帯広だより
9月の初めに引っ越しました。といっても新築したとかではなく,大学の宿舎の中で別の棟に移ったのです。今度も築40年の古い家ですが,とりあえず一戸建てですし,部屋の数も前よりひとつ増えました。なにより三角屋根です。北海道に住むなら一度は住みたかった(笑)。12月になるとこの新しい(?)家に,新しい家族がひとり増えるはずです。
大学が法人になって公務員宿舎も法人の宿舎になり,それにともなって家賃も従来の2倍程度まで値上げされることになりましたが,それでも普通に考えて一戸建てに住める家賃ではない安い額です。法人になったとはいえこうしたことが国民の皆様の税負担に支えられていることには変わりがなく,たいへんありがたいことです。
とはいえ,やはりくたびれた古い建物です。また少しずつ手を入れながら住んでいこうと思います。噂では帯広市長さんがわれわれの宿舎の前を通りかかって,畜大の先生方があんなみすぼらしいところに住んでいるのはかわいそうだからなんとかしてやれないか,と学長に意見して下さったそうです。たしかにそうで,向かいにある農業高校の宿舎も同じくらい古いのに手入れが行き届いているのに対し,畜大の宿舎は屋根のペンキも色褪せていかにも貧乏くさい。まあわが国立大学法人は確かに貧乏なのでそれ相応とも言えるのですが,地域の人からあまり心配されるのもどうかなあと思います。
朝起きて窓のカーテンを開けた妻が歓声をあげた。家のまわりの木々に樹氷がついて真っ白になっていたからだ。昨日の大雪で畜大村は陸の孤島化し,官舎には郵便すら届かなかった。駐車場や家のまわりの雪かき(北海道弁では「雪はね」)でみんなくたくたになり,大学までのたった10分の道のりも雪に膝近くまで埋まって,真冬に汗びっしょりになった。そんな苦労も忘れて,私と妻は朝のその光景に見とれ,私はデジカメを持って外へ出た。雪であんなにつらい思いをしても,朝のうち,ほんの少しの間しか見られないこの美しい光景ですべて癒されてしまう。だからわれわれはこんな所にでも住み続けていられるのだろう。
帯広に来て,この畜大村に住み着いてもう3回目の冬になった。その間に二人目の子どもが生まれ,2冊の本を書き,そして畜大をめぐるいろいろなことが大きく変化した。でも冬の畜大村の景色には何の変化もない。おそらく10年前も,20年前も,30年前も,きっと同じ景色だったのだろう。畜大がこの場所で残っていけるかどうかは,実は,おなじように変わらないことにこそ価値のあるようなものをこの大学がどれだけ持っているかにかかっているのではないかとも思う。畜大にはそういうものが十分にたくさんあると思うけどね。
帯広にはいろいろいいところがあるけど,まずFM局がたくさんあること.NHK(最近クラシックがますます減ってけしからん!)は当然として,NORTH−WAVEとAIR−Gの全道ネット局に加えて,FM−JAGAとFM−WINGという2局の帯広ローカルがある.FM5局というのは私が住んでいたときの東京より多い(いまはどうなってんの?).この中でもとくにFM−WINGが私のお気に入り.古い,渋い曲がほんとによくかかる.これってCDになってたっけ?みたいなものが頻繁に聞ける.とくに日曜の夜はオールディーズから70年代くらいのポップスがCM抜きで数時間ノンストップでかかるのだ.その選曲の渋いこと.たとえば昨日かかっていたのを思いつくままあげると,「ビューティフル・モーニング」(もちろんラスカルズ!),「ガルベストン」(グレン・キャンべル),「ボーンフリー」(唄はシナトラ,そういえばマイウエイもかかった.シナトラ死んじゃったんだなあ),「サマータイムブルース」(ブルーチアー),フランス・ギャルやキンクスもかかったな.帯広恐るべし,あれだけの選曲をできる人がこの「イナカマチ」の中に確かにいるのだ!
東京ではふつう「自動車教習所」っていうけど,北海道では「自動車学校」,略称「シャコウ」ということが多い.学校が少ないからだろう(?).たいへんだよ,いじめられるよ,とさんざん脅されたけど,いまのところ先生方はみな紳士的だし,とくに嫌なことはない.

当然,文化生活の便は悪い.帯広市街地にはバス以外の交通手段はないがそれも1時間に1本,車がなければどこへも行けません.最低限の生活必需品は大学生協で買えますが,生協以外には全く店はありません.徒歩10分以内には自動販売機すらないのです.でも,大学に来れば高速なネットワークで世界に繋がってるんだから,CDでも何でも通販で買えばいいし,情報も都会と変わりません.便利な世の中になったねえ.