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SMEアームのラテラルバランスの簡単な調整法

SMEアームは調整の難しいアームだと思われていますが,実際には調整が多少狂っていても音質にはあまり影響がありません。インサイドフォースキャンセラーなどかけない方が良いくらいです。しかし精神衛生上はすべてきちんと調整しておきたいものです。そうした調整のほとんどはマニュアルをよく読んで時間をかければ確実にできます。

しかしラテラルバランスだけはマニュアルを読んでもなかなかうまくできません。これは,プレーヤーの水平がきちんと調整されていると,ラテラルバランスが多少狂っていてもアームはマニュアルに書いてあるようにレコードの中心や外周方向に「流れ」たりしないからです。つまり基本通りのセッティングをきちんとしている人ほどラテラルバランスの調整には苦労するのです。

ふるいSeriesIIのマニュアルにはウエイト軸をドライバーで持ち上げてナイフエッジが左右均等に持ち上がるか見る,という方法が書かれていますが,実際にやって見るとラテラルバランスをかなり移動させてもナイフエッジは相変わらず均等に持ち上がります。またこの方法はS2impや3009Rではうまくできません。

そこで,SMEアームのラテラルバランスの簡単な調整法を紹介します。これは私がたぶん20年以上前からやっている方法で,たぶんその頃雑誌や本で読んだか,誰かに教わったかしたのだと思いますが今はソースはわかりません。したがってこの方法がほんとうに正確であるかどうかは保証できません(笑)。なお,説明はいま私が使っている3009Rアームに基づきますが,3009IIやS2imp(これらは以前使っていて同じ方法で調整してましたから確実)や3012シリーズ(これは予想)でも基本的に同じ考え方で調整できます。

アームのゼロバランスをとる

まずカートリッジを取り付け,アームの高さ調整やオーバーハング調整など必要な調整をすませておきます。インサイドフォースキャンセラーがかかっていると以下の調整ができませんので,キャンセラー糸ははずしておきます。

スタイラスガードを外した状態(レコードをかけるのと同じ状態)でアームのゼロバランスをとります。ゼロバランスをとる前にラテラルバランス調整は中央(アーム軸とウエイト軸が左右方向に一致した位置)に合わせておくとあとの作業がわかりやすいです。プレーヤーの水平がとれていればこの時点でアームは静止しているはずです(多少でも水平がずれていたり,風が吹いていたりするとアームは流れますがいまは気にしないこと)。

プレーヤーの後方を持ち上げて傾ける

ゼロバランスをとったらアームを一度アームレストに戻します。そして,プレーヤーの後ろ側に厚い本や箱などを挟んで3センチか4センチ持ち上げます。これでプレーヤーはかなり傾くことになります。

アームの流れを見てラテラルバランスを調整する

プレーヤーを傾けたらアームをアームレストから離し,ターンテーブルの中間くらいまで持っていって手を離します。すると,アームはスピンドル(レコードの中心)方向か,あるいはレコード外周方向か,いずれかに盛大に流れると思います。この状態でアームが流れなくなるようにラテラルバランスを調整します。3009Rの場合,アームのシェル部分がスピンドル方向に流れる時には調整用の六角レンチ(注1)を時計方向に回してウエイト軸を左側に移動します。逆にアームがレコード外周方向に流れる時にはレンチを反時計方向に回してウエイト軸を右側に移動します。SeriesIIやS2impの場合はサブウエイトのついているロッドを左右に動かして同じ調整をします。

よほど軽いシェルやカートリッジを使っていない限りはアームは外周に流れ,ウエイト軸をアームのJ字の曲がり方向と逆方向(つまり右側)に移動することでバランスするのが普通です。なお,ラテラルバランスの調整をするとゼロバランスが微妙に移動しますので,アームが水平にならなくなったらその都度ゼロバランスを修正しながら調整します。

注1:3009/10/12シリーズの調整に用いる六角レンチ(JISでは「六角棒スパナ」)は1/16インチという汎用品で,ホームセンターなどで50-100円くらいで簡単に手に入ります。摩耗して丸くなった六角レンチはアーム側のネジを傷めますので早めに交換しましょう。同じものをSME補修部品(Hexagon Wrench Part No.3802)としてハーマンから取寄せるとCD1枚買えるくらいの値段を請求されます。輸入オーディオは恐ろしいです。

完成した状態

調整していくとアームは手を離した場所に静止するようになります。しかしアームをスピンドル近くへ持っていったり,逆にアームレスト近くへ持っていって手を離すと,そこではまだアームが流れるかもしれません。その場合はふたたび六角レンチを回して微調整します。これが済むと,アームはスピンドル近くでも,外周付近でも,レコード演奏時に通過するどの位置で手を離しても,そこに静止するようになります。左の写真はそれぞれの位置で静止しているところです(ムービーじゃないので静止している保証はないですね,笑)。

レコードをかけましょう

調整が終わったらプレーヤーを水平な位置に戻し(このとき念のため水準器で水平を確認しておくと安心),針圧をかけ,インサイドフォースキャンセラーを設定します。これでレコードを聴けます。おっとプレーヤーのスイッチを入れてターンテーブルを回転させるのを忘れちゃいけないですね。

さて厳密には,針圧をかけるとサブウエイトがラテラルバランスを調整したときより前に移動しますから,ラテラルバランスは微妙に狂うと考えられます。どうしたらいいか。どうしようもありません。気にしないことです。実際,プレーヤーの水平がとれてさえいればラテラルバランスがかなり盛大に狂っていても音質やトレース能力にはほとんど影響がありません。ベイシーの菅原さんもどこかに書いていたように,精密なように見えてじつは結構大ざっぱで「いい塩梅」が大切なのがSMEの面白さですし,私が上の方で「精神衛生」と書いたのもそういうことです。音には影響なくても,ラテラルバランスを調整してあるぞ,と思えば何となくいい音に聴こえてくるものです。

レガのアームはダイナミックバランスなのでラテラルバランスはありませんし,アームの高さ調整すらありません。これは精神衛生上かなりよくないのですが,レガの英文マニュアルには「調整する必要のある部分には調整方法が用意されている。調整方法がない場合にはそもそも調整する必要がない」と書かれています。私はこれに非常に感心しました。SMEのラテラルバランスがマニュアルを見ても正確に調整できないのは,そもそもそれほど正確に調整する必要がないからなのでしょう。しかし,私はまだそれで納得できるほど老成していないのです。



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