。音を出してみるとやはりトーレンスよりかなり現代調の音ではあるが,レガのアームに比べると良くも悪くも「いかにもアナログ」な雰囲気,まったく悪くない。数年のうちにはTD124かガラードに再挑戦と考えているが,それまではこれで聴いていこう。KAN STANDが届いてLS3/5aもきちんと鳴らせるようになったし,研究室の改装に伴うオーディオ試行錯誤は一段落だ。
地震でスピーカーに傷がついたり,アンプのボンネットが曲がったりもしたが,最大の被害は研究室の天井が一部崩落したことだった。結果として部屋の一部が使えなくなり,そこにあった仕事机やコンピュータは別の部屋に移動して,ひと部屋は実質オーディオだけになった。このことは音質的にはプラスに働いたが,仕事しながら音楽を聴けないという問題が生じた。仕事が忙しいとアンプの電源も入れないで,音楽はもっぱらコンピュータで聴く日々が続く。悩んだあげくの結果が写真の通り。ふるいLS3/5aを取り出して,仕事机の横にオーディオセットを並べることになった。まあ総額100万円のミニコンポですな。
しかし,久しぶりに聴いたLS3/5aはやっぱり良いスピーカーだった。レンジや音場感などは新しいKEOSAにはまったく及ばないが,なんていうか音色そのものが魅力的なんだな。LS3/5aの音自体は少し神経質で決して癒し系ではないのだが,その音に深く深く癒されてマターリ。オーディオって面白いものだなあ。QUADのアンプもとってあったらもっとマターリできたかなと悔やむ気持ちもちょっと生まれた。
12月頃からトーレンスの調子が悪くなった。回転ムラが増えているようで音が濁る。気になり出すともうどうしようもない。でもLP-12が買える財力はない。そこで「つなぎ」くらいのつもりで,前から気になっていたRegaのPlanar3を買ってみた。約8万円。ちなみにトーレンスは総額20数万円............。届いたのはそれこそ「板にターンテーブルとアームがついているだけ」の極限までシンプルなプレーヤーだった。どうせシャレだからと久しぶりにV15TypeIIIを引っばり出してつけてみて,何枚かのレコードをかけてみた。.................沈黙。
新規購入のプラシボ効果もあるだろうが,いろんなレコードがなんと楽しく鳴ることか。さすがはV15だけれども,それだけではない。トーレンス+SMEにつけたV15はこんな音では鳴らなかった。V15の「いかにもアナログ」の音に,これまでは聞けなかった空間の奥行きや高さといった「現代ハイファイの要素」がきちんと加わっている。これは聴けるわ。DL103やOrtofonではそれほどではなかったが,それでもトーレンスと比べて悪くはない。付属のRB300というトーンアームが侮れないようだ。当分はRegaとV15TypeIIIという組み合わせでいろんなレコードを聴いてみよう。交換針のストックもまだ2個あるからね。
必要があってわりときちんとしたヘッドフォン(B&O Form2)を買った。パソコンにつないでみたらmp3オーディオが予想外にいい音で聴けた。それでは,ということでiPodを買った。それ以降毎日こればかり聴いている。10GBのiPodの中にはビートルズの公式録音曲全曲,ベートーベン交響曲全曲(トスカニーニ),ブラームス交響曲全曲(ケンペ),シベリウス交響曲全曲(ベルグルンド),マタイ受難曲などに加えてたくさんの「心のアルバム」や懐メロが入っているが,まだ十分余裕がある。付属のイヤフォンでもそれなりに快い音なので移動の時にはそれで聴いているが,Form2に変えると格段に音の品位が上がる。ヘッドフォンはもともとスピーカーよりいい音が出やすいから有利だ。すごい時代になったものだと思う。
研究室のオーディオの方も根本的にセッティングを見直したり,ケーブルや接続部分も見直したりして,この2年くらいでは最も良い状態で鳴っている。iPodと聴き比べれば違いは一目瞭然,mp3というものはやはり音が悪い。それでもiPodに魅せられているのは目新しさだけではないと思う。
悩んだすえにT-10MkIIは取り外し,カートリッジもDL103に戻した。DL103はトランス経由ではなく,MC受けに戻ったWAKONDAプリに直接つながっている。結局1年ほど前の状態に戻ったことになる。それだけでなく,下の方に写真がある自作木製ラックもやめた。結果として,ここしばらくの苦悩が嘘のようにすっきりした音に戻った。あーあ。(じつはこの1か月の間にもケーブルを取っ替え引っ替えしたり,ケーブルを作ったりいろいろしていたが,それらもぜんぶ放逐。)
なんとなく「これが良くないのかもなあ」と思いつつも,それなりに手間や金をかけてしまったものを捨てるのには勇気がいる。ダム建設や干拓がやめられないのもそれだし,人生のいろいろな場面でも同じことがある。オーディオはほんとうに人生の縮図だなあと思う。しかし,MCトランス受けはケーブルで難儀するなあ...T-10MKIIはどうしたものかなあ....
どうも最近音が気に入らないので,カートリッジをDL103(トランス受け)から再びMC20SuperIIに換えた。プリアンプはMM受けにしてしまったので,DL103用のトランス(AU320改)の3Ω側を使って聞いてみる。解像度はよいが高域にピークがあるようで弦の音がキンキンして楽しめない。3Ω側はいままで一度も使ったことがなかったので,エージングでなんとかなるかとも思ったが,ボーナスでわずかに懐が暖かかったこともありオルトフォン純正のT-10MkIIを買ってしまう。さすがに純正組み合わせは安心して聞ける音。でも前(DL103)よりよくなったかというと,なんともいえない(笑)。
なんか気に入らない音だ,となるとどこかをいじる。音が変わるとよくなったと喜ぶ。これがオーディオ趣味だ。その繰り返しで音はどんどん変わっていくが,実際に音がよくなっているのかは結局わからない。最近は音の良し悪しというのは装置や調整よりむしろ体調や意欲など聞く側の要因がすごく大きいことを感じる(いまさらながら,だが)。最近音が悪いのは俺が疲れており,時間がなくてゆっくり聞く意欲も持てないからだろう。
小学生の時に7000円のステレオ電蓄に拾ってきた16センチスピーカーをつないで聞いた渡辺暁雄指揮のアルルの女のダイナミックな音には衝撃を受けた。中学生の時に拾ってきたオプトニカのターンテーブルにテクニカの廉いアームとM44Gをつけ,ステレオ電蓄につないで聞いたピンクフロイドの「エコーズ」は本当にいい音だった。大学に入った頃にグレースのアームにフィリップスのMMカートリッジ,ビクターの廉いアンプとダイアトーンDS25Bで聞いたシェリングのベートーベンは恍惚とするような音だった。今はそれらの数倍,数十倍の値段の装置で聞いている。たしかに客観的には音の質はすばらしく上がっている。しかし,そこで聞き惚れるべき自分がすでにいないのだ。
少し時間があったので3009Rの純正ケーブルをモニターPCのプラグを使って修理した。それでレコードの音はほぼ原状復帰し,まあ満足して聴けるようになったんだけど,そうなるとまた欲が出てくる。前からアームケーブルをリンにしてみたらどうかと考えていた。ラインケーブルの代用では失敗したが,リンのアームケーブルなら良いかも知れない。サウンドマックの大黒さんに相談してみたらAKITO用のケーブル(5Pプラグ)を改造してくれるとのことだったので,お願いした。プラグも込みでSMEの純正ケーブルの半額にも及ばない値段,普通に考えればねえ......。届いてみれば案の定やすっぽいケーブルで,アーム側は交換してもらったからまだしも,アンプ側はなんとプラスチックモールドのプラグ,量販店で売ってる1000円のAVケーブルみたいなものだ(写真左)。いつもながらリンのケーブルはなあ,と思いながらつなぎ替えて,最初のレコードをかけた瞬間からすっかり納得。客観的にはともかく自分の音の好みはリンのケーブルと相性が良いのだと思う。全体に歪みが減って静かになった。これをリン臭い面白みのない音と嫌う人もいるだろうが,いままで歪みっぽくて楽しめなかったレコードがそれなりに,良いレコードはますます気持ち良く聴けるようになった。安いものですから,SMEアームをお使いの方は試してみたらいかが?
どうも最近レコードの音が気に入らず,楽しめずにいた.どうも歪みっぽかったり,元気がなかったり.カートリッジを取り替えてみたり,MM受けでトランスを入れてみたり,「ターミナルケア」をしてみたりしたが,どうしても良くならない.ふと思い付いて,アームケーブルを取り替えてみたら驚いた.
しばらく前にSME 3009Rの付属ケーブルを断線させてしまい,リンのインターコネクトに取り替えていた.前にも書いたように,リンのこのケーブルはラインで使えば奇跡的に良いものなので,アームに使っても良いはずだと思って,それを使っていたのだ.甘かった! 交換したのはSME製の,アームについていたものよりはずっとローコストなもの.それでも音は激変した.しばらく前までレコードを楽しく聴いていたあの音が帰ってきたのだ.もちろん好みもあるのだろうが,良いラインケーブルがアームに使っても良いとは限らん.まったくケーブルはあなどれない.オーディオは一生勉強だ.こりゃあ純正ケーブルに戻さなきゃ,とハーマンにメールで問い合わせたら同等品は25000円(!)だって.これはしばらくおあずけ.
ホームセンターに良いヤナギ材の単板があったので,プリアンプとCDプレーヤーを乗せるラックを作った(写真).これまでの安物スチールラックより雰囲気も良いし,音も良くなった(ような気がする).総工費2500円.乗っているものは40万円強.まあいいや.
卒業式の日の信じられない出来事によって,ATCは在室わずか3ヶ月弱で,研究室から姿を消した.音楽を聞くためには新しいスピーカーを買わねばならなかった.そして,KEOSAがやってきた(写真).ペアで12万円,前のATCと比べれば,定価で半額以下.あきらかにダウングレードだが,緊急事態だし,仕方ないだろうと思っていた.
音を出してみた.そして,深く考えさせられた.少なくとも,私の耳にはATCよりも数段好ましく聞こえる.それも,エージングも全くしていない状態でだ.それからどれだけのLPやCDを聞いたか,どれもこれもこれまでになかったほど,元気よく,楽しく奏でられる.本当の意味でのLINNのサウンドが,はじめて私の部屋に響いた瞬間が,これだったのだと思う.いまから10年以上前に大泉の「サウンドリンツ」でうまれて初めてLINNの音を聞いた時の感動が,鮮やかに蘇ったのだった.
前のATCが実にイモイ,暗い音であったこと,そしてアンプなどがすでにすべてLINNになっており,それらとの相性が考え抜かれている筈であることなど,割り引いて考えるべき要素はたくさんあるが,この買い物は実に成功であったし,KEOSAのコストパフォーマンスが非常に高いことはまぎれもない事実だろう.買って良かった.学生さんがATCをあの世へやってくれて良かった.
ただ,黒色ビニール仕上げの外観が安っぽいことは,値段を考えれば仕方ないだろう.あと,スピーカー上面についている「LINN」のロゴ,こんなのカタログ写真にはなかったのに,ピカピカ光ってますます安っぽさを強調している.新しいロゴを定着させたいのはわかるが,最近のLINNのデザイン指向には多少疑問を感じないでもない.
もともと古い鉄筋コンクリート造り,床も壁もコンクリ系ですごくライブな研究室,手を叩いてみるとちょっとフラッターかかったエコー,これは良いわけないとは思っていた.でもLS3/5aはそれなりに鳴っていたし,なにより「仕事場」である研究室に手を加えるのには抵抗があった.でも,最近部屋の古い床に張られたタイル状のものが接着剤の経年劣化でやたらに剥がれる.A7Tのセッティング時にもスパイクに引っ掛けて何枚も剥がし,ボンドで貼っていたがもうきりがない,上になにか敷いてしまおう,と思った.つまり音響対策というよりは床の剥がれ対策.
早速ホームセンターに行ってカーペットを買ってきた.別に何でもいいわけだから,ほとんど一番安い7980円の奴だ.遊びに来ていた息子と2人でカーペットを敷き,スピーカーやソファーをその上に配置して音を出してみた.あれ?全然キンキンしないぞ.それに,全体に少し音量が下がったような感じ.これは私の経験では良い傾向.そのあとかけてみたLPもCDもどれもこれも巧く鳴ること.客観的に言ってこの1年間の機器総とっかえと同等か,それ以上の改善.とにかく音が柔らかく,つながりが良くなって,ATCのエージング不足もそれほど気にならないのだ.音が良くなったのだから良いけど,カーペットにかかった費用は7980円,LINNシステムやATCは.....まあ考えないことにしよう.音は良くなったんだから.しかし「オーディオは最後は部屋」っていうけど,どうも「最初から部屋」だよ,これは.
サウンドマック大黒さんから「コントロール系とパワーの電源を分けてみたら」という示唆を受けてはいたが,研究室でオーディオに使えるアース付きコンセントは一つだけ,他の壁コンは古い配線でアースもない.それでもオーディオはなんでもやってみるのが鉄則,古いベルデンのタップを改造してアースを外に出し,パワーアンプの電源を古い方の壁コンからとってアースだけ他の機器のタップに落とした.どうもピンと来ない音,前の方が良かった? しかしオーディオはやる時はやれるところまでやるのが鉄則,まだあきらめないで壁コンのユニットを前に大黒さんからもらった松下電工製医療用3Pに交換してみた(アースは浮いている).これは効いた.明らかに前より安定感と密度が増したので,それ以来そのまま.部屋にコンセントがいくつもある人は,プリやCDとパワーの電源を別々のコンセントから取ってみるべし.
11/3,畜大院生のオーディオマニア後藤君が愛用のスピーカー「Acoustic Labo Bolero」を持って(!)来訪.我がシステムに評判のボレロをつないで聞く機会を得た.とにかく何を聞いても良く歌うスピーカー,そして色気.フランス・ギャルを聞いて「これは抜ける!」と叫ぶ私に後藤君の複雑な表情(笑).こういうスピーカーも欲しいなあ,と本気で思った.もちろん,そのあとLS3/5aに戻したら「あー,俺はやっぱりこういうクールなスピーカーが良いのかなあ」と再び納得するわけだけど.
一方,電源ケーブルを交換して比較してみるとCDもアンプも附属のケーブルの時がいちばんよく鳴る.というわけでQUADに使ってたぶっとい電源ケーブルはお蔵入り.さすがLINN.
QUADが(実質的に)戦線離脱してしまった今,古き良きブリティッシュオーディオの精神を受け継いでいるのは結局スコットランドのLINNだけといえる.小型で地味・質素な外見に,自然で控えめながらよく聞くとオーディオ的にも優れた音質,これらの特徴は昔はQUADのお家芸だったはず.しかしLINNのアンプたちのこの質素な外見.各5万円といっても十分通るだろう.実際の値段は.....まあ最近稼がせてもらった印税はみんな消えました.
最初に届いたのはラインケーブル(Linn Interconnect)である.値段の割には細い,華奢なケーブルで拍子抜けしたが,しなやかなケーブルは好感が持てるし,プラグもとても良くできている.さっそくCD〜プリ間とプリ〜パワー間,これまでの「MonitorPC」ケーブル(これだって一組1万円以上)と交換してみた.はあ〜,深いため息,オーディオっていったいなんなのだ.これまで美観を損ねるぶっといケーブルで取り回しに苦労していたのはまったく無駄だったのか,もうやんなっちゃう,という音.レンジが伸びたとかどうとかいう次元ではない,音場全体がごく自然なたたずまいになって,これまでまったくイヤな音でしか鳴らなかったいくつかのCD(クレンペラーのベートーベン東芝旧版など)がふつうに聴けるようになった.これはすごい.
これはSPケーブルも換えたらさぞかし良かろうとまた注文.うちのLS3/5aはバイワイヤリングしているのでバイワイヤ用のケーブルに純正のバナナプラグで加工してもらった.ラインケーブルとは違って今度は真っ黒なゴムホースと見紛うようなぶっといのが届いてまたビックリ.ところが,結果は期待したほど良くならなかった.たしかに細かく聞けば改善されているし,ラインの時の変化と同じ方向で変わってはいるけど,まだどうもなあ,という感じだった.まあそのときは風邪で耳の調子もよくなかったし,エージングも必要だろうとそのままにしていた.
その後ずっと忙しかったのが,最近になってなぜかちょっと時間ができたので,気になっていた部分を手入れした.SPケーブルが届いたときバナナプラグがメッキされてない無垢で,ちょっと汚れて見えたのだが「こういうものなのかな」とそのまま接続していたのだ.思い切ってパワー側の端子やスピーカー側の端子を含めてSPケーブル接続系すべてをきちんとクリーニングしてみた.ああ,もっと早くこれをやれば良かった....
オーディオマニアの皆さん.接点クリーニング(私はこれを「ターミナルケア」と呼ぶ)は大切です.サボらずやりましょう.クリーニング後の音はまさに私がこのSPケーブルに期待していた音.あくまでも自然でレンジ感などは控えめだけど,伸びるべき高低域はきちんと伸びている,そして音場は深く「高く」広がる.なにより演奏者の息づかい,力みやフッと息を抜く瞬間がきちんと聞こえてくる.フォルテの後のピアノの音を弾き始める瞬間に,そっとブレスしてあくまでも丁寧に弓を動かす,という感じがこれまでになく伝わってくるようになったのだ.ウソみたいだけど本当.
レコードやCDの「録音の良し悪し」というのはほんとにわからない.それまで最低の録音だと思っていたものがオーディオが改善されると俄然良くなったり,気に入っていた録音が良いオーディオでは不自然に聞こえたり.でも,基本的にはオーディオを良くするということは,どんな録音でも楽しく聴けるようにすることだと思う.金をかけるほど録音の粗が目立って来るようなことでは私は困る.新しいケーブルになって,古いモノやSP復刻のレコードがますます楽しめるようになった.もしあなたがそういうオーディオを志向しているのなら,国産やアメリカ製の成金ケーブルはすぐに捨てて英国製品,とくにリンの製品をぜひ試してみるべきだと思う.
ニッティ・グリッティ(Nitty Gritty)のレコードクリーニングシステムというのを買った.各種ある中でかなりローコストのものを買ったのだが,機械が289ドル,アメリカ(NVI Classics)からの送料が75ドルかかってまあ邦貨四万円強か.LPレコードを機械に取り付けて附属の洗浄液を塗布,手で回しながらビロードブラシでこする.その後洗い出された汚れやゴミとともに洗浄液を電動バキュームで吸い取り乾燥させるという仕組み.もっと高価なタイプになるにしたがってこうした作業が徐々に自動化される.半信半疑だったが効果は劇的,スクラッチノイズが減るのはもちろん,全体に暗騒音みたいのが減少して「聴感上の」SN比が向上する.それだけでなく再生音の分離や純度も改善されて,まさにオーディオ機器をグレードアップしたような感じ.これまでレコードを洗剤で洗ってみたりアルコールで磨いてみたりいろいろやって,洗って汚れ(あるいはレコード材料からの析出物)を取ると音が良くなるということは漠然とわかっていたけれど,どの方法でもここまでの効果はなかった.世の中にはまだまだ俺の知らないすごいものがある.アメリカにはかなわない.(ただし,バキューム吸引時の騒音は驚くべきもので,夜間や人のいるところでの使用がはばかられるのが玉に瑕.また,洗浄効果は汚れや傷の程度や種類によって異なるし,レコードの摩耗が原因のノイズ等には効果がない.)
問題はこの値段.やっぱり普通の感性ではいまどきレコードを掃除するだけの機械に4万円は出せないだろう(上位機種は実に10万円以上).でも,古いレコードをそれなりの出費で大量に集めている人間にとって,この値段は決して高くない.音が良いという初回プレスとかオリジナル盤とかを何千円,ときには何万円も出して買ってはみたものの,どうもあまり良い音で鳴らない,ノイズがひどくて聞けないなんて時には洗浄がいちばんとは知っているけど,失敗して傷を付けたり,レーベルが傷んじゃったりするのが恐い.で,せっかくの逸品がお蔵入りになるなんて経験はコレクターなら誰でもある.そういうレコードがこの機械でかなり高い確率で,それも非常に安全に復活する.また,最近は中古市場も成熟して珍しいレコードも汚れや傷があるとけっこう安く買える.傷はともかく汚れはこの機械でかなり取れるから,安く買ってきちんと楽しむこともできる.ある特殊な状況にある人間にとってはこんなに経済的な機械はないのだ.
こういうアクセサリー系のもので音を良くするのが好きで,ずいぶん金を使ってきた.電源ケーブル類などは万円単位だし,冷静に考えればそういうものに長年使ってきたお金を合わせればマークレビンソンのアンプくらい買えるかもしれない,いや,間違いなく買える.でも周辺をきちんと整えないレビンソンより,うちの(ほとんど過保護気味の)クオードの方がきっときちんと鳴っている.そういうお金の使い方が私は好きだ.
仕事も意外と忙しく,自動車学校へ行ってることもあって聴くだけでいじれなかったオーディオ,昨日今日と時間を見ていじっている.まず,スピーカーの間にあった大型テレビとビデオを移動,スピーカーの間に空間をちゃんと取った.スピーカーケーブルのあまった部分を切って短くした.どちらもオーディオ基本だけど,なかなか手が着けられなかったことだ.さて,音はよくなったか? 4月からこつこと調整していたセッティングがすべてご破算になったので,また一からやり直しになっただけ.でも,これを詰めていけば必ず前よりよくなる.忍耐と努力だ.ところで前回に書いたサウンドマックのLINNケーブル使用テーブルタップだけど,特注したかいあってとっても丁寧な作りの音のよいものが届いた.外部アース端子がないのが玉に瑕だけど,その旨メールしたら端子のパーツと取り付け用の高級ハンダをすぐに送ってくれた.忙しくてまだアース端子はつけてないけど,お客としてショップにちゃんとした扱いをしてもらえるのは心温まることだ(それは当然のことだけど,最近はあまりお目にかかれないのだ.Thanks>大黒@サウンドマックさん).