このページでは,私の大好きなカメラ「オリンパス35DC」について紹介します。
オリンパス35DCはオリンパス光学から1971(昭和46)年に発売された,距離計連動,プログラムEE式のコンパクトカメラです。発売当時の価格は28800円だったとのことです。当時の大口径レンズ競争に呼応して,このカメラにも豪華なF.ZUIKO 40mm F1.7のレンズがついています。また,プログラムEEと電気式フラッシュマチックの採用により,ユーザーはフィルムを巻き上げ,ピントを合わせる以外すべてをカメラに任せて撮影することができます。
使ってみると,まずレンズの素晴らしさにびっくりします。カリッとした描写で本当によく写るし,ズイコーレンズ独特のパステル調の色乗りも魅力的です。それだけでなく,コンパクトながらずっしりと質感の高いボディー,そして「シュコーン」という独特のシャッター音もすてきで,本当に持っていて,撮っていて気分のよいカメラです。個人的には,フィルムが分割巻き上げできることも気に入っています。撮りながらジコジコジコと数回に分けてフィルムを巻き上げるのが好きです。これはOMシリーズ(オリンパス製の一眼レフ)にも共通した美点(?)ですが,不思議なことに同時代のオリンパスのコンパクトカメラでも35SP/UCなど分割巻き上げできないものもあります。こういうことって何を基準に決められているのでしょう。
左の写真は前期型で,レリーズボタンが金属製の銀色であること,ファインダー接眼窓の周囲にバッテリーチェックボタンがまだなく,シンプルな造りであることが特徴です。
左の写真は後期型(BC)です。レリーズボタンが黒いプラ製になっていること,ファインダー接眼窓のとなりにバッテリーチェックボタンとLEDが取り付けられていることが外見的な特徴です。また,BLC(逆光コントロール)ボタンも金属製からプラ製に変更されています。後期型の最初の出荷の個体には,カメラ前面セルフタイマーレバーの横あたりに「BC」と書いたシールが貼られているものがあります。(ボディ皮の肌理が違うのは後期型は別の皮に張替えたせいです。オリジナルの皮は初期型も,後期型も,そしてOMシリーズにいたるまでまったく同じものです。)
初期型と後期型では,底カバーの形状も違います。初期型(写真上)では巻き戻しボタンの隣に「F」と書かれた灰色のボタンがあります。これは,強制的にフラッシュマチックモードにして,フィルムの巻き始めにレンズキャップを閉めたままシャッターを切っても,露出不足でロックされないようにするボタンです(取説の表現からみてFreeのFであるようです)。後期型(写真下)ではこの機能はバッテリーチェックボタンが兼ねるようになったので,ボタン自体が消滅しています。
裏蓋の形状にも違いがあります。初期型(写真上)では,フィルムのパトローネ押さえとして金属板が取り付けられていますが,後期型(写真下)ではそれがなくなり,厚手のモルトスポンジが貼られているだけになります。細かいところを見ると,ボディー側で裏蓋をロックする部分も,初期型では金属製のユニットになっているのが,後期型ではロック金具など強度を必要とする箇所以外はプラ製となっています。全体に,金属パーツをプラ化してコストダウンを図っているのが後期型の特徴です。1974年発売の後期型は33800円とかなり値上げされているのですが,その間にはオイルショックによるインフレがありましたから,材料費の高騰は相当なものだったでしょう。
トリップ35など長年製造されたオリンパスの他のカメラを見ても,この時期にはプラ化によるコストダウンが目立ちます。その結果同じ機種でもいろいろなバリエーションが生じているのはコレクション的には面白いものです。
OMシリーズ用のケースも同様で,10年ほど前に新品で買った合皮のケースはボロボロになってしまったのに,中古のOM-1についてきた本皮のケースはまだ健在です。まあそんなに長持ちする必要はないのかもしれませんが。
新品に付属していたストラップは合皮製のシンプルなものです。安っぽいけどしなやかで使いやすいストラップです。ストラップは普通のリングではなく,三角形の金具とプラ部品が組み合わされた独特の耳輪によってカメラに取り付けられています。
(04/10/06追記)最近入手したOM-1初期型用の革ケースにも,これとまったく同じ合皮製のストラップが付属していました。どうもこの頃のオリンパスカメラ共通のストラップであったようです。
オリンパス35シリーズの他のカメラと同様,35DCにも専用のフードが用意されています。かぶせ・ネジ止め式で金属製の非常にしっかりしたフードです。普及機のDCにこんな立派なフードを用意しておきながら,当時の高級機である35SP/35UC用のフードはプラ製のひどく安っぽいものです。オリンパスは不思議な会社です。
使わない時には2枚目の写真のように反対向きにレンズにかぶせ,ケースに収めることができます。
うれしいことに,この純正フードの新品をネットオークションで2個も入手することができました。実はこのフードはOM用の標準,広角レンズでも使うことができます。OM純正がゴムの安っぽいものなので重宝します。
コーティングが進歩した現代のカメラではフードはそれほど重要ではないかもしれませんが,35DCのようなセミクラシックカメラでは,晴天時にはフードが必須です。サービスプリントで見てもはっきりわかるほど,写りが違います。なお,49ミリ径のねじ込みフード,51ミリ径のかぶせフードであれば他社製品でも35DCに使うことができますが,ファインダーや距離計像がケラれないものを見つけるのにはちょっと苦労すると思います。
いずれにしても電池がないと使えないので,水銀電池の製造中止は深刻な問題でした。35DCには水銀電池H-D(MR-9)1.35Vを1個使います。水銀電池が入手できないのに35DCを使う方法としては,SR-44などの酸化銀電池をアダプターを介して使う方法がありますが,このアダプターが結構な値段で,オークションで35DCが1台買えるほどします。また,海外のメーカーがH-Dタイプのカメラ用空気電池を発売していますが,これも1個1000円近くします。
最近になって,ドイツ製でH-Dと同じ形状のアルカリ電池V625Uがオークションや大手カメラ店で入手できるようになりました。これはアルカリ電池なので1.5Vのため,使用時に露出を補正しないといけないのと,水銀電池に比べると寿命が相当短いことが欠点ですが,値段は非常に安いので便利です。露出補正はフィルム感度目盛りを実際の感度の半分程度に設定すればおよそ適正露出になります。
ご安心あれ。35DCには高度なフラッシュマチック機能がついています。まずストロボをアクセサリーシューに取り付けます。この時点でシュー内部にあるスイッチが押されて,カメラはフラッシュマチック状態になります。つぎに,巻き戻しクランク側の側面にあるシンクロスイッチを「ELECTRO.F.」側(つまり上)に合わせます。このあとが大事です。巻き上げレバーの下あたりにある黒いダイヤルを回して,その上にある窓の「GN」の数字を,使用するストロボのガイドナンバーに合わせます。写真のSUNPAK auto140ならガイドナンバーは14(m)ですから,下の段の数字を「14」に合わせます。このとき,ストロボ側のスイッチを「M」または「manual」に合わせることも忘れないように。
あとは被写体にピントを合わせてシャッターを切るだけです。被写体との距離に合わせて,カメラが自動的に適正露出を決めてくれます。こうしたフラッシュマチック機能はオートストロボのなかったこの時代のカメラには一般的なものですが,このカメラではそれをシューにストロボを差し込むだけで動作させてしまい,ユーザーにほとんど意識させないことが特徴です。しかしその便利な機構ゆえにオートストロボが主流の現代ではかえって使いにくくなってしまっているのが残念。
なおメーカーのオリンパスはすでにこのカメラを修理してくれませんが,修理専門業者の中には,いまでもこのカメラの修理調整を引き受けてくれるところがあります(たとえば私は最近ここでやってもらいました)。
ボディの皮の貼り直しやモルト(遮光スポンジ)の交換くらいなら簡単にできます。このカメラの場合いちばん肝心なのは裏蓋のヒンジ部分の比較的大きいモルトです。ここは簡単に交換できます。他の部分はモルトがへたっていても光線漏れは起きにくいと思います。35DCのモルトの交換や(どうしてもやるというならば)清掃や調整などを自分でやりたい場合には,ネット検索してみると実にたくさんの参考になるページを発見できます。便利な時代になったものです。